11.エリサの憂鬱

「なんですってぇ!!!」

 マユミが机を叩いて立ち上がった。

 取り調べから帰った智子が顔を真っ赤にして唇をかみしめている。

「そんなことってあるの!」

 激しく憤るマユミのただならぬ様子にクラス中が一斉に彼女達を見つめた。

 警察の事情聴取、実際は外事五課のスタッフの尋問は、教員室横の視聴覚室内をパースで区切った個別ブースで行われていた。

 寮の同室だったマユミ、智子も一時間毎、数回にわたって尋問が行われた。

 ロシア側の工作員が襲撃した際の状況、エリサがどこへ行ったか等、同じ質問が言葉を換えて繰り返されるた。

 警察の取り調べのような雰囲気に、付き添いの若い女性教師の顔も青ざめていった。

 エリサにおかしな様子がなかったかと、複数回にわたって聞かれ、エリサの能力のことを聞きたがっていると分かっていたが、マユミと智子はとぼけ続けた。

 ようやく解放され教室に戻ってきたところで、智子だけ再度呼び出された。

 制服警官2名とスーツ姿の男女1名の刑事が待っていた。同席する先生の顔が更に青ざめており、智子の恐怖を助長する。

 このままでは、エリサの亡命認定と難民認定が無効となり、国外追放になると脅される。知っていることを全部話せば、政府としても善処するというのだ。

 泣きながら首を振り続ける智子、これは半ば演技だったのだが、その様子を見て、女性教師が半ば強引に尋問を中止して視聴覚室を出たのだった。

 そのまま教室に戻りマユミに事の顛末を話したところだ。

「これは、戦うしかないね」

「だね。ぜったい許さん!」

 燃え上がる二人。クラスの連中も話を聞きに集まってくる。

 話を聞いて、皆同じように憤慨し始める。エリサのその容姿と男子人気から女生徒の中にはやっかむものもいたが、エリサのどちらかといえば男らしい言動やそぶり、サバサバとした性格で皆に平等に接する態度で、女生徒達の人気も高い。それにもともとリベラルな思想の強い学校だ。

「これは、ペンの力を使うしかないわね。ペンは剣よりも強し!」

 エリサと同じクラスの、新聞部部長、大江弘子が大きめの丸メガネを人差し指で上げて立ち上がった。

「とりあえず、その尋問の内容を詳しく教えて。今週号で大学部、高等部、中等部合同の特集を組むわ。その上で、武蔵野中高大学新聞部の全てのコネクションを利用して世論を味方にしてやる!」

 鞄からケンウッドのハンドトーキー(小型トランシーバー)を取り出すとコールする。

「こちら高梨」

 新聞部部室でさぼっていた、新聞部副部長の高梨が運悪く出てしまう。

「ぶ、部長!どうしたんです?」

 慌てる高梨に矢継ぎ早に指示を出と、自分も鞄に荷物をまとめて智子を引き連れて教室を飛び出していく。

「あ、午後の授業、代返しといてね!」

 教室を出て行きざま振り返って叫ぶ。

「私たちも手伝う!黙ってみてられないよ」

 マユミはじめ、エリサと仲の良かった生徒達が後に続いた。


To be continued.

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