第12話 いざ秘湯へ! その2

 シャカシャカシャカ……

 現在、シエナが俺の頭をいい力加減で洗ってくれている。

 俺は目を閉じ、リラックスした顔で彼女に頭を委ねている状態だ。


「エリック様……どうでしょうか……」

「ふぅ……うん……すごく……気持ちいいぞ……」


 本当に洗い方が上手で、気を抜くと寝てしまいそうになる。

 最初は、息子が起きないか不安だったが、全くその心配はなく、むしろ俺の息子までもが弛緩していくのを感じる。


 ジャァーとお湯を頭にかけられて泡がどんどん流れていく。

 シエナがお湯をかけながらゆっくりと頭を撫でてくれるので、なんというか心が童心に返っていくというか、彼女のことをお母さんと呼びたくなる気持ちになる。

 ……いや、本当には言わないよ?


「じゃあ、次は……お体を洗わせていただきますね」

「よろしく頼む」


 頭でこんなに気持ちよかったのだから、体なんてとんでも無いことになりそうだな。

 期待をしながら待っていると……ペタっと何かが背中に触れた。

 ……俺はてっきりタオルで洗うのかと思っていたんだが……この感触と形、おそらくシエナの手なんだろうが……


 ペタペタペタ……ペタペタペタ……


 彼女は洗うわけでもなく、ただ背中をペタペタと触っているだけだ。

 これはこれで気持ちがいいのだが……なんというか……その……下品なんですが、息子が……


「シエナ? 何をしてるんだ?」

「あ! すみません! その……たくましい背中だな……と思って……ついつい……」

「――よし! 思う存分触っていいぞ!」


 シエナに激甘な俺は、即座に彼女に思う存分背中を触ってもいいと許可を出す。

 たくましい背中か……野郎どもと一緒にお風呂に入った時は他の奴らの方が筋骨隆々で、自分の肉体なんて大したこと無いなぁ……と思っていたんだが、シエナにとってはたくましく見えたらしい。

 肉体を褒められるっていうのも、新鮮で嬉しいな。


 しばらくシエナに背中をあちこち触らせた後、いよいよ彼女が石鹸を手にとって俺の背中を洗い出した。


 ペチャペチャペチャ……コシュコシュコシュ……


 ……背中から発せられる音がエッチだな……

 いや、タオルを使わずに手で洗っているからそういう音が出ているんだが……


「肌はデリケートなので、手で洗わせてもらっているのですが……如何でしょうか?」


 ……そういう理由か。シエナは本当に気遣いができるいい子だな……


「いい感じだぁ。すごく……いい感じだぁ」

「それは良かったです」


 昨日までは、こんなことを女性と出来るとは思っても見なかったんだが……人生とは何が起こるかわからないものだな……

 色々と思い返していると、


「では、次に腕を洗わせてもらいますね」


 と言ってきたので「頼む」と返しておく。


 シエナは俺の右隣に移動してきて、まずは右腕を洗い出した。

 俺は現在、温泉に置いてある椅子に座って洗ってもらっているんだが……目を開けていると、シエナが腕を洗うために膝をついているため、彼女のその……胸がチラチラと見える。

 俺の理性は必死に見ないように目線を逸らしたり、閉じたりしようとしているんだが……俺の本能がそうはさせてくれない。

 結局理性と本能のせめぎあいで目線は真っ直ぐに固定され、視界にちらりと胸が入るという感じになってしまった。

 

「んしょ……んしょ……」


 シエナは腕を上から下へ、下から上へと往復運動の要領で洗っている。

 これは……いかん! そういう想像をしたら息子が起きてしまーーあ……もう起きてるわ……

 俺の息子はサイレント起床をしていたらしい。

 やばい……股間をタオルで隠しているから地面と並行の角度までだったら隠せるが……それ以上の角度になったら……隠しきれない……!


 タイムリミットまでほとんど猶予がなかった。


「では、次は左腕の方を洗わせていただきますね」


 シエナは俺の前を通り、俺の左隣に移動して、今度は左腕を洗い出す。

 

 コシュ……コシュ……コシュ……


 往復運動、少しエッチな言い方をするのであればピストン運動をシエナは相も変わらず一生懸命している。

 くそッ……鎮まれ……鎮まれって言ってんだろぉ!

 俺の思い虚しく、俺の息子はかけていた布とキスをする。

 地面と角度が平行になったという合図だ。

 というか、腕を洗われて起立するって変態じゃね? 


 これ以上はおっ立てていることがバレてしまうので、作業を中断させようとする。


「よし! 大分きれいになったし、いつまでもシエナに洗ってもらうわけにもいかないから、先に温泉に浸かっていていいぞ? いくら暖かいとはいえ、その格好になってから結構時間も立つだろうし、風邪を引いたら大変だからな!」

「いえ! エリック様を洗っていたら体が熱くなったので、大丈夫です! お気遣いは嬉しいのですが……私の事は気にせずにご主人様らしくドカッと座っていて下さい」

「いやいやいや! 自分の体調なんて思ったよりコロッと変わってしまうものだから! シエナが体調を崩したら心配だから! それに俺も自分で洗ってみたいし? だから先に入っていていいぞ!」

「……エリック様は……やっぱり……私に洗われるのは……嫌だった……ということですか……?」


 今までの勢いは何処へやら、いきなりしおらしくなって、上目遣いで俺に『本当のところはどうなんだ?』と聞いてきた。ピストン運動は続けたまま。

 ……もしかして……シエナ、お前……俺がそういう態度をされると激甘になるということをもう理解して……

 そこに思い当たれば、俺に怖いものなんて無い。そうさ、もう一回『いいから先に温泉に入ってなさい』と言えば、彼女も引いてくれるはずだ。よし、言うぞ! 俺は断るぞ!


「――全く……仕方ないなぁ〜……思う存分洗って良いぞ!」

「ありがとうございます!」


 無理でした。はい、いくら彼女が俺の弱点を分かった上でそういうお願いの仕方をしてきていると理解しても、無理なものは無理です。

 目線を下に向けると、俺の息子は最後の砦であったタオルを押しのけ、上へ上へと仰角を上げていっていた。

 ふむ、これの言い訳を考えていたほうが良さそうだな。

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