第93話 本心は……?

「よし、じゃあ、メリッサには早速調理をしてもらうんだが……ほい、これ。味付けにはこの瓶の中に入っている液体を使ってくれ。こいつはしょうが風味の味付けが簡単に出来る魔法の液体だ」

「ま、魔法の液体……」

「それ、エリックさんが色々な調味料を混ぜて作り置きしていたやつじゃないですか」

「……細かいことは良いんだよ」


 せっかくメリッサが『すごいです……』みたいな顔をしていたのになんでソフィアは水を指すのかねぇ。まあ、良いですけどね。

 俺は頭を切り替えて指示を出していく。


「はい、じゃあまずはこの鉄板の上に牛こま切れ肉を入れてくれ」

「は、はいですわ!」


 メリッサは台所から目的の食材を持ってきて……ドバァ、と鉄板にぶちまける。


「じゃあ、お次はこの木べらを使っていい感じに牛肉をかき混ぜてくれ。深く考えなくていいからな。適当にかしゃかしゃやってればいいから」

「はいですの!」


 俺から木べらを受け取ったメリッサは、一生懸命細切れ肉をかき混ぜる。


 ジュー……ジュー……


「よしよし、その調子だ。いいぞー、上手だぞー」

「あ、ありがとうございます、ですわ!」

「……何だか愛娘の初めての料理を見守るお父さんみたいな感じですね、エリックさん。あ! じゃあ私と子作り――」

「はーい、ソフィアさんはお口チャックしましょうねー。メリッサが集中できないからねー」


 俺はソフィアの話を強制的に打ち切る。

 何をどうしたらそういう話に発展するのか訳が分からん。てか、こいつ……本当に俺がその気になったらどうするんだ? 『あ……ご、ごめんなさい……』とか言うのかな? プルプル体を震えさせて泣き出すのかな? 

 ……なんかエロ――っといかんいかん。今はメリッサの料理に集中しないとな。

 もう一度俺は頭を切り替えて、目の前のことに集中する。


 ジュージュージュー


「……よし! ちょうど肉がいい感じで焼けてきたから、この辺りで野菜を投入してくれ」

「分かりましたわ!」


 メリッサは台所から先程切った野菜を入れていたボールを持ってきて、木べらを使って丁寧に鉄板へと野菜だけを移した。


 ジュジュジュジュー


「よし。じゃあ、ついでにさっき渡した調味料を……量も少なくなっているし全部使い切ってくれ」

「分かりましたわ!」


 メリッサが瓶の蓋をとって、チョロチョロと牛肉と野菜の上にかけていく。

 

 ジュワワワワ……


「いい調子だ。あとはこいつらが馴染むまで炒めたら完成だ。その木べらを使ってさっきと同じ様に適当にかき混ぜてくれ」

「はいですわ!」


 カシャカシャ……カシャカシャ……


 メリッサは丁寧に丁寧にかき混ぜていく。

 まあ、頻繁にそういうことをする必要はないんだが……『はい手を離してー』、『はいかき混ぜてー』とか言ってたら混乱しそうだしな。

 かき混ぜて味が悪くなるとかそういうのはないだろうし、これでいいのだ。


 しかし、メリッサもやれば出来るじゃないか。多分あれだろうな。今まで失敗しまくっていたのは誰もずっと見張ってくれなかったからだろうな。どれだけ炒めたら良いのか分からないから、ずっと律儀に炒め続けて……焦がすみたいな。

 いやまあ……焦げ臭い煙が出てきたら普通は『これはいかん!』ってなると思うんだが……メリッサはあんまり料理をしたことが無かったっぽいしな。

 

「……結構メリッサさん上手じゃないですか。料理している主婦感がパないですよ。良いお嫁さんをゲットできて良かったですね」


 ソフィアがメリッサには聞こえないように、俺の耳元で囁いてくる。

 ……主婦、良いお嫁さんか……。まあ、メリッサは俺と結婚したしな。何も間違ってはいない。 

 ……ん? あれ? 俺、そういえばソフィアとミラさんに結婚報告したっけ? してないような気がするな。まあ、シエナとは緊急クエストに行く前に結婚していたが……メリッサは違うし。それに、結婚指輪をあげたのってクエスト中だったしな。

 

「……何を見てメリッサが俺の嫁さんだと判断したのか聞いてもいいか? いや、もう分かってはいるんだが」

「まあ決定打となったのは結婚指輪ですね。ただ、メリッサさんのまとっているオーラと、エリックさんに付き従っている様子が嫁そのものですよ。あれを見て気づかない人なんていません。あとシエナさんもお嫁さんですよね? スズナさんは……まだ違うっぽいですが」


 ……なるほど。まあ、指輪だよね。それ着けているのに『お前ら結婚してないっぽいな』とか判断しないし。

 やっぱり見るとこ見てんだな。スズナが嫁さんじゃないっていうのも見抜いているし。


「……そうか。まあ、シエナもメリッサも俺よりふさわしい伴侶はいると思うんだがな。でも、俺を選んでくれたんだし、精一杯幸せにするさ」

「そうなんですね。エリックさんなら大丈夫ですよ。色々と優しいですから。あ。ちなみに私もエリックさんに娶ってほしいんですけど、順番はいつくらいになりそうですかね? 子供を沢山産みたいので、出来るだけ早く結婚したいんですけど」


 メリッサの長い耳がピクピクと動くのが見える。

 ……どうやら彼女もこの話を聞いているらしい。木べらを動かす手も止まっているし。

 俺はどう答えようか考える。

 ソフィアは『私をお嫁さんとしてどうですか?』とかそういうことを事あるごとに言ってくるのだが、俺は面白半分に言っているものだと思っている。だからいつもいつも本気にしまいと自制してきた。期待してはいけないと言い聞かせてきた。

 しかし、本気で言っているのなら俺もそれ相応の対応をするべきだと思うのだ。ソフィアのやつ、結構長いこと俺にそういうことを言ってきているからな。

 このまま曖昧な態度でズルズルと引きずるのは危険だ。呪いのこともあるし。

 まあ、ちょうどいい機会だしソフィアの本気度を一回試してみるか。うん、それがいいな。

 ということで、俺はスズナから聞いたある行動をして、ソフィアがどういう反応をするのか見てみることにした。アレをされた女性は素が出るらしいし、本音がポロッと出ちゃうらしいのだ。よし、やるぞ!


「ソフィア。ちょいとそこの壁に背中をつけてくれないか?」

「……? 急になんですか? それよりもさっきの回答を――」

「いいから俺の言うことに従ってくれ」


 ソフィアは首を傾げながらも、近くにあった壁に背中をベッタリとつける。

 俺はそんな彼女の目の前に立ち、目をじーっと見る。


「……え、えーっと……あ! あれですか? ここで私を襲おうとしているんですかぁ〜? もう〜、せめてメリッサさんのお料理が終わってから――」


 ドンッ!


「……ぇっ……」


 俺は彼女の言葉をまたずに思いっきり右手を壁に押し付けた。ソフィアはというと……急に体を縮こまらせて、いつもの余裕綽々な表情から一変、少し怯えたような色を見せる。

 そう、これは『壁ドン』である。スズナがいた元の世界ではこれが流行っていたらしい。求愛行動とも言われているこの行為は、意中の女性を堕とすのに良く使われるらしいが、相手の本音を聞くときにも有効らしい。

 ただ、これだけではまだ弱いらしく、間髪入れずに……


 クイッ


「……ぁっ……」


 顔を背けて俺の方を見ないソフィアの顎を持ち上げ、強制的に俺の方を向かせる。ソフィアは徐々に顔を赤くしていって……口をパクパクしだした。

 ……ふむ。なんかこういうシチュエーションになると、俺の周りの女性って皆揃って口パクパク行動を取るよな。なんでなんだろう。

 まあ、今はそんなことどうでもいいか。こいつの本音を聞き出さなければ。

 俺はお互いの息がかかるほどの距離で彼女の目を見て……質問をする。


「ソフィア。お前は本気で娶ってほしいと俺に言っているのか?」

「……ぁっ……ぇっ……」


 ふむ。顔を真っ赤にするだけで反応がほとんどない。というか、俺の目を見ようとしない。

 まだこれでは足りないのか。

 ……仕方ない。


 ドンッ! べギッ! パラパラパラ……


 今度は右足ドンを繰り出す。

 右手は壁ドン、左手は顎クイに割いちゃっているからな。空いているのがもう足しかなのだ。

 ちょっと威力をミスって壁に穴が空いたような気がするが……今は気にしないでおこう。

 ソフィアは右足ドンでビクッとなったが、俺に顎クイをされているせいで身を縮こまらせることが出来ないでいる。

 よし、ここでもう一回質問だな。


「お前は冗談でそういうことを言っていたのか? 俺をからかうためにあんなことを言っていたのか?」


 ソフィアの瞳が揺れる。しかし、それだけで何も話してくれない。

 ……なるほど。分からん。

 分かるのは、こういう状況に陥るとめちゃくちゃソフィアが黙りこくるということだろうか。これは今後使えそうだな。主にこいつを黙らせたいときにだが。

 しかし、このままでは壁ドン、足ドンのし損だな。なんとか成果を出したい。あと、なんだか焦げ臭い匂いがプンプンとしてきているから早くしなければならないな。

 俺は深呼吸を一回して……口を開く。


「ソフィア。お前が本気で言っているなら、俺も相応のことをするつもりだ。と言っても、ちゃんとしたのはドラゴン退治が終わるまで待ってもらうことになるがな。さあ、返事をくれ。冗談なのか本気なのか。嘘はつくなよ?」


 俺はしゃべりながら自分の成長を実感する。

 前までであればこんな言葉は言わなかっただろう。というか、壁ドンですらやらなかったかもしれない。

 しかし、緊急クエストを受けて色々と変わったのだ。心身ともに男へと成長したのだ!

 今の俺なら何でも出来る気がする。自分から告白もいけんじゃね? 『俺の嫁になれ』みたいな感じでかっこよく決められるんじゃね!?  女性がイチコロになるセリフも恥ずかしがらずに吐け――


「じょ……冗談……です……」 


 ソフィアは相変わらずの顔真っ赤で、俺から目を逸らしながらメチャクチャ小声でそう言ってきた。

 …………ほう。……………………なるほどね。


 


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