第60話 ウルッフ

 森の中は今にもモンスターが飛び出してきそうな雰囲気で、俺達にドラゴンがこの近くにいるかも知れないと思わせるのには十分な感じだった。

 メリッサの木を意のままに操るスキルで、進路を邪魔する木の枝や草木をのけてもらって……前へと進む。


「出てきそうで出てきませんわね……」


 俺の後ろを付いてきているメリッサが辺りをキョロキョロと見渡しながら話しかけてきた。


「そうだな……ここまでの雰囲気があるんだから何処かに強いモンスターがいると思うんだが……」


 俺も周囲を警戒しながら慎重に進む。

 (今のこの状況は嵐の前の静けさというやつだろう。こういう時に限って油断してしまって、手痛い被害が出るんだ。しっかりと気を引き締めなければ……)

 そんなことを思っていると……突然、左斜め前方からカサカサッ! という音が聞こえてきて


「きゃあ!」


 と音にビビったメリッサが俺に背後から抱きついてきた。


「メリッサ。B級ランクのお前がビビってどうするんだよ。こういうときこそ冷静沈着に、様々な事態を考えて、おっぱいが柔らかいと考えるべきなんだ」

「……お、おっぱい?」


 メリッサが困惑したような顔をする。

 ……おっぱい? 今俺はなんて言ったんだ? 背中に当たる彼女の胸が柔らかすぎて頭がおかしく――

 主にメリッサの予想外な行動で頭がおかしくなった俺を……突如前方から現れた数匹のウルッフが正気に戻してくれる。


 グルルルルル……


 俺達はすぐさま戦闘態勢に移り、攻撃をしようとしたのだが……オオカミみたいな見た目をしたウルッフはただ唸るだけで襲ってこない。

 これはチャンスとこちらから攻撃を仕掛けようとした瞬間、ウルッフ達が俺達を無視して右後方へと逃げていった。

 ……なんだったんだ?


「エリック様。さっきのモンスターの様子が少しおかしかったように感じました。私達ではないなにかに怯えていると言いますか……何か嫌な予感が……」


 シエナが俺の元まで来て、彼女が感じた違和感を伝えてきてくれる。

 ……何かに怯えている……それも俺達ではない何か……か。

 過去の経験から言うのであれば、俺達は今、非常にマズイ事態に遭遇している可能性が極めて高い。

 モンスターとは、怯えることなどめったに無い生き物だ。怯えるのは、冒険者に殺される間際か、自分よりも遥かに強いモンスターに出会ってしまった時。

 あのウルッフたちは、別に殺される間際でもなんでも無かったし……

 つまり。この近辺にめちゃくちゃ強いモンスターが潜んでいる可能性が高い、と。

 さっきのモンスターたちは、左斜め前方から来たから……そちらの方向に『何かが』いる可能性がある。

 俺は考えをまとめて、後ろで待機していたシエナたちに伝える。


「ここから先、かなり強いモンスターがいることが予想される。そうだな……少なくとも『高難易度』モンスターがいると思ったほうが良いだろう。ということで、大事なことを伝えておくぞ? 俺が逃げろと言ったら絶対に逃げるんだ。何があったとしても逃げろ。出来れば馬車があるところまで逃げて、それに乗って近くの街まで逃げるんだ。いいな? これは約束だ」

「……分かりましたわ」

「はい、約束します」


 メリッサとシエナがそれぞれ返事をしてくれる。

 ……よし、これで逃げるときは大丈夫だな。

 あとは……


「俺の後ろにメリッサ、その後ろにシエナで隊列を組むこと。まあ、さっきもやってくれていたが、絶対にそれを乱すな」

『はい!』


 二人共元気な返事だ。これにて陣形の事前打ち合わせも完璧だな。

 まあ、どれもこれも前々から言っていることではあったが……さっきのは最終確認も兼ねていたのだ。

 というわけで、俺達は今まで以上に慎重になりながら……ウルッフが出てきた方へと歩みを進めていった。

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