第28話 F級の僕は、もっとレベルを上げたいと願う


5月14日 木曜日4



モンスターと二三回戦うと、僕は、このダンジョンの中で遭遇する彼等の動きを完全に読めるようになっていた。


また一匹、大人の人間ほどもある巨大コウモリのモンスター、キラーバットが現れた。

僕は、ヒラヒラ舞いながら襲い掛かってくるキラーバットを、無造作に切り裂いた。


―――シュパッ!



―――ピロン♪



キラーバットを倒しました。

経験値1,122,300を獲得しました。

Eランクの魔石が1個ドロップしました。

キラーバットの翼が1個ドロップしました。



………

……



―――ピロン♪



ヘルハウンドを倒しました。

経験値3,787,700を獲得しました。

Eランクの魔石が1個ドロップしました。

ヘルハウンドの牙が1個ドロップしました。



………

……



結論から言うと、N市笹山第十三ダンジョンのモンスター達は、今の僕には、“弱すぎた”。

2時間ほどで、僕は、ヘルハウンド18頭、キラーバット23匹を倒す事に成功していた。

僕のHPは、1すら減っていない。

せっかく持ってきた神樹の雫だったが、今日、出番は無さそうだ。

その後、さらに、30分程探索してみたが、モンスターは姿を見せなくなった。

狩り尽くしてしまったのだろうか?

ここ地球のダンジョンは、例え狩り尽くしたとしても、早ければ数時間、遅くとも1日程度で、また、モンスターがどこからともなく湧いてくる事が知られていた。

しかし、言い換えると、数時間以上待たないと、もう、N市笹山第十三ダンジョンでモンスターと戦う事は出来ない可能性が高い、と言う事だ。


僕は、壁際の手頃な岩に腰かけて、改めて自分のステータスを呼び出した。



―――ピロン♪



Lv.43

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+42)

知恵 1 (+42)

耐久 1 (+42)

魔防 0 (+42)

会心 0 (+42)

回避 0 (+42)

HP 10 (+420)

MP 0 (+42)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】

装備 魔族の小剣 (攻撃+100)

   エレンの衣 (防御+500)

効果 物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)



指でそっと自分のレベル表示に触れてみた。

説明文が表示される。


『次のレベルまで、あと5,153,911,616の経験値が必要です』


……このダンジョンのモンスターを狩り続けても、レベルを上げるには一生かかりそうだ。

やっぱり、ウォーキングヴァイン以上のモンスターと戦わないと……


そこまで考えて、自分の考えに苦笑してしまった。

エレンの影響であろうか?

いつの間にか、僕自身、レベルをもっと上げたいと思っている事に、気が付いてしまった。

つい一週間前には、絶対に勝てなかったはずのモンスター達。

レベルが上がった今は、易々と切り裂くことが出来た。


このままレベルを上げ続ければ、こんな僕でもいつかきっと……


僕を常に馬鹿にしている佐藤や、去って行った“元”友人達の顔が目に浮かんできた。


少し気分が悪くなってきた僕は、気分を紛らわせようとして、わざと独り言を呟いた。


「今日は帰ろうかな……」


僕は、リュックを背負うと立ち上がった。

背中のリュックがずっしり重い。

最初に持ってきた荷物に加えて、Eランクの魔石41個とヘルハウンドの牙18個、キラーバットの翼23個もリュックの中だ。


ヘルハウンドの牙とキラーバットの翼、大量に手に入ったけど、これ、どうしよう?


ここ地球では、モンスターを倒しても得られるのは、魔石のみ。

モンスターから魔石以外の何かがドロップした、という話は聞いた事が無い。

当然、今日僕が入手した品々を買い取ってくれそうな心当たりも無い。

とは言え、この場に放置しておいて、あとからやって来る人が見付けたら、きっと何か問題が発生する。


異世界イスディフイなら、買い取ってくれるかな?


僕は、重いリュックを背負って、ダンジョンの出口へと向かった。



外は、すっかり暗くなっていた。

しかし、幸いな事に、ダンジョンに潜る前に降っていた雨は、一旦、上がったようであった。

僕は、サンタクロースの如く膨れ上がったリュックを背負ったまま、スクーターに歩み寄ろうとして、ふと立ち止まった。


さすがに、これほどの大きさのリュックを背負ってスクーターで街中走っていたら、相当目立たないだろうか?

今日は、勢いで、申請無しにダンジョンに潜ってしまった。

それに、背中のリュックには、他人に見られたら、色々説明に困りそうな品々が入っている。

少々神経過敏になっていた僕は、荷物を複数回に分けて運ぶ事にした。


僕は、結局、3回往復して、荷物を全て自分のアパートの部屋に運び込んだ。

気が付くと、時刻は既に、午後11時を回っていた。



5月15日 金曜日1



目覚まし通り、朝7時に起床した僕は、焼いた食パンにバターを塗ってかじりながら、スマホで、今日潜る予定になっている、N市黒田第八ダンジョンの情報をチェックしていた。

僕は、ここには潜った事は無い。

しかし、確か珍しく、住宅地のすぐ傍にあるダンジョンだったはず。



■ N市黒田第八ダンジョン

等級;C

大きさ;大

出現モンスター;デビルグラスホッパー C級、ダークスパイダー C級、キラービー C級

入場者;閉鎖中

入場予定者;均衡調整課、A級、B級、C級、F級

更新時間;07:10



「あれ? C級ダンジョンなのに、A級が参加する?」


A級は、S級に次ぐ実力者達で、日本全国でも70人余りしかいない希少な人材だ。

いくらスタンピード目前とは言え、C級ダンジョンに、A級が参加するのは、やや不自然な印象を受けた。

入場予定者の等級欄をクリックすれば、その等級の参加者がリストアップして、表示される仕組みになっている。

僕は、興味本位で『A級』をクリックしてみた。


安藤あんどう洋二ようじ 男性 28歳 A級魔法アタッカー』


名前だけは聞いた事がある。

確か、凄まじい火炎魔法の使い手だとか。

C級のダンジョン内のモンスターを、一人で殲滅した事もあるとか。

僕等の県内には、S級は存在しない。

故に、彼は、県内最強と言って過言ではない。

僕のような底辺が、一生、関わる事の無い存在だ。


「他の入場予定者ってどんな人達だろう……」


B級は4人。

タンクの男性と魔法アタッカーの女性、それに物理アタッカーの男性二人。


そして、C級は……

C級は、40人参加するようだ。


「結構、大掛かりなんだな……」


リストの中には、何人か知っている名前もあった。

そして、その中に、『佐藤博人』と『関谷詩織』の二人の名前を見付けた僕は、複雑な気持ちになった。


「まあ、僕は単なる荷物持ち。あの二人とそうそう絡む機会も無いはず」


自分にそう言い聞かせながら、最後に、F級をクリックした。

僕を含めて、12人。

彼等は、確実に、僕と同じく、荷物持ちとして参加するのだろう。

同じF級同士でも、僕には良い思い出は一切無い。

F級のほぼ全員が、いつも何らかの形でいじめや差別を受けている。

常日頃うっぷんを貯めているF級達にとって、僕は、唯一、彼等、彼女等でさえも優越感を感じられる最弱のステータスの持ち主だ。

なので、僕に仕掛けて来るいじめの陰湿さも、ある意味F級が一番酷かったりする。


一通り、今日のダンジョンの概略を頭に入れた僕は、着替えると、いつものリュックを背負って、部屋を出た。


N市黒田第八ダンジョン入り口近くの駐車場には、8時40分頃到着した。

周囲には、既に、大勢の人々が集まっていた。

駐車場には、仮設のテントがいくつも設営されていた。

その中の一つ、幌に『均衡調整課 本部』と大書されたテントの中から、いち早く僕を見付けたらしい更科さんが、手を振っているのが見えた。

僕が近寄ると、更科さんから挨拶してきた。


「おはようございます、中村さん。今日は宜しくお願いしますね」

「更科さん、おはようございます。なんか、いつもと雰囲気違いますね」


彼女は、茶色の革製の、動きやすそうな防具を身に着けていた。


「久し振りのダンジョンですから。とは言え、今回は、私達均衡調整課は、ダンジョンには潜らず、ここで皆さんのサポートに徹する予定なんですけどね」


僕等が話していると、向こうから四方木さんが近付いて来た。


「中村さん、今日はご参加頂きまして、助かりました。いや~、急に一人F級の方が来られないっていうもので、困っていたところなんですよ」

「僕の方こそ、誘って頂きまして、ありがとうございます」

「そうそう、他の皆様には事前にお伝えしてあったんですが、班分け表、まだお持ちじゃないでしょ? 説明しますんで、こちらへお越し下さい」


僕は、四方木さんに続いて、本部テントの中に入って行った。


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