第91話 傷心

「ただいまー」

「ただいまです!」


 俺とソフィアは二人揃って家の中へと上がる。

 何食わぬ顔でソフィアが『ただいま』と言っているのが若干おかしいとは思ったが……まあ、細かいことはどうでもいいか。


 台所へと行くと……ミラさん達がせっせと料理を作っているところだった。


「……あら、ソフィア。結構遅かったのね。地図の情報を送るのにそんなに時間がかかったの?」

「いえ、それ自体はすぐに終わりました。ただ、その後エリックさんをずっとおちょくっていたので!」

「……ああ、そこの変態と話をしていたのね。で、そこの変態さんは何用かしら?」

「…………いや、ここ、その変態さんの家なんですが」

「あら、そうだったかしら? ここはシエナさんとメリッサ、それとスズナさんの家じゃないの?」

「……まあ、あながち間違いじゃないですけどね。俺的にもこの家の所有者は誰でも良いって感じですし」


 彼女たちが『このお家欲しいです!』とか言ってきたら『おう、持ってけ持ってけ!』とかいう感じで渡すつもりではあるからな。

 俺はここから話を広げようとしたのだが……ミラさんは『ふーん、まあどうでもいいけど』とか言って料理を作る作業に戻ってしまった。反応が冷たすぎて泣きそう。

 俺は心を癒やすために、ミラさんと同じく料理をしていたシエナとスズナに声を掛ける。


「なあ。なんでさっき二人共俺のことを無視して帰ったの? パーティーリーダーが投げ飛ばされてお外で待っていたのになんで来てくれなかったの? ねえなんで? なんで?」


 俺は少し重い女性、みたいな雰囲気を出す。

 さあ、これなら反応を返してきてくれるだろう。先ほどみたいに心配そうな顔をするだけで声を掛けないなんて許さんぞ。

 どっちが先に口を開くんだ? どっちが先に俺に――


「エリックさんだったら別に殴られたり蹴られたりされるのは慣れているから、『まあ大丈夫だろう』みたいな感じになったんじゃないですか?」


 未だに俺の隣にいたソフィアが誰よりも早く口を開いてきた。


「……ふむ。俺はお前には聞いていないんだが?」

「いえ、お二人の気持ちを代弁したつもりだったのですが」

「なるほど。で、二人はどうなんだ? そうなのか?」

「……そう……ですね……」

「まあ、壁に開いた穴からエリックのことは見えとったし、なんか余裕そうな顔しとったからなぁ……あと、そんなことよりも呪いについて話したかったし……」

「ほう。なるほど」


 ……なんか期待した答えじゃなかった……。

 いや、俺の呪いについて考えてくれているのは嬉しいんだが……目の前で何かを期待したような顔で待っていた俺のことも気にかけてくれ。




「えー、ではギルド長の私から一言。シエナさんとメリッサさん。緊急クエストお疲れ様。これから色々と忙しくはなっていくと思うけど、お互いがんばりましょう。それと、スズナさん。ようこそアルメルドへ。何かあったら私に何でも相談してちょうだいね。はい、では乾杯!」

『かんぱーい!』


 ミラさんの挨拶が終わり、パーティーが始まった。今回は人数が多いということで居間にテーブルをたくさん置いての立食形式だ。まあ、こっちのほうがパーティーって感じがして好きではある。

 

 シエナは開始早々小皿に料理をとってもぐもぐと食べ始めている。なんともまあ幸せな顔で食べるもんだ。

 俺も料理を早速食べようと思ったのだが……端っこでいじけていたメリッサを先にどうにかすることにした。

 どうやらメリッサは最初ミラさん達と料理をしていたのだが、どれもこれも丸焦げにするし、野菜もろくに切ることが出来ないということで戦力外通告を出されたらしい。

 忙しいときにメリッサみたいな人がいると邪魔だからなぁ……。いや、まあ……努力は認めてあげたいんだが……。

 俺は居間の隅っこで体育座りをしていたメリッサの隣に座る。

 

「……料理は食べないのか?」

「……まだいいですの……」

「そうか」


 せっかくメリッサの帰還祝いも兼ねているパーティーなんだから早く立ち直って参加してもらいたいところではあるな。

 

「料理、駄目だったのか?」

「……頑張ったんですの。けど……駄目でしたわ……」

「皆、お前の努力と気合は認めてるはずだぞ」

「……エリックに……わたくしの手料理を食べてもらいたかったですの……」


 はぁ、とメリッサがため息をつく。

 ……なるほど。戦力外通告を受けたらかいじけているんじゃなくて、俺に手料理を振る舞えないことにダメージを受けてここでうずくまっていたのか。

 そういうことなら、彼女の励まし方は分かるぞ。今から料理を作らせてあげればいいだけの話だ。

 台所はもう空いているし、いくらミスっても問題はない。俺が付きっきりで教えればある程度上手くいくだろう。

 そうと決まれば早速実行だな!


 俺は立ち上がり、メリッサの手を引く。


「メリッサ。今から台所に行って料理を作るぞ」

「えっ……? で、でも……また失敗するかもしれ――」

「――四の五の言わずに行くぞ! ほら、立て! あと失敗したらそれも食べてやるから安心しろ。それと……同じく料理が苦手な人が隣にいたほうが気も紛れるかもしれないな。……おいソフィア! お前今から料理を作れ!」


 俺は楽しそうに一升瓶をラッパ飲みしていたソフィアに声を掛ける。

 あいつは全く料理が出来ない奴だ。というか、記憶にある限りあいつが料理をしているところを見たことがない。あと、自分でも『私の手料理は人を殺しかねないレベルで不味いですよ』とか公言してたし。

 

 ソフィアはチュポンと一升瓶を口から離して……ニヤニヤとしながら俺とシエナの元へと来る。


「……エリックさ〜ん、まさか私の手料理が食べたいんですかぁ〜? もう……とんだ変態さんですね!」

「意味が分からん。まあ、そういう理由でいいから俺達と一緒に台所へ行くぞ。ほら、一升瓶はそこに置いてけ。酒飲みながら料理するバカが何処に居るんだよ」

「え、エリック……わ、わたくし本当に焦がしますわよ? それか生焼けですわよ? や、やっぱり止めておいた方が……」

「俺が見といてやるから安心しろ。てか心配しすぎだ。料理はもっと気楽に楽しくするもんだ。肩の力を抜け」

「おおー! エリックさんが優しい! 私には何かないんですか? そういう優しい言葉はないんですか?」

「……酒臭い。あと、わざと服装を乱れさせるな。もし今日全裸になったらお前出禁だからな」

「んな!?」


 心配そうな顔をするメリッサと脱ぎ芸が封印されて不満そうなソフィアを引き連れて、俺達は台所へと向かう。

 パーティー中だが……まあ、時間はたっぷりあるし大丈夫だろう。シエナとスズナも『頑張って!』みたいな目を向けてきていたし。まあ、ミラさんは……なぜか憤怒の形相で手に持っていたフォークをへし折っていたけど。今日のミラさんの心は本当に読めないな。

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