第104話 作戦会議をします!

 それからは来る日も来る日も、俺達はクエストを受注して各々の戦闘技術を磨き、戦闘時における連携の仕方を学んでいった。

 特に連携に関しては、スズナがタゲ取りをしながら俺とメリッサで攻撃、シエナが回復や支援魔術を使用して後方支援。これを完璧に出来るようになるまで何度も何度も練習した。

 最初は上手くいかなかったが、一週間もすると『あれ、これめちゃくちゃいいんじゃね?』というようなレベルまで到達できた。これならある程度の強さを誇るモンスターであれば引けを取ることはないだろう。ドラゴンは次元が違うのでなんとも言えないが。

 で、そんな感じでクエスト受注をしまくっていたある日。ミラさんに呼び出されたのでギルドへ向かい、ギルド長室を訪ねた。

 部屋の中に入ると、深刻そうな顔をしているミラさんが目に入る。なにかあったのだろうか?

 一抹の不安を抱えながらも俺は一人用のソファに座り、シエナとメリッサ、スズナは新しく用意されていた三人用のソファに腰を降ろした。

 俺たちが座ったことを確認したミラさんは、複数枚の紙を俺に渡してくる。

 

「……これは?」

「今から二週間前、私は他の街のギルド長宛にドラゴン討伐を一緒にしてくれませんか、というお願いの手紙を送っていたのよ」


 ふむ。二週間前と言うと俺たちがキングオークを討伐した頃だな。というか、あれからもう二週間経っていたのか。

 ……ん? そろそろドラゴンの討伐に向けて諸々の準備をしないとヤバいんじゃね? いや、今はミラさんの話を聞こう。うん。

 ミラさんは俺たちに渡した紙を指差しつつ苦い顔をする。


「読んでみたら分かるけど、どのギルド長も返事は『準備が整っていないから今すぐには動けない』というものだったの。私のお願いはエリックを救うために『出来るだけ早くドラゴンを討伐したい』というものだったのだけど……駄目だったという感じね」

「……そうですか」


 ミラさんとシエナ達が暗い顔をする。

 まあ、討伐難易度『死』のモンスターであるドラゴンを相手取るなら入念な準備をしないといけないし、他の街のギルド長の返事は当然のものだろう。

 ただ、その準備というのがどれくらい掛かるのかは知らないが。

 準備している間にドラゴンが人々の住んでいる街を襲うかもしれない。そういう事態になったら動かざるを得ないだろうが……今はそんなことは幸いにも起きてないしな。

 俺は受け取った紙をミラさんに返しながら質問をする。

 

「それで、これからどうしますか? 他の街のギルド長が『動けない』と言っているということは、S級冒険者の助力を得られないということですし……」

「……そう……ね……」


 ミラさんは黙ってしまう。おそらく、どうにも出来ない状況なのだろう。

 しかし、俺は腐ってもS級冒険者だ。ここで諦めるなんてことはない。


「ミラさん。こうなったら今の戦力でどうにかしてみます」

「……どうにかなるの?」

「それは……分かりませんが……。でも! 諦めるのは駄目だと思うので! ただ、最悪の場合は俺一人の犠牲で――」

「駄目ですよ、エリック様」


 シエナが静かに、しかし確固たる意志を持った声音で俺の言葉を遮ってきた。

 

「エリック様が死ぬなら私も死ぬと前に言いましたよね?」

「……いや、でも……」

「死にますから」

「……俺はお前に――」

「死にますから」

「……はい……」


 あまりの圧で俺のほうが折れてしまう。

 ……ここまで強く出てくるシエナはなかなか無いぞ……

 俺が冷や汗を流していると、空気を読んでくれたミラさんが場をまとめだしてくれた。


「ま、まあどのみちエリックを死なせるわけにはいかないわ。そういうことで、今からは私達だけでドラゴンを討伐をする方法を考えましょう」

「そうですね」

「そうですわね」

「そうやな」


 こうして誰からの助力も得られないまま、ドラゴン討伐をするための作戦会議が始まった。



 ◆◆◆


「じゃあ、ドラゴンを倒すためにはどうすればいいと思う? 思いついた人は挙手して頂戴」


 ミラさんから出されたお題について皆が頭を動かして考える。

 しばらく経った頃。スズナが手を挙げた。


「はい、スズナさん、どうぞ」

「ウチら、ここ二週間ほど結構頑張ってクエストを受けて、練度を上げていたんや。そのときに、エリックとメリッサさんが連携してめちゃくちゃ強力な攻撃を繰り出してて……それをドラゴンにぶつけたらいけるんとちゃうかなって」

「なるほど。エリック、そのあたりはどう思う?」


 ミラさんが俺に聞いてくる。

 スズナが言っていたのはワニみたいな見た目をした『ワニー』の討伐での出来事だろう。

 結構でかくて強かったので、メリッサと連携魔術を使って攻撃をしてみたのだ。

 連携魔術とは、複数人の魔術師が力を合わせて放つ魔術のことだ。一人で使用することは出来ない。

 まあ、強力な攻撃を撃つことは出来るが、その分時間がかかるし魔術師同士が心を通わせていないと失敗してしまう中々に難しい魔術なのだが。

 俺は考える。連携魔術でドラゴンを倒せるかどうか。

 二人の実力。魔力量。親密度。それらを鑑みて……結論を出した。


「今の俺達だと厳しいですね」

「……そう」

「はい。少なくともメリッサの武器であるローラを強化すること、メリッサに超強力な攻撃魔術を習得してもらうこと、あと俺の方のローラも一緒に強化してもらわないと厳しいですね」

「それが出来たら?」

「……重症を負わせるくらいは……おそらく」

「なるほどね。じゃあ、そこに私も加わったら討伐できるわね。私もジョブは魔術師だし」

「……え?」


 俺はミラさんの言葉を聞いて間抜け面を晒してしまう。ミラさんは『何か文句でも?』という顔をしてくる。

 ……ギルド長であるミラさんがドラゴン討伐に参加……?

 

「……まさかついてくるつもりですか?」

「ええそうだけど」

「ギルド長はよほどのことがない限りクエストには行かない決まりのはずですが」

「ああ。確かギルド長が突然死んでしまうと冒険者の間で混乱が生じて大変なことになる恐れがあるから〜、みたいなルールね」

「そうです。だから――」

「それがどうしたの?」

「どうしたのって……」


 ミラさんがあまりにもなんでも無いような感じで聞き返してきたので言葉に詰まってしまう。

 ミラさんはそんな俺を見て席を立ち詰め寄ってくる。


「エリック。あなたは私に指をくわえて待ってろ、とでも言うつもりなのかしら?」

「い、いや……そういうことではなくてですね……」

「ルール? そんなの関係ないわ。冒険者が混乱する? どのみちエリックが死んだら私がおかしくなって混乱することになるから問題ないわ」

「で、でも……」

「あなたを助けたいの。だからお願い、私も連れて行って」


 ミラさんが俺の手を取って上目遣いからのうるうる攻撃をしてくる。

 ……あっ……


「……今回だけですからね? まあ、戦力の面で見てもミラさんがついてきてくれるのはありがたいですし」

「ありがとうエリック。あとシエナさんもありがとう。エリックが上目遣いからの瞳うるうる攻撃に弱いという情報が早速役に立ったわ」

「いえいえ! 同じエリック様同盟に所属する者同士ですから!」


 ミラさんは俺から手を離してシエナの頭をナデナデする。

 ――嵌められたッ! くそっ! なんで俺はあんな屁でもない攻撃に毎回毎回やられるんだよ! もう童貞でもないんだし、女を知ってんだからいい加減耐性つけろよ! 何してんだッ!


 俺は自分で自分を殴りたくなる衝動に駆られたが……もう言っちゃったものは仕方ないので、これはこれで良しとすることにした。

 要は俺が死なずに皆が死なずにドラゴンを倒すことが出来たらそれで良いんだしな。

 

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