第6話 いざギルドへ! その4

「これが……『お守り』ですか……」

「そう。で、これはユニークスキルを使うにあたって重要なものなのよ。ユニークスキルとは、ただ一つの能力と直訳できるけど、私達は冒険者の秘めた能力と言っているわ。言葉通り、通常は秘めた力だから使用できないの。ただし、それを……秘めた力を冒険者がいつでも、どんなときでも使えるようにしたのが……この『お守り』っていうわけ」

「……なるほど……つまり、『お守り』単体では意味を成さず、冒険者が持つことによって真価を発揮するアイテムなのですね」

「あなた、賢いわね。どう? エリックとの契約を破棄して、私の部下にならない?」

「どさくさに紛れて俺からシエナを奪いにかからないで下さい」


 シエナ、凄い賢いな……と感激していたのに……

 即座にツッコミを入れて、シエナを引き抜かれるのを阻止する。


「エリック! あなたそんな口叩いているんだったらもう書類書けたんでしょうね?」

「いえ……まだです」

「じゃあ、こっちはいいからさっさと書きなさい」

「……はい」


 くっそー! そっちが変なこと言うからこうなったのに!

 またまた、筆を動かす作業に戻る。


「……あ、あの……私は……エリック様の元に居たいと言うか……なのでごめんなさい!」

「シエナさん。あなた本当にいい子ね。でも、大丈夫。冗談だから」


 ……たぶん冗談じゃなかったと思うんだよなー、俺の経験上。

 まあ、ツッコむとまた怒られるので何も言わないが。


「で,ユニークスキルについては話したわね。じゃあ、本題。エリックが女性冒険者から何故あのような扱いを受けているのか。それは、彼のユニークスキルに問題があるのよ」

「女性を発情させるというユニークスキルの副作用があるとさっき聞きましたが……」

「よく覚えていたわね。まあ、そうなのだけど、まずは彼のユニークスキルについて教えておくわね。彼のユニークスキルは、極限まで自分の体を強化すること。これは筋力強化とか視力強化とか、体力強化とか、ありとあらゆる強化を指すわ。正直言って、他の冒険者はもっと凄いスキルを持っていたりするのだけれど……エリックの才能と努力もあってS級ランクになったのよ。さっき、『A級ランクがせいぜい』とか本人は言っていたけどね、私からしてみれば胸を張って『S級ランク』といえる実力はあると自信を持って言えるわ」

「……ご主人様も頑張っておられたのですね……」


 シエナが涙声になりながら俺の過去の努力について思いを馳せている。

 聞いているこっちが恥ずかしくなるな、これ。


「話がずれたわね。で、ユニークスキルを使用すると必ず副作用が出るの。これはどんなに凄い冒険者でも同じ」

「例えば、どのような副作用があるのですか?」

「そうね……汗がいつもより多く出るとか、喉が乾きやすくなるとかだったり、はたまた髪の毛が抜け落ちたり……まあ、これらは副作用としては軽いほうね」


 ……髪の毛が抜け落ちる副作用って結構重いんじゃね? 俺だったらユニークスキルの使用をよほどのときじゃないと躊躇うレベルなんだけど…… 

 というか、さっきの掲示板での喧嘩で横から入っていったハゲの人は、あれ、副作用だったのか……スキルを使うときの彼の葛藤に胸をはせると、あれ? なぜか涙が……


「それで、エリック様の副作用が……『女性を発情させる』というものだということですか?」

「そういうことになるわね。まあ、より厳密に言うなら『エリックがユニークスキルを使ったときに、周りにいる女性のみが発情する』、ということだけど。普通、副作用って自分の体のみに影響を及ぼすものなんだけど……エリックだけは違ったのよ。周りに影響を及ぼす副作用だったというわけ」

「……そう……なのですか……」

「で、ここが肝なんだけど、発情する対象が『女性のみ』なのよね。しかも、彼が初めて女性を発情させたのは、下手をしたら死ぬ危険もある『戦場』だったらしいし。実際に、男女混合のパーティーを組んでクエストに行ったときにそんな事が起きたら……あとはシエナさんでも想像できるんじゃない?」

「……誰か……亡くなったのですか……?」


 すごく深刻そうな声をしてシエナがミラさんに尋ねる。


「…………そんなことにはならないわよ。そのパーティーにはエリックがいたのよ? 私が認めた男なんだから、昔であったとしても誰かを死なせるなんてことにはならないわ」


 いくらなんでも溜め過ぎでしょ。引っ張るだけ引っ張っておいて大したことなかったし。

 それに、俺に対するミラさんの期待と評価が凄い。過大評価も良いところだ。


「良かったです……」

「まあ、誰かが死ぬことはなかったけれど、戦場で女性冒険者達が自慰を始め、ある意味とんでもない事態にはなったらしいわよ? でしょ、エリック?」


 ……ここで俺にボールを投げてきますかぁ……


「うん……まあ……そう……だなぁ……」


 凄い曖昧な返事になってしまった。

 いや、別に女性冒険者の自慰をガン見していたわけじゃないし、極力見ないようにしていたし、なんなら敵が強かったからそんな余裕もなかったわけで。やましいことなんて何一つ無いのだが……なんだか後ろめたい気持ちにはなるわけだ。


「まあ、そういうことがあったりはしたらしいけど、パーティーメンバーは全員無事で帰還できたらしいの。だけど……エリックが街に戻ると『女性を戦場で発情させたとんでもない男』という噂が街中に広まっていたらしいわ。そのときって、女性冒険者が先に街に戻っていたのよね?」

「まあ、たぶんそうだと思います」

「だそうよ。たぶん、先に戻った女性冒険者が広めたんでしょうね」


 ひどい話ではあるが、まあ、とんでもない行為を少しとはいえ俺に見られ、かつ原因が俺にあったのだから、文句は言えない。

 俺のユニークスキルが原因だと分かった理由は……たぶん、あのときのパーティーは女性二人と男性一人の合計三人の仲良しグループに俺が野良で入ったからだろうな。

 お互いの副作用については知っていただろうし。


「……エリック様が悪いわけではないのに……」


 シエナが残念そうな、無念そうな声でつぶやく。

 ……そう思ってくれるだけで俺は十分だ。良かった、彼女が俺のことを嫌いにならないでくれて……


「まあ、私もその通りだとは思うけど、被害を受けた女性冒険者達がエリックを罵るのは仕方ないわ。彼女たちの気持ちも分かるし。でも、私が憤慨しているのは、実際に被害にあっていない人もエリックのことを同じように罵っていることよ。彼は、ここから大分遠いところからやってきたの。でも、この街でもエリックがここに来る前からのその噂はすでに広まっていたのよ。まあ、各地のベテラン冒険者が集まってくるところではあるからおかしな話ではないけれど……これじゃあ、あまりにも……あんまりじゃない」


 ミラさんには、こういうところがあるから何をされても許せるんだよなぁ……

 俺がこの街にやってきて、居場所がないときに彼女が色々してくれて、本当に助かったし。

 まさしく俺の『恩人』というわけだ。


「それに、彼はその事件以降、女性とパーティーを組んでいないのよ!? なのに未だにずっとそのことを言われるなんてひどいと思わない!?」

「はい、私もそう思います。これじゃあ、あまりにもエリック様が報われなさすぎです!」

「よね!?」

「はい!」


 ……恥ずかしいからもうやめてくれ……もう分かったから……二人の気持ちはわかったから……


「コホン。少し興奮してしまったわ。あなた、中々話が分かる子じゃない。これからエリックのこと、よろしく頼むわよ?」

「はい! 全身全霊でエリック様にお仕えします!」


 ……涙がちょちょぎれてきたわ……嬉しい……嬉しいですよ……



 さて……ちょうど必要事項の記入も終わったし、話も一段落ついて良い時間だし、そろそろクエストに出発するか。


「じゃあ、俺達はそろそろクエストに行ってくるので」


 俺は立ち上がり、部屋を出ていこうとする。シエナも俺に続いて腰を上げた。


「ちょっと待ちなさい! ……記入漏れは無いみたいね。あと、もう一つ。いちばん大事な事をエリック、あなたシエナさんに聞いていないんじゃない?」


 何か言い忘れているぞ、とミラさんが言ってくる。

 はて? なにか伝え忘れて……あ! そうだ! 確かに聞いていないことがあったわ。


「シエナ。お昼ごはんは――」

「エリック! そうじゃないでしょ!? シエナさんを戦場に連れて行くのよ? あなたのユニークスキルでシエナさんが発情しちゃうでしょ?」


 ……あぁ……そういえばそうだ。女性と一緒にクエストに行くなんて久しぶりだったし、さっきの嬉しさで頭から抜け落ちていたわ。

 シエナの方を向き、目を合わせる。


「……シエナ。今から君を戦場につれていくことになる。ユニークスキルは、戦闘が始まるとすぐに誰もが使う能力。俺も例外ではない。つまりは……確実に君を発情させることになるんだが……それでも……一緒についてきてくれるか……?」


 『やっぱり……それはちょっと……』とか言われるのを覚悟していたのだが……


「はい! 私は、何処へだって、何があったってエリック様に付いていきます!」


 即答でそう返してきてくれた。

 ミラさんも満足そうな顔だ……


「よし! じゃあ、クエストに行くか!」

「はい!」

「ちょっと待ちなさい」


 意気揚々とクエストに向かおうとしていたのに、またしてもミラさんが止めに入る。


「ちょっとミラさん。何かの嫌がらせか何かですか?」

「……シエナさん。あなた、クエストに行くのは初めてかしら?」

「はい。初めてですね」


 少し緊張した面持ちでシエナが答える。


「エリック。今聞いたとおりシエナさんは初めてクエストに行くのよ? だったら、あなたのユニークスキルの副作用を安全な場所で一度体験させておくべきじゃないの? 初めてのクエストで初めて発情なんてしてみなさい。いくら簡単なクエストだったとしても何が起こるかわからないわよ?」


 ……たしかにそのとおりだ。ミラさんは気が回るなぁ……

 というわけで、彼女の助言通り、安全な場所である『この部屋』で一度ユニークスキルを使ってみることにした。

 ユニークスキルが発動する条件は、俺の場合は頭の中で例えば『筋力強化をしたい!』とか『心肺機能を強化したい!』と思うこと。発動にかかる時間はほとんどゼロに近く、即座にユニークスキルが発動すると考えてもらっていい。


 俺はモンスターと遭遇したということを想定して、ユニークスキルを発動し、全身の筋力強化をした。


「試しにユニークスキルを使ってみたけど、シエナ、どう――」

「んはっああん……っ!」

「エリック! あなたっ……んんんん……! くっ……んん……ッ!」


 『どうだ』と聞こうとしたら、シエナとミラさんが発情してしまった。

 ふむ……やはりこうなるよな。


「これは……ぁうんっ……中々……ぃんああぁぁ……!」


 シエナは太ももをモジモジさせながら手で自分の体を撫でている。

 ……エッチすぎて鼻血が出そう。


「ちょ……っと……んくぅ……エリック……あぅぅううんんン……! あんた………ンンンンン……ッ!」


 ミラさんは、胸を自分でイジりながら俺を睨んでくる。

 ……なんだろう。必死に快楽を我慢しているんだけど、体が勝手に動いている、みたいな感じですごい良い。

 

 しばらくシエナたちの様子を見たあと、ユニークスキルを解除して彼女たちを強制発情から開放する。

 ユニークスキルをなにもないときに発動するのはやっぱり新鮮だな。普通は、モンスターと交戦しているときにしか使わないからな。


「シエナ。これが俺のユニークスキルの副作用だ。……これを体験してもなお、俺と一緒にクエストに付いてきてくれるのか……?」


 『やっぱり止めときます』と言われても彼女を責めはしないのだが……


「……んっ……私は、何処へだって、ぁぁぅん……っ……何があったって……ぅんっ……エリック様に付いていきます……」


 先程と同じことを、笑顔を俺に向けながら言ってくれた。嬉しい……嬉しいですよ……

 若干今も発情しているが、もう少ししたら落ち着くだろう。


「ミラさん。ありがとうございました! これで安心してクエストに向かうことが出来ます」


 頭を下げて、服が乱れたミラさんにお礼を言う。

 彼女の助言がなかったら、もしかしたらクエスト中に事故が起きていたかも知れないからな。


「……ふッ……ふッ……ふッ……エリックッ! あんたッ!」


 ……頭を上げてミラさんを見てみると……顔を真っ赤にして怒っている様子だった。


「ちょっとちょっと! いきなりどうしたんですか? ミラさんが安全な場所で一回ユニークスキルを使えと言ってきたから、俺はここで――」

「ええ、ここなら安全でしょうね! でも、私もここにいるでしょ!? 周りにいる女性は発情するのよ!? 私も巻き添えを食らったじゃない!」

「いや、前に一回ミラさんには体験してもらったじゃないですか。そのときは『私ならこれくらいのこと余裕だわ』とか自慰しながら言っていたじゃないですか。だから、今回も――」

「自慰している地点で大丈夫じゃないことに気がついてくれるかしら!? ただの強がりに決まっているでしょ!?」


 やばい、完全にお怒りになられてしまった。 

 確かに、今思い返してみればミラさんがいるここで使うのは良くなかったと思う。

 ただ、さっきも言ったように彼女は『こんなもの余裕だわ』って言ってたし、安全な場所って言ったら他には俺の家とかになるが……戻るのもなぁ……って思ったし……

 でも、これは俺の配慮が足りなかったな。うん。


「すみません! 今度お詫びとしてミラさんの大好きな果物を持ってくるのでそれでなんとか……許してください!」

「あなたそんなことで……でも、そうね。私も一部、いや、ごく一部悪かったと思わなくもないから、それで許してあげるわ。心が広い私に感謝することね」

「ありがとうございます!」


 ……ミラさんからの信頼度が高くて助かった……

 というか、実際に心が広いしなぁ……本当に許してもらえてよかった。


 

 シエナの発情が収まったのを見て、もう一度『すみませんでした!』とミラさんに謝り、今度こそクエストに出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る