第22話 シエナの冒険者登録へ! その3

「シエナさん、早速で悪いんだけど……エリックの傷を治して貰える?」


 ミラさんが申し訳無さそうな雰囲気をだしながらシエナにお願いをする。


「はい、もちろんです。エリックさん、今楽にしてさしあげますからね」


 シエナが右胸ポケットからキャロを取り出す。


「あ、アクティベートっ……す!」


 シエナは少し恥ずかしがりながらキャロラインと同じように叫ぶと……またたく間にキャロは杖へと変形した。

 俺は一つ訂正を加えるために紙に文字を書いてシエナに見せる。


<シエナ。『アクティベート!』で良いと思うぞ。『っす!』はキャロラインの口癖だから、そこまで真似をしなくてもちゃんと起動するはずだ>

「は、はいぃ……」


 顔を真っ赤にするシエナ。うむ、いいですな!

 よしよししたくなっている俺にミラさんが水を差してくる。


「ねえ、ちょっと待ってくれる? なんでシエナさんがその杖を持っているの?」

<キャロラインから俺が買い受けました>

「……私はS級冒険者以外には売るなって……あれ?」

<キャロラインは何も約束を破っていませんよ?>

「……確かに破っていないわね。まあ……言葉の穴をすり抜けてはいるとは思うけど……エリックと一緒にいるシエナさんならいいっか。ある意味スキルの希少性で言ったらS級だものね。うん、そうね。それを使うことを許可するわ」

「ありがとうございます!」


 よし、話もまとまったし早く治してもらう。


<じゃあシエナ。治癒を頼む。杖の先端を俺に向けて『ヒール』と言えば回復魔術が発動するはずだ>

「分かりました」


  シエナは俺に言われたとおり杖の先端を俺に向けて


「ヒール!」


 回復魔術を放った。

 すると……みるみる痛みが引いていき皮膚の腫れも引いて……元通りになった。


「シエナ。もう十分だから止めてくれていいぞ」

「あ、あの! 起動した回復魔術が止まらないんですが!」


 シエナがあたふたした様子で俺の顔を見てくる。

 ……あ。そういえば伝え忘れてた。


「杖を握る力を弱めれば勝手に止まるはずだぞ」


 言われたとおりにシエナが握る力を弱めると……回復魔術が止まった。

 俺が冒険者の先輩として彼女に色々と教えていかないといけないが……気が回らないところがあるから今みたいにシエナを不安にさせてしまう時が今後も出てきそうだ……気をつけなければ。

 一人反省会をしているとシエナが俺の顔を触ってきた。


「……元通りになったみたいです。よかったです……」


 優しい顔をシエナがする。

 ……あぁ……俺の心までヒールしてくれるとは……本当にいい子だなぁ……

 ミラさんも俺の顔をペタペタとしてくる。


「元通りね。本当にごめんね、エリック」

「気にしてないからいいですよ。というかいつものことですし」


 ここまでボコボコにされたのは久しぶりだが、殴る蹴るはミラさんは日常的にしてくるのでもう慣れた。

 いや、慣れちゃいけないんだけど蹴る時は生足で蹴ってくるし、殴る時も大抵は怪我を負わないように加減はしてくれているのだ。まあ、少し痛い甘噛を犬からされている、みたいな感じだし、可愛いミラさんとスキンシップが取れていると思えば安いものである。

 自分でも顔を触ってみたが、完全に治っているように思えた。

 どうやらシエナは問題なく回復魔術を使えたようだ。


 完全に回復したので、ついでにユニークスキルも試そうと思い立つ。

 というわけで、ミラさんにここで試してみていいか聞いてみることにした。


「ミラさん、ここでシエナのユニークスキルがどんな感じか見てみたんですけど……いいですか? 第三者が一人いると助かるんですが……」

「まあ、仕方ないわね。二人きりでやってとんでもないことになったら困るし、私もシエナさんのスキルは気になるから良いわよ」

「ありがとうございます!」


 案外ミラさんが乗り気だったのは助かった。これで、不測の事態が起きても大丈夫だろう。


「じゃあ、シエナ。ユニークスキルを発動してくれ。その後に俺がスキルを使うから」

「分かりました!」

「シエナさん。ユニークスキルを発動するときは、あなたの場合だと頭の中で強く『副作用を打ち消したい!』と思うことが大事よ。それでおそらく発動するはずだから」

「やってみます!」


 シエナが目を閉じ、ムムムムという顔をする。

 ……何も変化が起きないから発動しているかどうかが分からないな……


 しばらく後、シエナが目を開ける。


「どうだ? 発動した感じがするか?」

「…………いえ。特に……変化は……」


 シエナがなぜか少しだけ太ももをもじもじさせて返事をしてきた。

 ……ふむ、そうか。俺とかだったら身体強化とかしたら体に変化を感じるから分かるんだが、シエナの場合は周りの人に影響を及ぼすもの。つまり自分の体には何も起きないからユニークスキルが発動した感覚が無いんだろう。


「じゃあ、試しに俺がスキルを使ってみよう。それでシエナとミラさんが発情しなければシエナのユニークスキルは発動していると分かるな。うっし、試しに……」


 瞬時に心肺機能強化を発動する。


「どうだ? 発動してみたけど」

「……さっきと変わらない……ですね」

「……なにも感じない……何も感じないわ! 体のほてりもないし! シエナさん、やったじゃない!」


 ミラさんがシエナの手をとって上下にブンブンと振る。

 シエナもにっこり笑顔で手を取られているが……顔が少し赤い。それに少し吐息も荒くなっていた。


「シエナ。少し様子がおかしいぞ? どうした?」


 スキルの発動を中止してシエナに近づき、落ち着かせるように背中をなでる。

 ミラさんもシエナの様子がおかしいことに気がついて『大丈夫?』と心配する顔になる。

 おそらくスキルの副作用が出ているのだろう。熱が出ているのか? それとも心肺機能が低下して息苦しくなっているのか?


「んっ……体の火照りが……私がユニークスキルを発動してから止まらなくて……」


 シエナがまたしても体をあちこち自分で撫でて、自慰と言えない行為をしだした。

 ……エロいな……じゃなくて! どうやらシエナは発情してしまっているらしい。

 ミラさんの方を見ると、彼女は別になんともないようだ。

 つまりは、この発情はシエナのユニークスキルを使ったときに起こる副作用ということで間違いないだろう。

 俺の副作用はシエナのスキルのおかげで無効化されたが……シエナが代わりに発情してしまうとは……

 ユニークスキルの副作用というものは、基本的に使用者がスキルの発動を止めれば消えるものだ。まあ、人によってその消えるまでの時間はまちまちなのだが……

 ついでに言うと、例えば喉が渇くという副作用であればスキル発動中でも水を飲めばその副作用は収まり、イライラするというものであればモンスターに攻撃をすれば収まる。

 つまりは、発動中でも対処可能の副作用もあるのだ。

 ただ……この場合は……何をすれば収まるのだろうか? 俺みたいに対処不能の場合もあるため、シエナもそれに該当している可能性はあるが……


 うーん、と頭を捻っていると俺の腕に自分の胸を押し付けて、コシュコシュと上下運動を始めた。

 ……やっべ、超柔らかい!

 快楽に流されそうになる心を必死に押さえつける。


「お、おい、シエナ。今俺は大事なことを……というか、一旦スキルの発動を止めようか! な?」

「……んっ……んんっ……もう少し……この感覚を……味わっていたいです……」

「……ったく、もう〜仕方ないな〜」

「――ちょっとエリック! シエナさんがとんでもないことになっているのになに雰囲気に流されているのよ!」


 ミラさんがシエナを俺から無理やり剥がし、『しっかりしなさい!』とシエナの肩を叩く。

 ある程度強い力で叩いていたのか、シエナの目が若干正気に戻る。


「シエナさん。今すぐユニークスキルの発動を止めなさい! 頭の中で『発動を止めたい!』とかもしくは無心になれば止まるから!」


 ミラさんが必死にスキルを止めにかかるが……シエナは再び虚ろな目になり『んっ』とエッチな声を出しながら上の空で自分の体をあちこち撫ではじめた。

 ……駄目だ、完全に向こうの世界に行ってしまっている。

 こうなってしまってはかなり強烈な物理的、もしくは心理的な衝撃を与えないとスキルが止まらない。

 ミラさんと顔を見合わせる。彼女はコクリと頷き、俺も頷き返す。

 すまない、シエナ。今から俺はとんでもないことをする。でも、これもお前を救うためにすることなんだ。許してくれ。

 俺はシエナを正気に戻すため、自分の正気を捨ててズボンに手をかける。

 深呼吸を一つ。

 覚悟を決め、いざ尋常に――


「ちょっとエリック!? なにここで脱ごうとしているのよ! 正気に戻りなさい!」

「シエナのために正気を捨てて心理的な衝撃を与えようとしているんですよ! それにミラさんも頷いていたじゃないですか!」

「バカなの!? そんなことを私は想定していないわ! いいからズボンから手を離しなさい!」


 顔を真っ赤にしながらミラさんが喚き散らすので、仕方なく一旦手を離す。


「じゃあどうするんですか。シエナを見て下さい。服の上からでも分かるレベルで乳首を立たせて、物足りなさそうな顔をして喘いでいるんですよ!」

「何まじまじと見ているのよ! というかあんた少し黙っていなさい! 今からシエナを正気に戻すためにアレを飲ませるんだから」


 ミラさんが戸棚から真っ黒い液体が入った瓶を取り出し、大きいコップに瓶の中身を注ぎだした。

 ――アレは!! 


「ミラさん! いくらなんでもソレはまずいですよ! 飲んだ人が正気ではなくなるものじゃないですか!」

「四の五のうるさいわね! もともと正気じゃないんだからこれを飲めばあまりの不味さに正気に戻るわよ!」

「んなむちゃな!」


 言い合っている間にミラさんが黒い液体を注ぎ終わり、ソレがたっぷりと入ったコップをシエナのところへ持っていく。

 ……ああ、駄目だ! 可愛そう過ぎて見てられない!

 俺もアレを泥酔しているときに飲んだことがあるのだが……不味すぎてに一気に酔いが覚めて、二時間ほど胃が焼けるような感じが続いて苦しんだのを今でも覚えている。

 確かにアレを飲めば正気でない人は正気に戻り、きっとシエナのスキルもキャンセルされて副作用も収まるだろうが……


 ミラさんが発情しているシエナの口を無理やりこじ開け……俺が止める間もなく……一気に黒い液体を流し込んだ。


「…………ンンンッ! ぉごぼぼぼぼぼぼぼ」


 シエナの目に光が戻り、アレの不味さに脳が追いついて悲鳴を上げ、白目を剥きながら体をビクンビクンさせる。



「アッ……アェッ……」


 ミラさんが全ての液体を注ぎ終わった後、そこには正気どころか完全にキマってしまったシエナがそこにいた。

 ……女性がしちゃいけない顔をしていますよ……でも、これはこれで……ちょっと……下品なのですが……エッチですね……

 冗談はさておき。流石にシラフ状態で発情しているだけだったシエナは耐えきれなかったようだった。

 俺は持ってきていた荷物から水筒を取り出し、シエナに飲ませる。

 んぐ……んぐ……と勢いよく水は飲むが……まだ目がキマってしまっている。


「……いくらなんでもあの量は飲ませすぎですよ」


 再度荷物を置いているところまで行きある物を探す。

 この状態から回復するためにはアレが必要なんだが……どこにやったかな……


「私はあれくらいだったらここまでにはならないと思ったのよ。自分が二日酔いのときとかはあの大きさのコップになみなみと注いで一気に飲んで酔い醒ましをしていたし」

「皆がミラさんみたいに強くはないんですよ?」


 目的のブツを探しながらミラさんに小言を言う。

 ……ミラさんは味覚がおかしいのか、よほどのMなのだろう。

 あの液体はとにかく苦い食材をこれでもかというくらいぶち込み、水で煮込んで出てきた汁を凝縮して作ったこの街名物の飲み物だ。

 主な用途は酔い醒ましだが、シエナのように副作用によって正気でなくなってしまった人に飲ませるのにも使う。


 俺は荷物からお目当てのものを見つけ、それを持ってシエナの傍に行く。


「エリック、何をしようとしているの?」

「これを飲ませて正気に戻そうかと思いまして」

「……あぁ、体の異常を回復させる薬を飲ませるのね」


 俺が持っていた細長くて赤い瓶を見てシエナさんが納得する。

 彼女が言ったように、この瓶の中には体の異常を回復させる液体が入っている。薬の名前は『異常回復ポーション』と言う。

 簡単に効能を言えば、体に回っている毒を無毒化する、眠気が消し飛ぶとかそんな感じである。

 一つあたり銀貨一枚、という薬の中では結構高額な部類に入るものだが、シエナのためならどうってことない値段である。

 というか、今気がついたんだけど、これを最初からシエナに飲ませればこんなことにはならなかったんじゃ……

 若干の後悔を胸に瓶の蓋を取り、地面に横たわっていたシエナの頭を持ち上げて、口の中にゆっくりと液体を流し込む。

 すると……全て口の中に流し込み終えた頃には元のシエナに戻っていた。


「あ……ありがとうございます……途中から記憶がないのですが、色々と私がやってしまったようで……」

「気にするなシエナ。これは俺たちが悪いんだ」

「そうよ。シエナさんは何も悪くないわ」


 俺とミラさんは二人でシエナの手を取り、君は悪くない、としばらくの間言い続けた。



 シエナが正気に戻った後。

 本来であればこれから簡単なクエストを、と思っていたのだが……流石にこの副作用だとそれは怖い。

 発情自体はおそらく、というか確実に異常回復ポーションで収まるだろう。

 ただ、それは一時的なものかもしれない。スキルの発動を止めてから時間差でもっと強い副作用が来る、ということもありえる。少なくとも今日一日は経過観察をしたほうがいいだろう。

 というわけで、今日は家に帰ることにした。


「ミラさん、今日はありがとうございました。今日一日何事もなければ明日、簡単なクエストを受注します」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「シエナさん、気にしなくていいわよ。こういうのもギルド長の役目なんだから。それとクエストの件、了解したわ。いい感じのものを用意してソフィアに渡しておくわね」

「ありがとうございます、ミラさん!」


 大分ミラさんに時間を取らせてしまったので、この後すぐに俺たちは帰路についた。

 今度、何かギルドの手伝いをしてミラさんにこのお礼をしよう。



 シエナの冒険者登録をし終えたその日の夜。

 俺が作った晩御飯を二人で美味しく食べて、二人共別々にお風呂に入り、今日は朝も早かったしもう寝ようかな、と思って自室のベッドで横になっていると……

 コンコン、というドアをノックする音が俺の部屋の扉から聞こえてきた。


「エリック様……入っても……宜しいでしょうか……?」


 シエナが少し遠慮がちな声で聞いてきた。

 ……ふむ。もしかして何か副作用が時間差で出てきたのか?

 扉の前まで行って開けると……スケスケでエロエロの服を着たシエナが扉の前で立っていた。

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