第106話 キャロライン……お前……

 カイルのお店を半ば追い出されたような形になった俺達が次に訪れたのはキャロラインの武器屋だ。


 カランカランカラン


「いらっしゃいませーってエリックの旦那じゃないっすか! それに今日は女性がいち、にー、さん、しーって四人も!? エリックの旦那! これはどういうことっすか!? 緊急クエストから帰ってきてうちのお店に初めて寄った時は、エリックの旦那一人で来て下さいって言ったじゃないっすか! それでうちのお店にある防音室で一晩中まぐわってうちを孕ませる約束をしたじゃないっすか!」


 キャロラインは俺たちが店に入るなり、いつもの如く訳の分からんことを言い出した。

 しかし、もう俺はいちいち反応したりしない。俺は何度もこの手に乗ってひどい目に会ってきたからな。無視が一番だ。そうさ、無視が――


「……へぇ……。エリック、あなた、へぇ……。キャロラインとねぇ……。へぇ……。私を孕ませるより先に、ねぇ……。そうなんだ、へぇ……」

「……ミラ……さん……?」


 後ろを振り返ってみると、俺の背後に立っていたミラさんが絶対零度の目で俺を見てきていた。

 これは不味いと思ってシエナ達に救援を求めようとしたのだが……


「エリック様。流石にこれはないですね。種をつけるなら同時に。これはハーレムであれば基本ですよ?」

「エリック、ちょっとそれはないですね。はい。事前にそういう約束をしたと私達に伝えるべきだと思います。ええ。あ、しばらく話しかけないで下さい」

「エリック……抜け駆けを容認するのは流石にアカンと思うで……? ハーレムでそれをやるとほら。今みたいに修羅場になるやん?」


 シエナとスズナは俺に教えさとすような目を、メリッサは久しぶりに敬語モードで、しかも話しかけるな宣言を俺に出してきた。どうやら、彼女たちからの救援は期待できそうにない。

 俺は再度ミラさんに目を向ける。ゴミを見るような目をしていた。

 俺はこうなった元凶のキャロラインを見る。彼女は『うっふん』と言いながら俺に投げキッスを飛ばしてきていた。

 ……ある意味お前は凄いよ。まあ、悪い意味だが。

 俺はミラさん、そしてシエナ達の誤解を解こうとする。


「俺はキャロラインとそんな約束はしてませんよ。というか、こいつ。俺が店に訪れるたびに『3Pしましょう!』とか言ってくるんですから。これはキャロラインなりの挨拶なんですよ」

「あらそう? まあ知らないけど。どうでもいいわね。それよりもキャロライン。早く注文した品を出して頂戴」

「うっす!」


 トコトコとキャロラインは工房へと消えていく。

 ……こいつ……! 「冗談でしたー」とか一切言わずに行きやがったぞ! 

 キャロラインに「あとから覚えておけよ」と思いながらも、俺は再度ミラさん達の誤解を――


「エリック、私はね。冗談が嫌いなのよ」

「……え?」


 ミラさんが突然そんなことを言ってきたので聞き返してしまう。彼女は別に面白い冗談とかは好きなタイプだったはずなのだが……。

 ミラさんは話を続ける。


「いえ、これは正確じゃないわね。私はエリックに関する冗談が嫌いなのよ。いえ、嫌いになったのよ」

「……そうなんですか」

「そうなの。だから、嘘でも孕ませる、なんて言わないで欲しいわね」

「いや、俺は一言もそんな事――」

「あら。あなた最初は否定しなかったじゃない。黙認していたじゃない」


 ミラさんは痛いところをついてくる。

 確かに、黙ってはいたが……それはそういう意味じゃなくて……いや、これを言っても無駄だろう。だってミラさん、今、静かに怒ってるから。

 俺は考える。不機嫌なミラさんと、呆れているシエナ達の信頼を取り戻す方法を。

 考えて考えて……


「あ、じゃあミラさん。後からなんでも一つ俺が買うので、それで今回のことはなかったことにして下さい。シエナ達も同じくなんでも一つ買ってやるぞぉ〜!」

『…………』


 静寂が流れる。俺は犬においでおいで、とするときのように両手を叩いて満面の笑みを浮かべる。

 俺が取った行動は悪手だろう。かえって相手を怒らせるかも知れない。が、すでに詰んでいる状況で俺が取れる行動はこれくらいしかなかった。

 

 しばらくミラさん達は何も言ってこなかったのだが……ここで全ての元凶であるキャロラインが武器を持って戻ってきた。


「お! なんすかなんすか! 修羅場って――」

「おいキャロライン! お前よくもやってくれたな! お前が挨拶代わりに訳の分からんことを言ったせいで皆がご機嫌ななめになっちまっただろうが! なんとかしろ!」


 俺はキャロラインに詰め寄る。

 彼女は武器を抱えたままアワアワとしだして……急に顔を赤くし始めた。


「ちょ、え、エリックの旦那……こ、こんなところで近づくなんて……え、エッチっすね」

「……え? ってなんで近づいただけでエッチ判定されるんだよ! てか、まじで今後ヤバいことになるから誤解を解いてくれ。な? 解いてくれたら今度一緒に酒飲みに行ってやる――」

「――マジっすか! うひょぉおおおお! エリックの旦那、約束っすからね! 後から誓約書にサインさせるっすから! あ、ミラさん。うちの孕ませる発言は全部嘘っす! ただただ、じゃれ合ってただけっすから! あはははは………はは……」

『…………』


 ミラさんだけじゃなく、まさかのシエナたちまで絶対零度の目でキャロラインを見てきていた。

 ……おぉ、怖い怖い。戸締まりしとこ。


 この後、キャロラインは一時間ほどミラさんとシエナ達に説教されて泣きべそかいていたが、自業自得だと思ったので特に何も思わなかった。

 ただ、その後に俺も『結婚している男が自分たち以外の女と軽々しく食事に行くとは何事か』みたいな感じで、主にミラさんに二時間ほど説教された。

 ……キャロラインより説教が長いのは納得出来ねぇ……。あと、それを言い出したら何も出来ないと思うんだけど。いや、それだけ独占したいと思ってくれているってことだろうけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る