第41話 俺、二人目の奴隷を買います!

 シエナが売られていたお店は、この奴隷市場の一本道の一番奥にあった。

 露店には『あなたに最高の奴隷を』と書いた看板が掛けられている。

 いや、マジでシエナは最高の奴隷だったから、この看板の言っていることは正しいな。


 ありがたや〜ありがたや〜と言ってから俺が先陣を切って露店の中に入る。


「ごめんください」

「……あら? あなたは……確かエリックさんでしたね。この前はどうもありがとうございました。お陰様で商売が繁盛しております」


 店に入るなり店主がうやうやしくお辞儀をしてきた。

 ……女性で奴隷商人をやっている人ってかなり珍しいな。

 というか……露出度高いな、この人。エロすぎ……っと、シエナがいる前でこの思考はまずい。


「あら、シエナも一緒にいらしたんですね。……ふむふむ。ちゃんと愛してもらっているようで何よりです」


 店主が俺の後ろに居たシエナを見てニッコリと笑う。

 悪い人ではないようだ。まあ、シエナの奴隷になった経緯があれだから、本当のところは分からないが。


 俺は少し気を引き締めながら、話を切り出す。


「今日は、というか今日も奴隷を探しに来た。色々あって、すぐにでも冒険者としてモンスターと戦える人材を探している」

「……なるほど……その条件に見合った娘が一人だけいます」


 シエナの言っていた子だろうか?


「ちなみに、その人は元冒険者か?」

「あら? ご存知で? そのとおりです。まあ、元というよりかは冒険者のライセンスは持っている子なので、現在進行系で冒険者ですが」


 私に付いて来て下さい、と言われたので俺達は彼女の後に付いていく。


「シエナが売られていた時も、その人はいたと聞いたんだが」

「ええ。そのとおりです。正確に言えば、半年前からずっと売りに出されている娘ですが」


 ……なんか……怪しいな、その子。

 要は売れ残っているってことだろ? 腕っぷしが良くて売れないって、なにかとんでもない問題をかかえているんじゃ……


 不安になりながら、『どうぞ』と言われた部屋の中に入ると……シエナと同じく奴隷の首輪を付けられた女性が編み物をしていた。

 ……ん? この人、どこかで見たことがあるような……


「メリッサ。お客様です。内職を止めて、お付き合いしなさい」

「……どうせすぐに帰りますよ、その人も。私の話を聞いたら、みんな苦笑いをして……」


 彼女は俺を見るなり手を止め、驚きで目を見開いた。

 身長は一般的な高さで、髪は透き通るような銀色。顔は可愛らしく、胸は小さい。そして人間ではなく、亜人のエルフの冒険者。名前はメリッサと。

 …………彼女は…………


「あなたは……エリック……」


 俺の名前を言うなりワナワナと震えだす。

 彼女はメリッサ。俺が、自分のユニークスキルの副作用を初めて自覚した時のパーティーメンバーの一人だ。確か、ジョブは魔術師だったはず。

 まずい、恨みつらみをぶつけられる……と思って身構えていると、彼女は予想外の行動を取ってきた。


「本当にあの時はごめんなさい! 当時の私は色々と混乱してしまっていて、街に帰るなり、自分の心を落ち着かせるために親しい友人に事の顛末を話したら……私の知らない間にあっという間に話が広まってしまって……あの時は当然の報いだと思っていたです。でも……時が経つにつれて、エリックがわざとあんなことをしたわけじゃない、と分かってきて……ひどいことをしてしまったと……後悔して……だから、本当にごめんなさい!」


 メリッサが、床に頭をこすり付けて土下座をしながら謝ってくる。

 ……そういう経緯で噂が広まっていったのか。

 まあ、俺も悪かったから自業自得だということで今は納得していることではある。


「別にもう気にしなくていい。ちゃんと副作用について調べなかった俺が悪いんだ。だから顔を上げてくれ。まあ、今も噂が尾を引いていることは事実だが、俺のことを思ってくれる人ともたくさん出会えたしな。大したことでは無くなったんだよ」


 隣で話を聞いていたシエナの頭を撫でる。ああいうことがあったから、シエナと出会えたと言ってもおかしくはないしな。

 俺の言葉を聞いたメリッサが『あ゛り゛か゛と゛う゛』と涙を流しながら立ち上がって、ペコペコと頭を下げてきた。

『いいからいいから』となだめた後、いよいよ本題に入ることにする。


「それでなんだが、今日は俺のパーティーの戦力増強のための人員を探しに来たんだ。ちなみに、メリッサの今のランクは?」

「う゛う゛う゛ぅう………」


 あー、駄目だ。今は絶賛泣いている最中だから話が出来ない。

 困っていると、店主が代わりに話を続けてくれる。


「彼女のランクはB級です。少なくとも半年はクエストを受けていないので腕は落ちているかも知れませんが、すぐに勘を取り戻してクエストを受けられるようにはなるはずですよ」


 ふむ。B級か。

 正直に言えばA級くらいの人が欲しかったのだが……贅沢は言えないな。

 装備をシエナレベルのものにしてあげたらほぼA級相当にはなるだろう。


 戦力的には大丈夫だが……問題は半年間も売れ残り続けている理由だな。


「で、メリッサが売れていない理由は?」

「彼女が抱えている莫大な借金が原因です」

「ちなみにいくらほどで?」

「合わせて金貨二千枚ほどです」


 ……そりゃ売れ残るわ。

 この街の冒険者でさえ、一年間で金貨二千枚を稼げる人はほんの一握りしか居ないのだ。というか、五年かけてその金額に届く人もほぼいないと思うが。

 で、その金額を言葉は悪いがたかだかB級ランクの奴隷一人に払うなど……普通はないだろう。というか、そんな人いたらただの頭のイカれた人である。

 俺が色々と考えて押し黙っていると、店主がメリッサの借金を背負うまでの話をしてきた。


「彼女は仲の良かった男性冒険者と女性冒険者の三人でパーティーを組んで楽しく冒険者人生を送っていたらしいのです」


 ああ、そう言えばそうだったな。

 男がメリッサともう一人の女性とイチャコラしていたところを見たわ。


「ですが、丁度今から半年前。パーティーを組んでいた男性から『腕のいい女魔術師が俺のパーティーに入ることになったから、お前は出ていってくれ』と言われたらしいのです」


 ……まあ、珍しくはない話だな。

 同じジョブの人は二人も要らないし。メリッサよりも強い人が入ってきたのなら、パーティーから追い出すのも分かりはする。

 ただ、仲が良かったんなら、ジョブチェンジとかさせるなりして手元に置いておいてやれよ、とは思うが。

 店主は話を続ける。


「それで泣く泣くそのパーティーから出ていったらしいのですが……憂さ晴らしにとギャンブルにお金を突っ込んで遊んでいたのですよ。でも……結局見事に大負けをして、手元の資金がすっからかんになってしまったんです。ただ、そこでギャンブルを止めることはせずに借金をしてまたギャンブルをして……資金が尽きたらまた借金をしてギャンブルをして……という生活をメリッサは送っていたのです。ひどい話ですよね。でもある日、彼女にお金を貸していた私が『いつ返してくれるのですか? 返せないなら奴隷になってください』と迫ったら……めでたく奴隷になってくれた、という話です」


 これでお終いです、というように店主は口を閉じる。

 ふむ。確かに中々にひどい話だった。

 というか、メリッサに金を貸していた人ってこの店主だったのかよ。人に金を貸せるぐらい金を持ってるんだな。

 まあ、そこらへんはどうでもいいか。


「で、メリッサを買うとしたらどれくらいになるんだ?」

「そうですね……彼女自身の価値は、金貨二千枚以上あるのですが……借金の額が相当なものなので、締めて金貨三千枚というところが妥当でしょうね」


 ……事前報酬がメリッサを買うだけで吹っ飛ぶじゃねえか!

 防具とか武器とかも色々買っていたら、クエスト達成報酬の方も結構の額が飛んでいくぞ、これ。

 シエナがひぇー……と小さく声を上げる。

 そうだろ? ひぇー、だろ?


「もう少し安くできないのか? 借金の額を払えば売ってくれるとか……」

「……無理ですね。エリックさん、エルフが奴隷として売られているなんて相当珍しいのですよ? それに、彼女は処女なのです。とんでもない逸材なのですから、本当ならシエナよりも高い金貨五千枚でもいいくらいなんです。それを金貨三千枚という超特価で売ると言っているんですよ。流石にこれ以上は値引きできません」


 店主はグイグイと俺を押し気味に説明をしてきた。

 な、なるほど……処女情報がいるかどうかは疑問だが……

 俺が唸っていると、ようやく泣き止んだメリッサが口を開いた。


「……パーティーから追い出されて、惨めったらしくギャンブルをして借金を負った私なんて、誰も買いたがらないですよ。それにエリックの場合は、あの噂のこともあるからなおさら私なんか買うメリットがないです」


 彼女は悲しそうな顔をする。

 まあ……そう思うのも仕方ないのかも知れないけど……

 シエナの方を見ると……俺から何かを感じ取ったのか頷いてきた。

 ……だな。


「よし決めた。メリッサをその言い値で買おう。金貨三千枚で、だ。…………よっこらっせっと。はい、これ。中には三千枚入っているはずだから確認してくれ」


 背中に背負っていた荷物を下ろし、ギルドから受け取った袋を取り出して……店主に渡す。


「お買い上げありがとうございます。流石はエリックさん。可愛い子には目がないですね」

「……そういうことではないが……そう見えても仕方がない行動ではあるな」


 完全に否定出来なかった自分が情けないが、目がないのは事実なので仕方ない。


 店主は俺から金貨の入った袋を受け取り、『枚数の確認と、奴隷契約の準備をして参りますので、少しお待ち下さい』と言って部屋から出ていった。

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