第42話 二人目の奴隷、メリッサ

 メリッサと一緒にいるということに何故か分からないが気まずくなって、部屋のあちらこちらを見ていると、


「ありがとうございます」


 と俺にお礼を言ってきた。

 彼女を見ると、少し顔を赤くしている。


「別にお礼を言われるようなことでもない。そもそも困っていたのはこっちも同じだからな」


 それ以上話が続かず沈黙が流れる。

 ……なんというか、うん……やっぱり気まずい……

 しかし、ここでしっかりしているシエナが話を振ってきた。


「エリック様。メリッサ様に今後の事をお話しておいたほうが宜しいかと」

「あぁ、それもそうだな。メリッサ。俺達は今、緊急クエストをギルドから依頼されて、それに向けた準備をしているところなんだ」

「……緊急クエスト……? なぜS級冒険者が受けるようなものをエリックが……?」


 ……もしかして俺のランクを知らないのか。

 まあ、無理もない。俺がS級になったのって、彼女が丁度奴隷になった頃だったし。ここまでその話が伝わって来ていないのも普通だろう。


 俺は冒険者カードを彼女に見せてあげる。


「実は俺、S級につい最近なったんだよ。で、他の街からドラゴンの目撃情報が入ってきてな。そのドラゴンの所在地を調べるために俺達が捜索隊として――」

「――エリックってS級になっていたんですの!? あの時はC級だったのに! え!? じゃあわたくしってS級のパーティーに入って、それでS級の人の奴隷になるってことですの!? 玉の輿! 玉の輿ですわ、これは!」


 メリッサが急に興奮して大声を出してきた。

 ……いや、もう少し言葉をオブラートにだな……


「ね、ねえ! そこのあなた! エリックとはどういう関係ですの?」

「え……えっと……夫と妻という感じですが……」

「まあ! じゃあ、わたくしもそういう関係になれるのかしら!? わたくしもエリックの奥さんになれるのかしら!?」

「ま、まあ……なれると思います。それに、メリッサ様がエリック様の事を本当に好きなら、そういう関係に二人がなったとしても私は特に何も言うことはありませんし、むしろエリック様の魅力を理解していただける人が増えるということで喜ばしいと思いますが……」

「お、おい……何を勝手に話を――」

「じゃあ、エリック! わたくしをお嫁さんにしてくださいまし! 奴隷じゃなくてお嫁さんにしてもらいたいですわ!」

「いや、話の脈絡がおかしいだろ。ちょっと落ち着けって」


 なんとかメリッサを落ち着かせようとするが、彼女の興奮度合いはヒートアップする。


「何もおかしなことはないですわ! わたくし、強くて優しい人がタイプですの。前のパーティーの彼は、ある程度は強かったけれど優しくはなかったから別に好きじゃなかったんですの。彼と一緒に居たのは、ただただ他のパーティーに入れてもらえなかったから。だから、彼には体を許していませんでしたし、唇さえ奪わせることはさせなかったですわ。でも、今のエリックは物凄くわたくしのタイプですの! 昔、一緒に戦った時も強くて良いかもって思ってましたが、今のあなたはS級ランクで文句無しで強いですし、あんな事があったのにわたしくを許してくれる優しさもあるし……もうわたくしの好みのどストライクですの! ハートを撃ち抜かれましたわ! 好き! 一瞬で恋に落ちちゃったんですの! ですから、わたくしをエリックの奥さんにしてほしいんですの! 駄目かしら!?」


 いや、押しが凄いなこの人。

 あと、なんでさっきは気まずかったのか分かったわ。

 本来の彼女の喋り方はこういう感じなのだ。なのに、さっきまでは遠慮している感じの話し方だったから、いまいち距離感が掴めなくて変な雰囲気になっていたのだ。

 まあ、ある意味心を開いてくれた証なのだろうが……


「分かった。メリッサの気持ちは分かった」

「じゃあわたくしをあなたのお嫁さんにしてくれるのかしら!?」

「……いや、それは駄目だ。シエナも別に他の女性を娶っていいと言ってくれているが……それはメリッサが俺の事を好きで、俺もメリッサの事が好きで。つまり両思いであることがちゃんと分かってからそういう関係になるものだろ?」

「わたくしはあなたの事が好きですわ!」

「うん、まあ、仮に俺の事が本当に好きだと仮定しよう。でも、俺はメリッサのことを好きかどうか現時点では分からない。確かに、綺麗だとか、そういうことは思っているが……恋愛的な好きが俺の中にあるかどうかは分からない。だから、お前を今この場で俺の奥さんにすることは出来ない。ただ、今後俺がメリッサのことを好きだと自信を持って言えるようになれば、そういう関係になってもいいとは思う」


 まあ、メリッサの言葉だとようやく自分を買ってくれたという喜びと、S級ランクという事実に目がくらんで何かの感情と好きを履き違えているようにしか俺には思えないが。


「……そうです……の……分かりました。でも、必ずやエリックがわたくしを好いてくれるように頑張ってアピールしますわ! あと、シエナさん、あなた……こんな面倒な男をよく落とせましたね……正直ここまでアピールしてのあの発言は、童貞をこじらせている人のものにしか聞こえませんでしたわ……」

「まあ……それは……同意します……」

「おい! お前ら! せめて俺がいないところでそういう話をしろ!」

「あらあら。もうこんなに仲良くなって……良いことですね。私からも助言を。エリックさんは押して押しまくると必ずコロッといっちゃう人なので、二人共、ぐいぐい押して自分をアピールすると良いことがあると思いますよ」

『はい!』

「それとですね……」


 店主が彼女たちの耳元で内緒話を始める。

 何を話しているのか気になるが……知らぬが仏のような感じがしたので、少し彼女たちから距離をとった。

 ……というか、なんで俺の性格を店主さんがこんなにも把握してんだよ。

 あと、シエナとメリッサも『肝に銘じておきます』みたいな顔をして彼女の話を聞くんじゃない。

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