第96話 さあ、行こうぜ!

 トイレの前まで来た俺は、まず手始めにドアをノックすることにした。トイレ中だったら殴られること間違いなしなのだが……ミラさんは『気持ち悪くなった』といってトイレに駆け込んだらしい。その事実から、俺はリバースしに行ったのだと判断したのだ。そうであれば、背中を擦って少しでも楽にしてあげたい。そう、俺は親切心でノックするのだ。


 コンコン


「ミラさん、そこにいるんですか?」


 数秒待つ。応答がない。

 ……おかしい。

 トイレの個室を照らすためのろうそく立てが一つ消えているのだ。間違いなくミラさんはこの中にいるはず。だというのにうんともすんともいわない。

 俺はもう一度ドアをノックする。


 コンコン


「ミラさん、俺です。エリックです。大丈夫ですか?」


 同じく数秒待つ。しかし、今度も応答がない。

 俺はだんだんと不安になってくる。

 トイレで気絶しているのではないかと、リバース途中に気管に物が詰まって窒息しかけているのではないかと。もしくは、急性アルコール中毒になって恐ろしいことになっているのではないかと。

 こういう状況の場合、いち早く救助して処置を行わないと手遅れになる。もう手遅れかもしれないが……まだ間に合うかもしれない。

 俺はミラさんを助けるために、すぐに行動に移すことにした。

 

 まず最初にドアノブを回してドアが開くか試す。

 しかし……ガンッ! とロックがかかっているために途中でドアノブがまわらなくなってしまった。

 次に、このドアに突進してドアを突き破ろうとする。しかし……このトイレのドアは何気に結構分厚い。俺の突進でどうこうできるとは思えないほどに。

 力技では無理だと実行前に判断した俺は……止む終えないということで魔術を使うことにした。

 今までは、シエナ達に言われたとおり使わないようにしていたが……今は緊急事態だ。俺の寿命が縮まって死ぬよりも、トイレの中のミラさんが死ぬほうが早い可能性がある。

 まあ、今すぐにシエナ達に状況を報告して対応してもらうのがいいのかもしれないが……時は一刻を争うからな。


 俺は左手をドアに向けて……魔術を唱える。


「《アンロック》!」


 こいつは、ありとあらゆる鍵を開ける魔術だ。犯罪に使われることもあるが……元々は、クエスト中にたまに見かける宝箱を開けるために開発されたものだ。

 あ、俺はもちろん犯罪行為に使ったことはないぞ? 


 俺はこの魔術を使えば、ドアのロックが解除されると思っていた。信じて疑わなかった。しかし……これまたうんともすんともいわない。

 (……どうなっているんだ?)

 俺は首をかしげる。

 失敗したのかもしれないと思ってもう一度魔術を使うが……やはり何も起きない。

 魔術が使えなくなっているわけではない。しっかりと発動している感覚がある。

 であれば、ロックが解除されない理由としては一つ。このドアに何らかの細工がされているということだ。

 原因を探るべく、俺はドアに左手を当てて……魔術を再度起動する。


「《アナリシス》!」

 

 こいつは物に掛けられた魔術を解析するものだ。封印魔術が掛けられているなら、頭の中に『この物には封印魔術が掛けられています』という文字が浮かんでくる。

 

 して、解析魔術を起動すること十秒。

 文字が頭の中に浮かんできた。

 

『このドアには魔術障壁が張られています』


 ……ほう。魔術障壁とな?

 もう少し具体的な内容を知るために、解析魔術を起動し続ける。

 すると……再度文字が頭の中に浮かんできた。


『このドアにはアイギスが張られています』


 ……ファ!?

 俺は驚愕する。トイレに魔術障壁が張られているのも驚くべきことだが、その魔術障壁がアイギスだったのだ。

 こいつはドラゴンブレスを食らったときに俺が張っためちゃくちゃ強い魔術障壁だ。魔術師が張れる障壁で最も強いものなのだ。

 そんなものをトイレに張る人なんて……この世にいないのではないだろうか? まあ、ここに一人いるけど。というか、なんでトイレにアイギス張っているのだろうか? まあ、理由はどうでもいいか。今はミラさんの安否を確認することが最優先だ。

 

 しっかし……こんなもん張ってたらそりゃ『アンロック』なんかで扉が開くはずないわ。鍵を解除しても障壁が邪魔してドアを物理的に開けられないからな。

 ただ……これどうすりゃいいんだろうか……。

 俺は服の内ポケットに仕舞っていたローラを取り出し、それを両手に嵌めながら頭を悩ませる。

 まあ、どうすればいいか、という問いに対しての答えは出ている。

 攻撃魔術でアイギスをぶっ壊すしか方法はない。

 しかし……ドラゴンブレスを少しの間だけ耐えきったくらいこいつは頑丈な衝撃だ。そんじょそこらの魔術じゃあ突破できない。

 あと、ここは家の中だ。手軽で高威力が出せる爆発系統や火炎系統の魔術は使えない。あと、氷結系統もできれば使いたくない。どれもこれも家に被害が出るからだ。

 となると、俺が使えるものは限られてくる。

 え? それはなんだって? そりゃお前……物理で殴ってアイギスをぶっ壊す、だろう?

 ちなみに、このアイギス。おそらくは俺以外、この家にいる人物で言えば突破できる人はいないだろう。まあ、ミラさんならいけるかもしれないが。というわけで、シエナ達に助力を求める線もなしだ。俺一人でなんとかするしかない。


 ふぅ、と深呼吸を一つ。

 ……よし! 行くぞ!

 俺はまず出来る限り筋力アップの魔術を体に重ねがけをする。


 『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』『パワー!』


 ……いや、まだ足りんな。もういっちょ!


 『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』『パゥワァー!』


 重ねがけによってグゴゴゴゴゴゴ、という擬音が出てきそうなくらいのオーラを俺は身にまとう。

 しかしこれだけではまだ足りない。これだとアイギスは突破できない。

 というわけで、ダメ押しとばかりにユニークスキルも発動することにする。これを使ってしまうとおそらくはトイレの中にいるミラさんが発情してしまうことになるが……致し方ない。幸運なことは、シエナたちとは距離が離れているので、彼女たちは発情しないということだろうか。


 『すみません!』と心の中で謝りながら、俺はユニークスキルを発動。そして、体に『攻撃力増加』の効果を五回重がけをする。

 して、現時点における物理特化型最強エリックが完成した。

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