第14話 御前試合

 月日が経ち、御前試合のその日がやってきた。

 御前試合では、ビームサーベル、エネルギー弾、等の武器をダメージの少ないように調整されたノーマルスーツを使用する為、負けても死に至る事は無い。女王派、議長派の各十名がトーナメントで戦い、最後に残った者が特別試合としてステラと闘う事が出来るのである。

 若き戦士達は、憧れのステラと手合わせしてもらえるというので、予選試合は大いに盛り上がった。予選を勝ち抜いたメンバーを見ると、女王派は若手中心で、議長派は中堅の実力者が名前を連ねていた。

 女王アンドロメダが入場して貴賓席に座ると、御前試合の幕が開いた。

 第一試合に出場したユウキは、勢い込んで試合に臨んだのだが、支給された戦闘スーツは、エネルギー弾の照準がずれていて、俊敏に動こうとするとエンストを起こす、ポンコツだった。

「くそっ、何なんだ!?」

 ユウキは、一瞬心を乱したが、すぐに冷静さを取り戻した。彼は、今の状況を瞬時に分析すると、飛ぶ事を止めて地上に降り立った。動きの悪いスーツで動き回るよりは、地上で相手の攻撃を防ぎながら、チャンスを待とうと思ったのである。

 ユウキは、空からのエネルギー弾の攻撃を、走り回って避けながら、エネルギー弾で応戦した。最初は外したが、少しづつ誤差を修正してゆくと、エネルギー弾が相手を捉えだした。

 そんな戦いが暫く続くと、相手はしびれを切らしたのか、ビームサーベルを翳してユウキ目掛けて突進して来た。

 ユウキは何を思ったのか、上空から猛スピードで突っ込んで来る相手が、眼前に迫った瞬間、戦闘スーツを脱ぎ捨て、素手でサーベルを握り直すと、振り下ろされた相手のサーベルを、飛び上がり様に跳ね上げ、返す剣で叩き落とさんばかりの渾身の一撃を、相手の後頭部に加えた。相手は、そのまま地上に激突して動かなかった。

 それは、一瞬の出来事だった。戦闘スーツを脱いで、素手にサーベルを持ったユウキの姿を見て、観客はどよめいた。

「勝者、ユウキ少佐!」 

 アナウンスが流れると、歓声が上がった。

 ユウキは、審判を務めるレグルスの所へ行くと、訳を話しスーツを調査するよう頼んだ。

「やはりそうでしたか。私も不審に思ったので、既に女王派の使用したスーツを調査しているところです。すぐにも判明するでしょう。それにしても、ユウキ殿の身体能力は凄いですね、人間の動きとは思えません。次の試合は新しいスーツと交換しますから頑張ってください」

「ありがとうございます」 

 女王派のメンバーの纏うスーツは一様に動きが鈍く、一回戦を終わってみると、女王派で残ったのは、ユウキ一人だった。

 デネブは、二回戦から、ユウキのスーツが普通に動いているのを、不思議そうに見ていた。それは、女王派のスーツに工作したのは、他ならぬデネブの指示によるものだったからだ。

 戦いは進んで、ユウキとデネブが順当に勝ち上がり、決勝戦は二人の対決となった。

 決勝戦の前の待機時間に、ユウキの元にサルガスがやって来て、耳打ちした。

「女王派のスーツからウイルスが検出された。恐らく、デネブの仕業だろうが、まだ確証は出ていない。負けるなよ」

 デネブと対峙したユウキは、「こいつがステラをいじめた奴か」と、彼を睨みつけた。デネブは、スーツを無力化する作戦が失敗したにも拘らず、ユウキの前で不敵な笑みを浮かべていた。

「大佐、色々汚い事をしているみたいですが、そんなに、自信が無いんですか?」

 ユウキが、皮肉たっぷりに言うと、

「黙れ! 勝ってからほざけ!」

 デネブの鉄拳が、ユウキのマスクに炸裂し、数メートルも飛ばされてしまった。速くて重いデネブのパンチ力に驚く間もなく、倒れたユウキに向かって、尋常でないパワーのエネルギー弾が容赦なく打ち込まれた。デネブは、ルールを破ってスーツの性能を勝手に上げていたのだ。

 スーツの性能が違いすぎて、まともに戦っても勝ち目はなく、ユウキはデネブの執拗な攻撃から逃げるしか無かった。

 彼は戦いながら、どうすればノーマルスーツで最高の力を出せるかを考えている内、全速力の飛行から体当たりすれば、相手にダメージを与えられるのではないかと思い至った。

 既にユウキのスーツは、デネブのエネルギー弾を受け過ぎて、限界を越えようとしていた。ユウキは、この一撃に勝負を賭けるしかないと、気合を入れた。

「負けてたまるか!!」

 加速したユウキは、デネブの攻撃を必死にかわしながら、間合いを取り、威嚇弾を放つと、身体をスクリューのように回転させてデネブ目掛けて突進した。

 「何!?」デネブがエネルギー弾で応戦して来て、限界を越えたユウキのスーツは悲鳴を上げたが、構わず突っ込んだ。

 「ウグッ」ユウキの体当たりを真面に受けて、デネブは呻き声をあげて弾き飛ばされた。ユウキが透かさず、彼の顔面に至近距離からエネルギー弾を炸裂させると、デネブはのけ反って動きを止めた。更に、ビームサーベルを抜いて、デネブの顔面に止めの一撃を打ち込むと、本来壊れるはずもない、デネブのマスクにピシッとヒビが入って、彼は落下していった。

 ユウキが降り立ち、倒れたデネブのマスクをしたたか蹴りつけると、マスクが壊れ、恐れ戦いたデネブの顔が現れた。

 勝負は着いて、女王派の兵士達から歓声が上がった。

 最後に、ステラと、ユウキが相対した。

「ステラ様、私が勝てば、私の妻になってくれるんでしょうか?」

 ユウキの言葉に場内がどよめいた。確かに、ステラに勝ったら、妻になるという約束は、デネブとの間で交わされていたが、その事は一部の人しか知らなかった。

「あら、私に勝てると思っているの? ……そうね、私に勝ったら、貴方の妻になってもいいわ」

 観衆は、ステラが何を言いだすのかと、唖然として見ていた。

「では、最高レベルのスーツでお相手します。力は無制限で」

 ユウキが、孔雀のコバルトブルーのスーツを纏うと、

「望むところよ」

 ステラも、新型の孔雀のサファイヤブルーのスーツを纏って、ユウキに突進した。

 二人の動きは速くて細かな動きは見えない。激しくぶつかり合うビームサーベルが閃光を走らせ、その衝撃音が時間差で聞こえて来て、無数のエネルギー弾が炸裂し、その炎が二人を包んだ。観衆は、その凄まじさに、腰を抜かす者さえあった。

「あの二人、楽しそうに戦ってるような気がしますね」

 レグルスが、微笑ましそうに隣のサルガスに言った。

「そうですかね、私にはよく分かりませんが。しかしこんな戦いめったに見れるものじゃないですよ。どっちが勝つんでしょうね」

 サルガスも、目を輝かした。

 サーベルを打ち合いながら、ステラは、ユウキがまた一段強くなったと感じていた。

「このままじゃ、なかなか決着つきそうにないわね。次の一撃に全てをかけるわよ。いい?」

「よし、来い!」

 二人は、距離を取って、空中に静止し、ビームサーベルを振りかざすと、高速で激突した。キーンという音と共に、光が二人を包んだ。次の瞬間、ステラのサーベルが弾き飛ばされ、体勢を崩した彼女をユウキが抱きとめると、期せずして大歓声が湧き起こった。

 二人は、互いの健闘を称え、固く握手をして、観衆に手を振って応えた。

 勝負はどちらが勝ったのかは、誰も口にしなかった。それを超えた感動を二人の戦いはもたらしたのである。

 御前試合は、二人の健闘で大盛況で終わった。

 後日、デネブは不正を働いた事が明らかになり、役職を剥奪され軍を追放された。

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