43.怒れる三人

「狂気には狂気で対応するしかねぇな」

 沖田がかなりいっちゃってる眼をして呻いた。

「まったく。これが同じ人間のやることかよ」

 小坂が井上真改一尺六分七寸の銘刀をカチャリと鳴らす。

「あんな巨乳美人を俺に撃たせやがって。モンチッチぶっ殺す」

 珍しく冷静さを欠いた吉川が低い声で言った。

 見交わす目と目。革命後の内乱状態にあり、圧政と虐殺が横行するエメトリアで完全に鶏冠に来た日本の男子高校生三人組。

 公園内の広場に設置された処刑場で柱にワイヤーでくくり付けられ、そのまま息絶えた遺体を泣きながら降ろす子ども達。

 遺体の周りには、打ちひしがれた家族がその周りを取り囲み膝をついて絶望に暮れる。

 まだ息のあるものは、レジスタンスの息のかかっている病院へと運ばれたが、その後まもなく死亡する者も多かった。

 広場に並べられた遺体にはシートがかけられ、献花とろうそくが灯されていた。

 革命軍の再攻撃が開始されるまでの短い時間で、処刑場に磔にされていた遺体と生存者の回収を終えたレジスタンスと沖田達は、今だ革命軍が実効支配を行えていないレジスタンの支配地域にある根拠地の一つで作戦会議に加わっていた。

 カミラと呼ばれるレジスタンスのリーダーはエリサの従兄弟で、女王の近衛兵団の一員だった。

 国境付近の秘密基地でレジスタンスと一部の反革命側のエメトリア軍と連携をとっている女王だったが、今は連絡がとれないらしい。

 沖田達の事はフォークに連行されてから行方不明になったとの連絡が最後にあったらしい。

「では、作戦の最終確認を行うぞ」

 リーダーと言ってもカミラも沖田達と年齢的には変わらない。レジスタンスのほとんどが十代で、他はサポート役の年寄りばかりだ。

 それでもカミラ達は、女王の近衛兵団予備役であり、年に数回のミリタリートレーニングを受けている。その落ち着いた態度と指揮能力の高さは、端から見ている沖田達にも良くわかった。

 作戦は二方面作戦を予定していた。

 まず、沖田とカミラの別働隊が脳科学研究所を急襲。内部の反革命派と呼応して研究所を占拠。エリサを始めとした、捕らわれている能力者達を救助して部隊を編成して立てこもる。

 革命軍がそちらに注意を向けている間に、王宮内にある革命軍総帥のトラディッチとその側近達を本体が急襲する手はずだ。本体を率いるのはカミラの弟のアルベルトだ。

 別働隊の指揮をカミラが執るのは、脳科学研究所にあたる部隊の人数も少なく、人質を取られている分、難しい判断が必要とされる場面を想定している。

「沖田は本隊の方が良いんでないかい?」

 何かと暴走気味の沖田を心配して、吉川が言った。

「お姫様を救い出すのは、ナイトの役目だろう」

 不適に笑ってみせる沖田。

「そのポケットに仕込んでいる小さい花とか、糸に繋いだ国旗とか、やってる暇はないと思うぞ」

 新宿の映画館でリバイバル上映された「カリオストロの城」をエリサと二人で見に行っていたことは、吉川達メンバーには既にばれている。

「お前らなんで知ってんだよ」

「そりゃあ、つけてくれとばかりに、いそいそと出て行くからさ」

 と吉川。

「いやぁ、手を繋ごうとして二人でハッてなっちゃうところとか、もう見てらんなかったよなぁ」

 とニヤニヤしながら、これは小坂。

「おまえら、一度頭に風穴空けてやろうか」

「やれるもんならやってみろよ」

 実弾の入った銃と本身の刀でやり合おうとする三人に、

「やめんか、馬鹿者ども」

 カミラが割って入る。

「そういえば、おっさんはどうしたん?」

 カメラマンの竹藤がいないことに沖田が気がついた。

「市内の病院に付き添っていったぜ。なんでも最初に先行している他国のメディアスタッフと連絡をとりにいったらしい」

「国内から海外に配信する方法が現在すべて革命軍の監視下だ。彼らの取材の一部でも西欧諸国に配信されれば…」

 吉川が続けて、カミラが応える。

「そいつはどうだかな」

「?」

 ぼそりと沖田が言い、カミラが怪訝な顔をする。

「自国の利益にならないことは、民主国家だろうがなんだろうが手を出さないのが今の世だよ。それで散々な目にあってきた」

「お前達はいったい…?」

 両手を腰に挙げて呆れたような仕草をする沖田。

「あのおっさんの素性洗えたか?」

 吉川がカミラの質問に割って入った。

「まだ連絡入ってないねぇ。隆介が色々、メディアと政府にいる先輩方にあたっているみたいだけどね」

 小坂が大きめのトランシーバーを振ってみせた。

「そろそろ、時間だ」

 エメトリア国民軍の陸戦装備を身にまとったアルベルトが声をかけた。

「君たちは、その格好で行くのか?」

 沖田はルパン、吉川は次元、小坂は五右衛門のコスプレの格好のまま、各々得物の装備している。

「まあ、こういうのはノリが大切だからね」

「市街戦用の戦闘服かなんかが妥当なんだろうけどな」

「拙者はこれで十分」

 困ったアルベルトがカミラを見ると、諦めたように上目遣いで両手を挙げた。

「まあ、俺らは戦争しに来たんじゃないからね」

 沖田が笑って二人に応えた。


To be continued.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る