第62話 チェイス

 その後は、騎士が華麗な腕さばきを見せながらアナモグリンを討伐してくれたので、ひとまず目下の危険を取り除くことが出来た。

 彼の腕さばきをシエナ達と一緒になりながら『すごいな』と言い合っていると、モンスターを討伐し終えた彼が俺達の元へと来て、自己紹介をしてくる。


「協力に感謝する。俺の名前はチェイス。で、こいつは俺の幼馴染で仲間のエリンだ」

「……こ………こんにちは……」


 エリンと言われた彼女はチェイスの背中の後ろに隠れて、顔だけをぴょこっと出す。

 ……結構な人見知りっぽいな。

 ただ、俺は人見知り相手の対処法を知らないので、普通に自己紹介をした。


「俺はエリック。で、後ろにいる二人は右がシエナ、左がメリッサだ」

「エリック、シエナ、メリッサ……みんないい名前だ。繰り返しになるが、先程はありがとう。この森を探索していたら、何故かあのモンスターに目をつけれられて、追いかけ回されていてな……かなり危なかったんだよ。俺だけならなんとかなったんだが……こいつがいるから」


 彼は後ろに隠れているエリンを引っ張り出して、頭を雑に撫でる。結構親しげな感じだな。


「そうだったのか。まあ、お役に立てて何よりだ。それで……こんなところでチェイス達は何をしていたんだ?」


 気になっていたことを聞く。この森は見るからに危ない雰囲気をまとっていたのだから、俺達みたいなドラゴンの捜索をしている人とかじゃないとわざわざ近寄らないと思うんだが……

 

「俺達は、街の冒険者ギルドからの依頼で『ドラゴン』とやらを探せと言われたんだ。で、見るからにそいつがいそうな森を見つけたから入ってみると……このざまだ。ひどいもんだよ」

「おお、そうなのか! 俺達も同じクエストを受けているんだよ。まさか、こんなところで会うとは……」

「エリックもそうなのか!? 確かに、あんなバカみたいな火力のパンチを繰り出していたから高ランクだとは思っていたが……同じ目標を探している仲間だったとは……」


 これがきっかけで俺とチェイスは意気投合し、これまでの情報などをお互い交換し合った。

 彼らは俺達が来た方向とは真逆からやってきた冒険者らしく、チェインはS級で、エリンはD級だった。ちなみに、二人は幼馴染らしい。

 まあ、彼らの情報はこれくらいにしておいて、ドラゴンの情報だが、彼らも有力な手がかりは見つけられていなかった。俺達と同じく過去にドラゴンが現れたとされている場所を巡ってはいるらしいが、見つけたのはせいぜい討伐難易度が『中難易度』のモンスターくらいだったという話だ。とはいっても、山の数ほどある場所の候補を潰せたのは大きいだろう。



 情報交換を終えて。このまま一緒にドラゴンの捜索をしても良かったのだが、手分けして探したほうが見つけられる確率は高くなるだろうということで、お互いの住んでいる街を教えあった後、また近いうちに再会することを約束して……別れた。

 


「騎士というジョブの方が話しているところは初めてみましたが……皆様あのような感じで豪快に笑うものなのですか? いえ、私的にはそちらのほうが親しみやすいのですが……もっと堅苦しい方がなる職業だと思ったので……」


 森の入口まで戻り、馬車に乗って近くの街まで移動していると、シエナが質問をしてきた。

 最初はあまりの速度にビビって話しかけてこなかった彼女だったが、今はなんともない顔をしている。成長したなぁ……

 ちなみに、メリッサは未だに失禁しそうな顔をしながら必死にベルトにしがみついている。


「確かに、お硬いやつがなるイメージが強いし、実際にお硬いやつが多いが……例外は必ずあるからな。あいつはそれに当てはまっていたということだ」

「なるほど」


 果たしてシエナを納得させることが出来る回答だったのかは分からないが、一応頷いていたので大丈夫ということだろうか。

 会話が途切れたので、空が赤くなっているのもあり、さらにスピードアップをすることにした。


 ガギガギガギ……!


 で、速度を更に上げたのは良かったのだが、突然、馬車の車輪から異音が聞こえてきた。なんというか、壊れかけている音みたいな? そんな感じだ。


「え、エリック! 大丈夫ですの!? 先程よりも振動が激しくなってきて、異音がしてきていますが!」


 メリッサが騒音の中、俺にも聞こえるように大きな声を出す。

 言われてみれば、振動も大きくなってきているような気がする。地面の凸凹で発生したものではなくて、馬車自体から出てきているものっぽいな。

 今の時刻から森を出発した時刻を引き、それに大まかな目測での時速をかけ合わせて……地図で現在位置を調べる。

 大きな草原にはすでに出ているが、ここから一番近い街までは……このペースでもあと一時間かかるな。

 で、この馬車は異常な音と振動を発生させていると。

 過去の経験から言うのであれば、あと十分程走り続けていると車輪やら車軸やらがぶっ壊れて馬車が木っ端微塵になる。一度点検をして、故障箇所を修理したほうが良いだろう。

 というわけで、馬車を減速させながら適当なところで停止する。


「……し、死ぬかと思いましたわ……」


 メリッサは真っ青な顔をしながら止まるなり馬車から降りる。よほど音と振動が怖かったのだろう。 

 俺もシエナと一緒に降りて……日が暮れてしまう前に馬車を点検する。

 車体自体は……どこも壊れていないな。まあ、ところどころヒビが入っているが、すぐ壊れるようなものではない。ただ、近いうちに街で補強材を買う必要はあるだろう。

 次に、車輪を見てみる。うーん……強度を確保するために木ではなく鉄で作っているはずなんだが……ボコボコになっているな。こいつが原因で揺れが激しくなっていた可能性はありそうだ。どうしよう。修理できると言えば出来るが……専用の工具とかを使うのではなくて、火炎魔術で鉄を加熱して、ハンマーか何かで形を無理やり整えるというやり方なんだよなぁ……。前に一回、魔術の威力調節をミスって馬車ごと燃やしてしまったことがあるから……今回は止めておこう。リスクが大きすぎる。

 車輪は今は放置という決定をした後、最後に馬車の下回りを地面を這いながら見てみる。

 板バネのサスペンションは……壊れていないな。馬車の床も……これまたひび割れてはいるが、今は大丈夫だ。

 で、車軸は……あー、こいつが異音と振動のおおきな原因だな。真っ直ぐなはずの軸が、中央で大きくたわんでいる。おそらく、スピードを上げたことによって軸に想定外の力がかかり、曲がってしまったのだろう。

 これは……力技で直すか。

 てなわけで、馬車の下に潜っている俺のことを心配そうに近くでかがみながら見ていたシエナに『危ないから離れておいてくれ』と注意喚起をしてから……うつぶせ状態から仰向け状態にくるりと体の向きを変える。で、たわんでいる軸を両手で持って……ベンチプレスの要領で力を入れて上に押し上げる。


 グ……ググ……


 馬車が音を立てながら上へとほんの少しだけ上がるが……たわみは直らない。俺の筋力だけでは無理らしい。

 ということで、ローラを付けて持ち上げようとしたのだが……めちゃくちゃ手が汚れていることに気がついた。

 (……この手でローラを付けたくないし、ローラでこの車軸も持ちたくないな……)

 そういうわけで、ローラ無しで筋力アップの魔術を重ねがけしながら……持ち上げる。


 ググ……ググググ……


 五十回ほど重ねがけをしたらなんとか良い感じのところまで馬車を持ち上げることが出来て……軸のたわみが大分マシになった。これなら異音もおかしな振動も起きないだろう。

 軸をある程度真っ直ぐに直した俺は、満足げに馬車の下から出ると……シエナが『お疲れさまです』と俺をねぎらってきてくれた。なんかあれだな。いいな、これ。



 その後は、前と同じようにテントを張って飯を食って、交代交代で夜の見張りをして……一日を終えた。


 次の日。今回は起きた瞬間に『メガバチ』を飲んでシャッキとした俺は、早速馬車を走らせて昨日到着する予定だった街へと向かう。



 一時間ほどで街に到着した俺達は、門番と色々話をしたり手続きをした後、街と外を隔てる大きな門を馬車に乗りながら通過して中へと入ったのだが……まず最初にバカでかい誰かの銅像が目に入ってきた。

 (格好からして炭鉱かどこかで働いている人っぽいな。)

 そんな銅像を横目に、いい感じの宿屋の前で馬車を止めて……早速宿を借りる。

 で、宿屋の風呂場で体をぱぱっと綺麗にした後、俺達は馬車を修理するための資材を買うために街へと繰り出した。

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