第105話 カイル……お前……

 で、ミラさんのクエスト参加が決定した後。もう少し話を詰めていくことになった。


「さっきは連携魔術でドラゴンを倒せるかも、みたいなことを言いましたが、それは魔力量が十分な量あった場合の話です。ドラゴンにたどり着くまでにはどれだけ注意しても数回は戦闘行為をするはめになると思います。その戦闘でメリッサやミラさんが戦ってしまうと連携魔術に必要な魔力量が無くなってしまう恐れがあります」

「……まあ、そうなるわね」


 皆が頷く。

 今回はドラゴンに掛けた追跡魔術のおかげで最短距離で会敵出来るとはいえ、ドラゴン以外のモンスターを完全に避けていくのは難しいと思う。いや、避けられるのかも知れないが、避けられなかった時のことも考えておくべきなのだ。

 ただ、これに関しては良い案がある。

 

「まあ、そういうことで、道中の戦闘はスズナとシエナ、そして俺の三人でしようと思います」

「スズナさんとシエナさんは分かるけど……エリックはなんでそこにいるのよ」

「魔術を使わなければ魔力が減ることはありません。なので、剣を使ってモンスターを倒します」

「ああ……そう言えばあなた、今のメインジョブは剣士だったわね。最近剣を下げたエリックを見ていなかったのと魔術師のほうがしっくりくるから忘れていたわ」

「そ、そうですか……」


 なんか前にも似たようなことを言われた気がするが……。個人的には剣士も気に入っているんだけどなぁ。なんかモンスターと直に戦っている感じがして楽しいし。いや、今はそんな事どうでもいいか。


 で、これ以降も色々と話し合いをして戦闘関係の話に関してはだいたいまとまった。それはいいのだが……装備類をどうにかしないといけなかった。防具や武器を新調しないと流石にドラゴン討伐はキツイのだ。

 俺はミラさんに装備のことについて聞いてみることにした。


「ところでミラさん、 防具とか武器とかを新調したいと思うんですけど……時間的に大丈夫ですかね? 結構製作に時間がかかると言いますか……」

「問題ないわ。こうなることを予想して、すでに私から色々と注文しておいたから。多分今からお店に行ったら完成しているんじゃないかしら」

「おお! 流石はミラさん! 気が回りますね!」

「……そ、そう? まあ、そうよね! なんたってエリックのお嫁さんなんだから!」


 『ご褒美に頭撫でて撫でてー』とミラさんがめちゃくちゃ可愛い顔をしながら言ってきたので俺は『よーしよしよし』と頭を撫でてあげる。

 ……このミラさん超かわいいんだけど……


「なんだか微笑ましいですね」

「ですわね。ただ、わたくしも撫でてもらいたい気持ちになってきましたわ」

「……ムツ○ロウさんみたいやけど、微笑ましい光景なのには間違いないわな」



 この後。シエナ、メリッサ、スズナの三人からもナデナデを要求され、皆が満足するまで頭を撫でてから、防具屋と武器屋へ足を運ぶこととなった。



 ◆◆◆



 最初に訪れたのは、カイルの防具屋だ。

 店内に入ると、中で展示している防具を磨いていた彼が俺たちの元へとやってきた。


「やあ、エリック! ミラさんから聞いたよ! 結婚おめでとう! いやー、あのエリックが結婚するとわねー、もう驚きすぎて一日八時間しか寝られなかったよ!」

「お、おう、ありがとうな。ただ、八時間も寝ているんだったら驚いたもクソもないと思うがな」

「あははははは!」


 カイルはバンバンと背中を叩いてくる。

 ……ご機嫌だなぁ……


「っとすまない。ミラさんがいるってことは……」

「件の装備を取りに来たのよ。もう完成しているでしょ?」

「ええもちろん。受注していた仕事を全て後回しにして最優先で仕上げましたよ。いやー、疲れましたよー。もうくたくたで――」

「それに見合う報酬は出しているでしょう? 文句言わずにさっさと出して頂戴」

「分かりました!」


 カイルは『試着室の方で待っていてくれ』と言い残して店の奥の方へと消えていった。

 で、まあ言われたとおり試着室の中へと入ったのだが……俺は先程のミラさんの発言が気になっていた。

 『報酬を出しているでしょう?』とミラさんが言ったのだ。おそらくは防具の代金を出しているということだろう。


「ミラさん……その……防具のお金は……」


 申し訳ない気持ちになりながらミラさんに声を掛けると


「気にしないで頂戴。これは必要経費よ。クエストの報酬代の前払いだと思ってくれればいいわ」

「な、なるほど……」

「あと、エリック。あなたの防具、貧弱過ぎると自分で思わないの? シエナさん、メリッサさん、スズナさんの防具を見てみなさいよ。あなた一人だけ浮いているのよ?」


 俺は黙って話を聞いていたシエナ達の防具を見てみる。

 どれも俺がお金を気にせずに購入した最高にいい装備だ。防御力も高いし、つけ心地も良い。彼女たちにふさわしいものだろう。

 で、ミラさんが指でコンコンとしてきている俺の装備も同時に見てみる。

 数年は更新していない防具で、ところどころ繊維がほつれてきていたり、破れているところがあってなんともボロい感じを醸し出していた。しかも、この防具はドラゴンブレスを受けたことによって背中側に穴が空いてしまっており、早く新調しないといけない代物だった。

 

「まあ、ボロいですね」

「ええ、そうね」

「これはいち早く修理に出さ――」

「ちょっ! あなたバカなの!? そんな装備でドラゴン退治が出来るわけがないでしょ!?」


 ミラさんが突然大きな声を出してツッコんできた。いや、これはツッコミなのか?

 まあ、その辺りは置いておいて。俺はミラさんに反論する。


「まだこれは使えます。確かに前回はドラゴンブレスにいとも簡単に貫通されましたが、工夫すればなんとかなります」

「工夫って意味がわからないわよ!」

「……ま、まあとにかく俺はこの装備でなんとかなりますから。ですので、シエナ達の防具の新調を――」

「いやー、エリック。それは無理な話だよ」


 突然、カイルが俺の言葉を遮ってきた。お前……いつの間に部屋の中に入ってきたんだよ……。

 そんなステルスみたいな彼は誰かの防具を抱えているようだった。

 俺はカイルに質問を投げかける。

 

「カイル。なぜ無理なんだ?」

「何故と言われても、シエナさん達がすでに最高級品の防具を身に着けているからさ。あれを超える防具なんて、僕でも向こう数年は無理だと思うよ?」

「……ま、マジなのか……?」

「ああ、大マジさ」


 最近装備を揃えたスズナはともかくシエナとメリッサにはもっといい装備をと思っていたんだが……無理なのか……。まあ、この街一番の防具屋の店主であるカイルがいうなら事実なのだろう。

 となると、ミラさんは誰の防具を注文したのだろうか?

 疑問に思っていると、カイルが抱えていた防具を俺に渡してきた。


「はい、エリック。君の新しい防具だ」

「……ん? 俺の? なぜなんだ?」

「いや、何故と言われてもミラさんに注文されたからなんだが」


 俺はミラさんを見る。ミラさんは『はぁ』とため息をつく。


「ミラさん。別に俺のためにわざわざいい装備を用意してくれなくても良いんですよ?」

「エリック。あなたはあまりにも自分にお金を使ってなさすぎよ。今、身につけている防具だってC級冒険者が着けるような代物だし。あなたがそんなんだとシエナさん達が気まずくなるって分からないのかしら?」

「……そうなのか?」


 シエナ達に目を向けて聞いてみる。一同首を縦に振っていた。

 ……そ、そうだったのか……


「エリック様のお気持ちは嬉しいですし、こんなにいい装備を買っていただいたことには感謝しかないのですが……エリック様がずっとボロボロの装備を身にまとっているのを見て……申し訳ない気持ちではありました……」

「わたくしもシエナさんと同じ気持ちですわ。それにエリック。あなたがわたくし達に『いい装備を』と思うのと同じ様に、わたくし達もエリックに『いい装備を』と思っているんですのよ?」

「二人の言う通りやで。ウチらを大切にするのはいいけど、自分も大切にしなアカンと思う。防具なんて特に命に関わるものやろ? エリックが死んだらウチらが悲しむんやから、そのあたりのことも考えてや。な?」


 三人の言っていることはぐうの音も出ないくらい正論だった。

 シエナ達のためにも死ねないのに、防具なんかでケチっていたらとんでもないことになりかねん。

 俺は猛省した。そして心を改めた! 俺はこれからは自分にもお金を使い! そして! 彼女たちの隣に立つにふさわしい――


「あー、エリック。いい感じのところ悪いんだけど、この後ちょっと彼女とデートの予定があるから出来るなら早く試着してくれないかな?」

「……あ、はい」


 ……締まらねぇ……てか、お前彼女いんのかよ。まあ、イケメンだしそりゃいるか。


 俺はいそいそとカイルから受け取った防具を試着し、つけ心地や動きやすさを確かめた。 

 で、違和感が無かったので「大丈夫だ」とカイルに言ったら「またのご来店お待ちしてまーす!」と言って早々に店を追い出された。

 ……ま、まあ……デートの約束時間が近かったのだろう。この態度もそれなら仕方ないね!

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