第110話 調子に乗りすぎましたすみません


心の中で「はははは! 馬鹿めドラゴン! 貴様など恐るるに足らず! 今すぐ空から地面に叩き落としてくれるわ! 人間の力を見るがいい!」と言ってから一分後。


「グォオオオオオオオ!」

「ひぃ!? すんませんすんません! ちょっと調子に乗りすぎたのは認めますがそんな連続で熱い熱いドラゴンブレスをしないで下さい! というかなんか前のときよりも威力強くないですかね俺の気のせいですかねいえ違うと思うんですけど色も違いますしね! でもこれ以上はもたないと言いますか二人がかりのアイギスが壊れちゃぅううう! イッちゃうから! これ以上の攻撃は皆がイッちゃう! もうイッちゃうからぁああああ! イクイクぅううううう」


 俺はアイギスを張りながら体をビクンビクン――


「――エリック! あんたうるさいわよ! 気が散るでしょう!? というか身の毛がよだつレベルの気持ち悪いこと言ってないでこの状況をなんとかするための案を考えなさい!」


 俺はミラさんにピシッ! と怒られる。

 まあ、今の発言から察せられると思うが、俺達はものの見事に連携魔術を起動――出来ずに絶賛タコ殴り状態になっていた。

 いや、経緯を説明をさせていただくとですね。「しかし、俺達の連携魔術は五秒もあれば完成するのだ! ははは! 馬鹿めドラゴン! 貴様など恐るるに足らず! 空から地面に叩き落としてくれるわ!」の一秒後に、俺の方がですね……詠唱に失敗しまして。想定していた連携魔術を起動できなくなっちゃったんですよ。流石にモンスターを剣で倒しながら詠唱なんてことは俺には無理だったようです……。まいったなぁ。

 まあ、そうは言ってもミラさんとメリッサは完成させていたものですから、その二人で連携魔術を放ったわけですよ。連携魔術は二人から撃てますからね。威力は結構弱くなりますけど。

 で、「がんばええええええ!」って感じで俺もモンスターを斬り殺しながら応援していたわけですけど、まあ、ダメだったわけですね。

 なんか突然ドラゴンさんのほうがですね、魔術障壁みたいなものを張りましてですね。連携魔術を防がれちゃったんですよ。いやー、これは予想外。モンスターが障壁を張るなんて聞いたことなかったですからね。仕方ないよね。

 で、現在、ミラさんと二人がかりでのアイギスでなんとかドラゴンの攻撃を防ぐに至ったというわけです。

 あれ? これ、詰んでね? 無理ゲーになってね?


「エリック様! なにか案はないのですか!?」


 シエナが悲痛な声を上げながら俺に聞いてくる。

 俺は俺でさっきから何とかする方法は考えてはいたのだが……


「案……ドラゴンをこの状況から討伐する案……」

『……ゴクリ……』

「……うん! 何も思い浮かばないわ」

『…………』


 みんなが押し黙る。俺は「あははは」と努めて笑い声を上げる。

 いや、正直なところいくらなんでも絶望的過ぎる。

 魔力残存量は、俺はほぼ満タンだがおそらくミラさんとメリッサはほぼ枯渇状態。よって、連携魔術は再度使えない。

 俺一人で魔術を発動したところで討伐は無理だろうし、剣は論外。スズナはモンスターにダメージを与えられないし、シエナは後方支援系のヒーラー。無理だ。

 ……希望が……ないですな……。


「エリック! アイギスに亀裂が走り始めてる! もう時間が無いわ!」


 ミラさんが焦った顔を見せてくる。

 ……仕方ない。これはしたくなかったのだが……

 俺は苦虫を潰したような顔をしながらも腰のポーチに入れていた手のひらサイズの四角いビンを取り出す。

 こいつは瞬間転移をするためのマジックアイテム。転移できる人数は最大十人。転移先は自分で好きなように決められる。今回は俺達が拠点にしているアルメルドに設定している。

 転移するということはドラゴン相手に負けを認めることになり、負けを認めるということはつまり、俺の死が確定することになる。

 避けて通らなければならない結末だが……皆殺しにされるよりはマシだろう。シエナは俺が死んだら後を追って死ぬと言うが……。

 アイギスから「ピキピキ」という亀裂音がしてくる、本当にもう保たないだろう。

 俺はみんなの命のために逃げることを決断し、この右手で握りしめていたマジックアイテムを地面に叩きつけ――ようとしたのだが、皆の目線に違和感を感じて手を止めた。

 シエナ達は空を見上げていた。なぜか、今この場面で空を見上げていたのだ。普通はドラゴンを見据えるはずなのに、空だぞ? どう考えてもなにかが起きているはずだ。

 時間的余裕はほとんどなかったが、マジックアイテムを使えばコンマ一秒で瞬間転移できるので、俺も皆が目線を向けている方向を見る。

 まだ日が昇っており空は明るい。明るいが……なにやら流れ星のようなものが流れているのが見えた。それも、こちらにまっすぐ向かってきているような流れ星だ。

 その流星は軌道を変えることなくドンドン俺達の方に迫ってきて迫ってきて……あれ? 俺達じゃなくてドラゴンめがけて飛んでいるような気もせんでもないような……早すぎてよく分からんけど。

 俺はみんなと同じ様にぼーっと流れ星を眺めていたのだが、気がつけばアイギスの外側に虹色に輝く障壁のようなものが展開されていた。

 ……いつの間に……? というか、こんな色の障壁は見たことがないぞ……? ドラゴンブレスを受けてもびくともしていないし、相当な強度を誇っているのだろうけど……。てか、誰がこれを……?

 

「……あー。なんだかよく分からんけど、これ逃げたほうが良くね? 今がチャンスなんじゃない? 謎の障壁のおかげでアイギスを張っている必要なくなったし、持ちこたえる必要も無くなったから、一旦体勢を整えるためにも逃げたほうが良いんじゃね?」

「……そう……ですね。今は逃げたほうがいい感じがします。あの流れ星もこちらに向かって落ちてきている気がしますし……」

「そうね。逃げたほうが良さそうね」

「今すぐ逃げますわよ。さあ、行きますわよ!」

「せやな。逃げよか」


 全員の意見が一致したところで、俺達はここから全力で逃げようとしたのだが……


「……? あれ? 体が動かないぞ?」


 まるで空間に体が固定されたように体が動かなくなってしまっていた。というか、体が自分のものじゃなくなっているみたいな……。これ、メリッサの精神干渉魔術を受けたときみたいな感じだな。

 不思議に思っていると、突然、


<そこの君たちぃ〜! 見てる見てるぅ〜? 今空から降ってきている私を見てるぅ〜?>


 と元気いっぱいの女性の声が頭に響いてきた。

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ユニークスキルのせいでモテない俺は、酔っ払った勢いで奴隷を買いました。 あきつしま @zuito

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