第17話 俺、シエナの防具を買います! その2

「エリック! 試着室まで来てくないか?」


 俺の予想通り、約十分後、カイルが俺たちを呼んでくる。

 試着室と書かれた部屋に入ると……ヒーラー用の防具と思われるものが一式並べられていた。


「どれもこの街一番のヒーラー専用防具さ! まだ販売前の商品も取り入れたから、最新の防具でもある。エリックさんにはいつもこのお店を利用して貰っているからサービスだよ!」


 これはありがたい。

 シエナには最高級で最新の防具を、と思っていたのだ。カイル、分かっているじゃないか。


「カイル、恩に着る。じゃあ、早速だがシエナ。一回着てみてくれるか? 着替え終えたら呼んでくれ」


 そう言って俺とカイルは部屋を出る。

 サイズは彼のことだ。一瞬見ただけで把握して選んでくれたんだろうが、着心地というのは本人でないと分からない。

 いくらいいものでも自分に合わない防具は邪魔にしかならないからな。



「エリックさん、彼女の事を溺愛してますね。いつもなら『一番いいのを頼む』なんて言わないのに」


 カイルが部屋から出るなりそんな事を言ってきた。

 ……まあ、俺の防具は『付けていてもおかしくはない装備で、十分命のことも考えられている防具だが、かといってS級ランク相当のものではない』というものだしな。

 対してシエナの防具は『駆け出しの冒険者が付けているのは流石にいくらなんでもおかしいS級ランク相当のもの』だと見て分かった。

 彼が溺愛していると思っても仕方ない。

 実際他人から見たら溺愛しているのに変わりはないのだから否定はしないが……口に出すのはちょっと、と思ったので適当に理由をつけることにした。


「まあ、せっかくニーニャのお店でいい服を買ったんだ。ここでもいい防具を買い揃えてやりたい。そう思っただけだよ」

「素直じゃないエリックさんもいいものだね。で、ちなみにニーニャさんの所ではどれくらい出費したんだい?」


 ……本音がバレているが、カイルが自ら話題を変えてきたので俺もそれに乗る。


「金貨五百枚だ」

「――正気かい!? いくらなんでもそれは高すぎる! エリックさん、それぼったくられてるよ!?」


 シエナと俺と同じ感想を述べてきた。

 まあ、そうなるよな。


「ただ、シエナの服には今はまだ市場に出回っていない新素材が使われていてな。めちゃくちゃ貴重なやつらしいからバカみたいに高くなったんだと」

「……だとしても、いくらなんでも服にそれは……」

「カイル。お前、惚れた女に服をプレゼントするのに妥協するのか?」


 俺はずいっと彼に近づく。


「いや……妥協はしないけれど……」

「俺もそうだ。だから、ぼったくりな値段だと思ったとしても、それを買ってやるのが男だ」

「いや、その理論は――」

「――ニーニャがな。スケスケのエロエロの寝間着をサービスしてくれたんだ」

「……エリックさん。それで流されちゃ駄目でしょ……」


 ジト目でカイルが俺のことを見てくる。

 ……こいつは既婚者だ。だから女性にモテない男の気持ちが分からないのだ。

 スケスケのエロエロの服を渡されたら、ボッタクリ価格でも首肯せざるを得ない。

 いや、むしろその寝間着の値段が金貨五百枚だと言われても俺は納得してしまうかも知れない。


「男はエロに生きている生き物――」

「エリック様。着替え終わりました」


 シエナが部屋のドアをガチャりと開けて俺たちを呼んできた。

 シエナの方を見てみると……よし、話は聞こえていなかったっぽい。セーフ!


「カイル。直前の発言は記憶から消してくれ。なんなら金を払うから」

「……言わないさ。エリックさんの名誉のために、ね」

「ありがとう」

「……?」


 シエナは『何の話ですか?』と聞いてきたが、『なんでも無いよ』と言って無理やりこの場を乗り切った。



「シエナ。着心地はどうだ?」


 俺とカイルは試着室の部屋に入った後、シエナに着心地を聞く。

 それがわざわざシエナに試着させた目的だったしな。


「特に違和感とかそういうのはないですね」


 ふむふむ。まあ、ニーニャのところで買った服の上から肩から太ももの中腹辺りまで長さがあるローブを羽織って、腰回りには装飾品が付いたベルトのようなものを付け、白くて膝辺りまで足を保護している頑丈そうな靴を履いただけ、というような感じだしな。


「靴は重くないか? それで全力疾走できるか?」

「はい。見た目の割にはかなり軽いので大丈夫だと思います」


 冒険者はモンスターから逃げるときのことも考えないといけない。

 装備が重すぎていざというときに『走れないでごわす』なんてなったら大変なことになるからな。


「それは良かった。で、カイル。もしかして販売前の商品というのは靴のことか?」

「そのとおり! これは、従来の靴と比べて強度は倍に、重量は半分になっている画期的な商品さ!」


 カイルが腕を組んで『自慢の商品です!』というような顔をしてくる。

 たしかにこれは凄い。大抵は強度が増すと重量も比例して重くなるものだ。

 それを反比例の関係にするなんて……流石はカイルだな。


「なるほど。で、一応他の防具の説明もしてくれるか? シエナ、それぞれの防具の役割をしっかり覚えておくんだぞ? モンスターとの戦いで重要になってくるときもあるからな」

「はい!」


 いい返事が返ってきた。頭をナデナデして褒めてあげたい。


「じゃあ、まずは肩から羽織っているローブから。このローブは防御力は無いに等しいんだけど、その代わり俊敏さが増すような効果が魔術によって付与されている。まあつまりは、逃げ足が速くなるということだね。モンスターからの攻撃を受けながら戦うというような戦闘をするのは前衛職で、後衛職は攻撃を避けながら戦う、というのが基本的な立ち回りになる。つまりは防御力を上げるよりは俊敏さを上げたほうがいいってわけさ。ただ、エリックさんは前衛職なのにペラペラの防具を好んで使っているけどね」

「……俺の場合は一撃離脱戦法を主としているから、重い防具は付けていないというだけだ」


 シエナがふむふむ、と頷きながら話を聞く。


「じゃあ、次に腰に巻いているベルトについて。このベルトには装飾品がついているんだけど、それには魔石が使用されている。魔石というのは、例えば『筋力増強』という効果が期待できる魔術が付与された宝石のことだね。これを使わずに服に魔術を直接かけたのがさっきのローブだけど……魔石を使用したのほうがより効果が期待できるんだ」


 ローブに付けると流石に邪魔だからつけていないけどね、とカイルが補足を入れる。

 一つ息を置いて彼は説明を続ける。


「で、シエナさんの装飾品にはさっき例に上げた『筋力増強』の他に『俊敏性向上』、『回復系魔術の効果向上』の三つの効果が付与している魔石を使用しているんだ。要は魔石で回避能力と魔術を使った時の回復能力を底上げしている、というわけさ」


 こちらが注文していないこともカイルが必要だと思えば勝手に入れてくれる。

 正直俺はそこまで頭がまわらない人なのでこういうのは非常にありがたい。


「靴に関してはさっき説明したから省略するね。以上が防具のそれぞれの特徴なんだけど、質問とかあるかい?」

「今のところはないですね。また、何か気になるところなどが出てきたら質問しに来てもいいですか?」

「大歓迎さ! 防具について話すのは大好きだからね!」


 早速シエナは俺が言ったことを後々実践できるように根回しをしている。

 ……シエナが強くなったらパーティーのリーダーを彼女に譲るのもいいかもしれない。



 一通り説明も聞き終えたので、お会計を済ませることにする。


「カイル。今回の合計はいくらだ?」

「全て合わせて金貨六百枚というところかな」

「ふぁっ!」


 シエナがまたしても素っ頓狂な声を上げる。

 俺も似たような声を心の中で出したのだが……もしかして、カイルの言い間違い、もしくは聞き間違いかもしれない。もう一度聞こう。


「すまん。もう一回言ってくれ」

「金貨六百枚だね」


 カイルの顔を見る。カイルも俺の顔を見る。

 シエナの顔を見る。シエナも俺の顔を見る。

 俺は、本当に? とカイルに目で訴える。カイルは冗談ではこんな値段を言いませんよ、と目で訴えてくる。

 シエナの方を見ると、またしてもぼったくられているのでは? という目線を俺に寄越していた。

 シエナ、俺もそう思う。

 この流れが二回目だとも思ったが。

 俺が黙りこくっているとカイルが口を開いた。


「エリックさん、シエナさんのことが大事であれば防具を妥協してはいけないと思うんだ。今回は靴と魔石がかなり高いせいでこの値段になってしまったけれど……命と比べれば安いものじゃないか」

「……それは……まあ、そうなんだが……」

「エリックさん、スケスケの――」

「――よし買った! 買います! 買わせていただきます! というかそれは言わない約束だろ!?」


 カイルが『冗談ですよ』と俺を軽くいなすが……冗談でも『スケスケの』って言った時点でアウト判定だよ!


 背負っていた荷物の中から金貨が入った袋を取り出し、カイルに渡す。

 カイルはニーニャのように袋に飛びつくことはせず、落ち着いて袋を受け取りお金を数えだした。


「エリック様。いい防具をありがとうございます! 全身全霊でお役に立てるようにがんばりますね!」


 シエナは両手を胸の前でぐっと握り、『ガンバリます!』というやる気に満ちた顔で俺を見てきていた。

 ……なんだか犬みたいだな。いや、侮辱をしているわけではなく。

 犬みたいに忠実で、なんというか頭をなでたくなるような、そんな気になるのだ。まあ、撫でないけど。

 俺は頭を撫でる代わりにシエナの肩を優しくポンポン叩きながら『期待しているぞ!』と言っているとカイルがあっという間にお金を数え終えた。

 ニーニャといいカイルといい……みんなお金を数えるのが早いな……

 カイルに『まいど!』と言われて袋を返される。

 家を出る前まではパンパンに膨れていたのに、今は半分くらいの大きさになっていた。

 それもそうだ。金貨二千枚入っていたのに、今では九百枚しか入っていないからな!


 用事も済んだので、次の目的地へとシエナと一緒に向かった。

 カイルはお金のマークが付いていそうな目をしながら俺たちの姿が見えなくなるまで店の外で手を振っていた。

 ……いい奴なんだが……その目はやめたほうが良いと思うぞ。

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