第69話 鋼の意思

 で、用は済んだので寝ようとしたのだが……グイッとメリッサが俺の服を引っ張ってくる。

 ……?


「いや、もうするべきことは終わったと言うか、これ以上俺から言うことは無いんだが?」


 しかし、黙ったままメリッサは不満げに首を横に振る。

 何を求めていると言うんだ?

 分からずに頭を捻っていると……彼女は瞳を閉じて……唇を少しだけ俺の方に突き出してきた。

 ……ほう。なるほどなるほど。

 シエナの方を見てみると……親指を立ててグッジョブと無言で言ってきていた。

 ……なるほどー。オッケーだということですな? では遠慮なく……

 俺は少しずつ近づいていって……彼女とは二度目のキスをする。

 いつもどおり、ついばむようなキスで終わるんだろうと思っていたのだが……メリッサの長い耳がいきなりビビンッ! と立ったかと思えば……俺の頭を逃がさんとばかりに鷲掴みにしてきて……彼女自ら舌を入れてきた。


「ン゛ン゛ン゛ン゛!」(痛い! 頭が痛い!)

 

 口を塞がれているので声が出せず、呻くことしか出来ない。

 いや、こいつマジで力加減がおかしいって! 頭が割れる! 頭が割れるから! 

 というか、そんな頭を押さえつけなくても求めてきたらやってあげるって!


 たっぷり五分ほど地獄を味わった後、メリッサはようやく頭を離してくれて、ぷはぁ! と息継ぎをする。


「し、しちゃいましたわ……ついにエリックと大人なキッスをしちゃいましたわ! うふ、うふふふふ……これが……エリックの味……」


 イッている目をしながらなにやら怖いことを言ってくる。

 ……ようやく解放された……というか、俺の頭から血が出ているんですが、それに関しては何か一言無いんですかね?

 彼女に小言を言いたいのは山々だったのだが、喜んでいる? ことには間違いなかったので、今回ばかりは何も言わないでおくことにした。

 ……まあ、次回も同じことをしたらお叱りだがな。



 で、今度こそやることはやったので寝ようと思い、布団の中へと入る。シエナとメリッサは着ていたネグリジェを何故か脱ぎ捨て、左右に分かれて彼女たちも布団の中に入ってきた。

 ……今日は暑い日だっけ? それでも全裸はいけないと思うんだけど。まあ……いいか。


「よし、じゃあロウソクの火を消すぞ?」

「はい、お願いします」

「な、なるほど……暗闇の中でするというわけですわね」


 ……え? なにをするの? いや、なんとなく見当はついたが……明日の早朝、この街を出るんだぞ……? まあ、気のせいだろう。こういうのは気にしないのに限る。

 というわけで、ロウソクに息を吹きかけて……火を消す。

 瞬間。部屋は暗闇に包まれて……月の光だけが俺達を照らし出した。

 

「じゃあ、おやすみー」


 そう言って俺は目を閉じる。

 ここは先手必勝だ。俺が寝てしまえば彼女たちも諦めて寝てくれるだろう。

 いや、シても良いのだが……明日絶対しんどくなるし……。別にシたくないわけじゃないんだよ? むしろシたいけど……

 そんなことを心のなかで考えていると、体内時計で十分が経過した。

 そろそろ諦めてくれたかな? と思ってちらりとまずはメリッサを見てみると……彼女と目線が合った。

 メリッサは……発情した顔をしており、かつ獲物を狙っている目をしていた。

 (……これ、俺が寝静まったら絶対襲ってくるな……)

 未来を予知して若干怖くなったので、安心するために今度はシエナの方をちらっと薄目で見てみると……彼女とも目が合った。

 シエナの方はというと、メリッサと違って発情したような感じはなく、ただただ俺を見てきているようだったのだが……目が合って数瞬後、彼女はたまに見せる妖艶な表情をしてきて……えー、なになに……『え・っ・ち・し・ま・せ・ん・か?』と無音声でそう言ってきているようです。

 …………エリック、お前はここで流されてはいけない。お前はここでブレーキを踏まなければいけないんだ。明日のことを考えて、S級の冒険者としてここは『ヤラん!』と言わなきゃ駄目なんだ!

 俺は鋼の意思を持ってシエナから目線を外し、目を再び閉じる。

 俺はなんと言われてもシない。絶対にシない! これは決定事項だ! 覆ることなんてありえない! 俺はそんなにチョロくないぞ!

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