第64話 冗談

 シエナが金の延べ棒を戻しに行ってから一分後。

 ドタドタドタという足音がしたと思ったらメリッサが現れた。


「エリック! シエナさんにお小遣いをあげたそうですわね! それは良いことですが、わたくしにはないのかしら!?」


 ……ここまで露骨にお金をせびってくるのは中々に珍しいですな。

 しかし、彼女の言っていることも一理ある。シエナにあげたならメリッサにもあげるのが道理というものだ。ただ……それを渡す前に注意しておくことがある。


「メリッサ。ここはどこか分かっているか? お店の中だぞ? 他にもお客さんがいるんだ。走っちゃ駄目だろ?」

「次からは注意しますわ! で、わたしくにはくれないのかしら?」


 両手の指をお金マークにしてくる。

 ……いや、お前……もうちょっと慎みとかをだな……てか、図々しすぎない? いや、もちろんあげるつもりだけどさ。そんなに『クレクレ』されたら意地悪したくなるじゃん?


「どうしようかな〜? さっきのシエナへのお小遣いでお金が結構減っちゃってな〜お財布がすっからかんに――」

「――シエナさんが『エリック様は結構なお金持ちですよ』と言っていたので、それは嘘ですわね! あと、この前こっそり金貨の入った袋を見たら、山のようにお金が入ってたので絶対に嘘ですわ!」


 チッ。バレていたか。てか、何勝手に見てんだよ。何をしようとしたんだ? まあいいか。


「はい、じゃあこれがメリッサのお小遣いね」


 俺は袋から銅貨一枚を取り出してメリッサに渡す。

 ウキウキ顔をしていた彼女だったが、銅貨を見て愕然。一瞬にして無表情になった。耳もさっきまではピクピクと振動していたのに微動だにしなくなる。

 別に本当に銅貨一枚というわけではない。メリッサはなんというか反応が面白いからついついからかいたくなるのだ。

 良いものを見せてもらったということで、本当の金額である金貨十枚を渡そうとしたのだが……


「お小遣いをコツコツ貯めて、いつも頑張っているエリックに……なるべく早いタイミングで何かプレゼントでもと思ったのですが……銅貨一枚じゃ何時まで経っても何も買えませんわね……。でも……ありがとうございます。こんなわたくしにお金をくれるだけ、エリックは優しいのだと思いますわ。では、また補強材探しに戻りますわね……」

「――ちょっ! 待ってくれ! 冗談、さっきのは冗談だから! ほら、ちゃんと俺の手元には金貨十枚が握られているだろ? そんな悲しそうな顔をしないで、これを受け取ってくれよ! 俺が悪かったから!」


 慌ててメリッサを呼び止め、お金を握らせる。

 こんな反応を返されるとは思わなかった。いつもなら『エリック! 冗談はやめてくださいまし!』とかそんな感じだと思うのに……

 『ごめん!』と頭を下げて謝っていると……『冗談ですわよ』という声が聞こえてくる。

 頭をあげてメリッサの顔を見ていると、彼女のほうが『良いものを見れましたわ!』みたいな顔をしていた。

 まさか……


「おい、俺を嵌めたんじゃないんだろうな?」

「優しいエリックがこんな露骨なことをするはずがないですわ。それに、何か企んでいる顔をしていたから、こういういたずらをしてくるのだとすぐに分かりましたし。でも、エリックに何かプレゼントを買うつもりなのは嘘じゃないですわ。あと、私はいつでもハメてもらってもよろしくてよ? では、シエナと一緒にまた良さそうなものを探してきますわ!」


 今度は走らずに早歩きでメリッサは消えていった。

 ……いや、俺のことを色々分かってきてくれているようで嬉しいが……最後の言葉は人前で言ったら駄目でしょ。周りに誰もいなかったのが幸いだったが。

 


 その後。結局俺が選んだ補強材を買うことになった。購入したのは、大きくて薄い鉄の板を数枚と、角材、それとある程度厚みのある木の板の三点。全部鉄の板でも良かったんだが……今のいい感じの馬車の外観が鉄だと変わっちまうからな。

 ぱぱっとお会計を済ませてから、流石に俺達では買った資材を運べないのでお店の人にお金を払って……借りている宿屋まで運んでもらうことにした。

 で、配達までには二時間くらいかかると言われたので、待っている間に街で買い物をしようと決める。水、食料、おやつ、あと馬車を直すときに使うであろう工具類などなど、買うものはたくさんあるからな。それに、シエナとメリッサもこの街で買い物をしたそうだったし。


 

 三人で街をぐるりと回りながら、適当なところで工具を買ったり、食料を買ったりしていると……あるところでシエナがピタリと歩みを止める。

 何だと思って彼女が立ち止まったお店を見てみると……大人の玩具がたくさん置いていそうな感じの雰囲気が漂っているところだった。

(……なるほど。これは、見なかったことにしたほうがいいかな?)


「なあシエナ。ここからはひとまず別行動にしよう。お互いに知られたくないこともあるだろうしさ。な? ただ、流石にお前達をそれぞれ一人にするのは怖いから、シエナとメリッサの二人で行動すること。いいな?」

「……え? あ、はい! では、一時間後くらいに宿屋で落ち合うということでよろしいですか?」

「ああ、そうだな。それくらいで頼む」


 メリッサからの返事がなかったが、シエナが『入りましょう!』と言って彼女の手を引きながら店内に入っていったので大丈夫だろう。というか、メリッサが首の辺りまで赤くしていたが……ああいうものは初めて見たんだろうか?

 彼女の性知識が気になったが、頭を振ってその思考を中断し、俺は必要な物の買い出しを再開した。

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