第36話 デブネズミ討伐 その1

「それで、今回の討伐対象であるデブネズミとはどういうモンスターなのですか?」


 草原を歩きながらシエナが質問をしてくる。


「そうだな。まあ、直接見るのが一番早いんだが、名前の通りデブなネズミだ」

「そ、そうなのですか……」

「しかし油断は禁物だ。このデブネズミ。めちゃくちゃでかい。そうだな……大きさで言えば俺達人間よりもはるかにでかい。で、体重もめちゃくちゃ重いから上からのしかかられると圧死する」

「……それは……凄いですね」


 シエナが冷や汗を流す。

 ……まあ、動きも遅いからのしかかられるなんて普通はありえんがな。

 『そんなことはめったに起きないから安心してくれ』と言いながら周りをぐるっと見渡すが、デブネズミは見つからない。

 もう少し先まで行ってみるか。



「エリック様。もう一つ質問をしても宜しいでしょうか?」


 二人で並んでしばらく歩いていると、シエナが話しかけてきた。


「いいぞ」

「ありがとうございます。その……先日討伐したウサッギは、私達に害を及ぼすようなモンスターではなかったように思えるのですが、なぜ討伐対象に選ばれているのでしょうか?」


 ……ふむ。普通は考えないことを疑問に思うんだな。流石はシエナだ。


「そうだな……単刀直入に言ってしまうのであれば特に理由はない。強いて挙げるとすれば……ウサッギがモンスターだからだ。モンスターは殲滅する。それがギルドと俺達冒険者の方針だからな」

「……そう……なのですか……」


 シエナは少し悲しそうな顔をする。

 心が優しいな。


「ここまで厳しい考え方をしているのには理由があってな。モンスターはたまに突然変異をするんだ。その変異種は元々の個体に比べてとてつもなく強くなる。それに例外はない。まあ、なぜ変異するのかは分からないが。つまりは……今は害がないモンスターもその変異種が現れたら……俺達に害を及ぼすようになるかもしれない。だからそうなる前に殲滅をするんだ」

「そういう背景があったのですね。……ちなみにどれくらい強くなるのですか?」

「そうだな……例えばウサッギの変異種が現れたなら……討伐難易度は『簡単』から『高難易度』くらいまでには跳ね上がるだろうな。あの素早さに攻撃力まで追加されたら堪ったもんじゃないし」

「なる……ほど……」


 まあ、想像で言っているだけだから本当かどうかは分からんが。

 ただ、今までの経験上それくらいの難易度にはなるだろうとは思う。それくらい変異種というのは厄介なのだ。


 シエナをちらりと見ると、少し怯えている様子だった。

 なんというか小動物みたいで可愛いと思ったが、怯えさせたままなのは可愛そうなので、彼女の頭を撫でて安心させる。


「まあ、大丈夫だ。シエナは必ず俺が守る。それこそありとあらゆる手段を使ってだ。だから……その……そこまで怖がる必要はない」


 途中から自分の発言がかなり恥ずかしいことに気がついて、照れが出てしまった。

 なにが『大丈夫だ。シエナは必ず俺が守る。それこそありとあらゆる手段を使ってだ』だよ。そんなセリフ、イケメンか超強い冒険者にしか許されてないっての。

 色々と後悔をしていると、シエナが彼女の頭を撫でていた手を取ってきた。

 彼女はギュッといつもよりも強い力で握ってきており、俺を逃すまいというような意思を感じ取れた。


「……どうした?」

「……エリック様にそう言ってもらえて嬉しいです。でも……私を守るためにエリック様が死んでしまうとか……そういうのは嫌……です。私を置いて……先に死なないでくださいね……?」


 シエナの顔を見てみると……彼女は少し目をうるませていた。

 ……おいおい、可愛すぎかよ。その行動が俺を殺しにかかっているわ。胸がときめきすぎて心臓が止まりそうだわ。


 あたりを瞬時に見渡して、モンスターや冒険者がいないことを確認してから……シエナにキスをする。

 バカですか? とか言われそうだが、したい衝動に駆られてしまったから仕方ない。

 甘いキスを堪能したあと、口を離す。


「安心しろ。シエナをおいて先に死にはしない。というか、シエナも俺をおいて先に死ぬなよ? 約束だからな?」

「もちろんです! 死ぬ時は一緒です!」


 にっこり笑顔でシエナがそう言ってくる。

 ……そのセリフは中々インパクトがあるが……まあ、可愛いから良いか。


 お互いの愛を確かめあった後、デブネズミの捜索に戻った。



 一時間後。

 一生懸命歩いて探し回ったのに一匹も見つからず、疲れたし汗かいたし、ちょっと川で休憩ついでに汗を洗い流そうかと思って近くにある小さな川に行ったら……三匹のデブネズミとバッタリ出くわした。

 幸い、向こうが気づく前に一旦その場を離脱できたので、まずはきちんと戦闘準備を整えてから掛かろうという話になった。


「想像以上に大きかったです……本当に倒せるのでしょうか?」


 シエナがキャロを起動して杖に変形させながら不安を吐露する。


「不安になる気持ちもわかる。だが、デブネズミの討伐難易度は『簡単』だ。ウサッギとそう大して変わらない。俺の言うことをしっかりと聞いていれば大丈夫だ」

「……ですよね。宜しくおねがいします!」


 よしよし。いい感じにやる気になってくれたな。


 シエナに状態異常回復ポーションを渡した後、二人同時にユニークスキルを使用して……シエナがポーションを飲み、準備は完了だ。

 今回はもしものことを考えてのユニークスキル発動だ。さっきもいったが下手を打ったらあいつらに押しつぶされるからな。


「さて、今からシエナにはデブネズミ三匹を討伐してもらうが……今回はドレインではなく、違う方法で倒してみよう」

「はい!」

「で、その方法だが……リワインドという魔術を使ってもらおうと思う」


 シエナが『リワインド……?』と首をかしげる。まあ、知らないよな。というか知っていたら怖いわ。

 俺は丁寧に説明をする。


「リワインドっていうのはヒーラー専用の魔術で、効果は時の巻き戻し。これは回復魔術であるヒールの応用でな。回復魔術とは怪我をした人を癒やす魔術なんだが、原理としてはその怪我人の時間を巻き戻して、負傷する前の状態に戻すことで怪我を無かったことにするというものなんだ。で、リワインドはそれを応用して、時を巻き戻して巻き戻して……そのモンスターがこの世に生まれる前の状態まで際限なく戻す。要は、存在を消す魔術というわけだ」

「……なるほど……」


 俺も詳しい原理は分からんが、そういう解釈で間違ってはいないはずだ。

 実際、リワインドという魔術を使ったら目の前のモンスターがドンドンと幼くなっていって……ついには消えてしまったらしいし。見たことはないけど。


「リワインドもドレインと同じく杖の先端を目標に向けて、《リワインド》と唱えれば起動する。ただ、魔力の消費が激しいらしいから、体がしんどいと感じたらすぐに魔術を止めるんだ。それが続けば魔力不足になって気絶してしまうからな」

「分かりました。やってみます!」

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