ユニークスキルのせいでモテない俺は、酔っ払った勢いで奴隷を買いました。

あきつしま

第1話 俺、奴隷を購入しました その1

 夢を見た。

 奴隷の証である首輪を付けた物凄く綺麗で気品ある女性を、奴隷市場で見かけて衝動買いをしてしまった夢だ。

 ……おかしな話だ。俺、エリックはこれでもあることで有名な冒険者なんだ。奴隷を買ったなんて皆に知られたらとんでもないことになる。

 そうさ、昨日お酒を少し飲みすぎたから、それのせいで頭の悪い夢を見てしまったんだ。

 ハハ、もうそろそろ頭も冴えてきた頃だろうし、目を覚ますとしよう。そして、起きてすぐに冷たい水で顔を洗ってスッキリするんだ。


 思考が回り始め、日の明るさがまぶたを通り越して俺の眼球へと届き、周囲の音を拾えるようになってきた。


「……グスン……グスン……」


 すると、なにやら俺の顔の上から泣き声が聞こえてくる。

 ……何故か分からないが、俺の頭が目を覚ますなと警鐘を鳴らし始める。

 おかしいな。俺は一人暮らしのはず。昨日、何かあったのか……?

 思い出そうとするが……夜からの記憶がない。友人と酒を飲みに行ったところまでは覚えているんだが……


「グスン……グスン……」


 今なお泣き声が……というかなんだこれ? 泣く時って『うわーーーん』とか「うぅぅぅ……」とか、そんな感じじゃないのか?

 なんだよ、「グスン」って。口で言ってんだろ、それ。

 目を開けて確認したい。というか今すぐツッコみたい。

 しかし、しかしだな。非常にまずい予感がするのだ。

 そう、具体的に言うと、さっきの夢が現実だったのではということだ。

 いや、奴隷を買うこと自体は珍しくない。そう、この世界ではそういうことは一応認められている……のだが……

 さっきも言ったように俺はあることで有名な冒険者だ。

 実力? まあ、そこそこだ。

 権力? まあ、それもそこそこだ。

 俺が有名になったのはそれではない。

 俺は……戦闘中に女性を発情させる男、ということで有名になったのだ。

 『カッコいい姿を見て興奮する』とかそういう次元の話ではないのだ。『発情』と言ったように、俺が戦っていると女性はエッチな気分になってしまうのだ。原因は……ある程度検討はついているが……確実には言えない。

 今はそれはどうでもいいのだ。話を戻そう。

 俺は女の人を発情させてしまう。それも大事な大事な戦闘中に。

 想像してみて欲しい。女性がいるパーティーで俺が戦った時のことを。

 想像通り、それはもう大変だった。あの時は、回復役と魔術を遠距離から放つ二人が女性だったのだが、俺が戦闘を開始した途端、突然発情しだして、自慰を戦場でし始めたのだ。

 パーティーは俺の他にもう一人男が居たのだが……すっごいムンムンしながら強敵と戦って危うく死にかけた、という……ひどいことになった。

 それで、戦闘が終了して、大丈夫か? って近寄ったらその二人はまたたく間に逃げていったんだ。あのときは泣いたなぁ……

 で、街に戻ったら……俺は『戦闘中に女性を発情させる男』として名が知れ渡っていた、という経緯。

 そのパーティー戦までは、男のみのパーティーで戦っていたので気づかなかったのだが……それ以降、俺は女性と共に戦うことが出来ず、野郎どもと組むか、一人で戦ってきたのだ。

 で、だ。そんなとんでもないやつが『奴隷を買った』と知れ渡ってみろ。

 『ついに性欲が抑えられなくなって慰み者にするために買ったに違いないわ!』とか、「戦場で発情させて見て楽しむつもりね!」とか、今まで怖がって近寄ってこなかった女性が、いよいよ俺を敵視して殺しに来るかも知れない。じゃなくても、俺の独身人生が決定してしまう。

 どうしよう、マジで夢じゃなくて本当に奴隷を買ってしまっていて、その人が今、この場にいるのだとしたら……どうしよう!

 目を閉じながらアワアワとしていると……


「グスン……まだ起きないのでしょうか? かれこれ一時間ほどずっと泣き真似をしていたのですが……なかなか難しいものですね」


 顔の上からまた声が女性の声が聞こえてきた。

 ……いや、これ確実に女の人が俺の部屋に居ますわ。それに……この声。記憶はないが聞き覚えがあるわ。うん、夢で見かけた女性で間違いない。

 しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。今日も俺は朝からソロでクエストを受けないといけないのだ。

 意を決して目を開けると……そこには、夢に出てきた美しく、そして気高いオーラを放っている女性が俺の顔の目の前にいた。

 透明感はありながらもしっかりと血色がある肌に、色素が薄い人特有の茶色い髪、しかも手入れがしっかりとされているのか、長さはかなりのものなのにキラキラと光を美しく反射している。

 ただ……そんな彼女には似つかわしくない奴隷の証である首輪と……薄汚れた服が目に入る。

 ……いや、そんなものが気にならないくらいまじで綺麗だわ。というか、俺の好みにどストライク。

 でも……あれ、夢じゃなかったか……

 嬉しい気持ちと、これからを考えて憂鬱になる気持ちを半々に抱えていると……


「あっ! 起きてくださいましたか! その……大変申し訳ないのですが……私、二日前からなにも食べていなくて……何か食べるものをいただけないでしょうか?」


 目の前の彼女がご飯を作ってくれないかと上目遣いで頼んできた。

 お兄さん、張り切って作っちゃうぞ!


「任せろ!」


 そう言いながら、これからのことをもう一度考えるが……

 うん、まあ……こんなにべっぴんさんなら、街中の奴らに騒がれても別にいいかな!



 ◇



「それで、君は一体誰なんだ? なんで俺の家に、というか部屋にいたんだ?」


 張り切って作った朝食を奴隷の首輪を付けている女性と一緒に食べながら質問をする。

 返ってくる言葉なんて分かりきっていることだ。しかし、もしかしたらもしかするかもしれ――


「私は、シエナと申します。昨晩、奴隷市場で売られていたときにエリック様に購入されて、そのままこの家に連れてきていただきました」


 うん、だよね。やっぱり、そうだよね。知ってた。


「ごめん。その……酔っ払っていたからそこら辺の記憶がなくて……」

「いえ、謝らないで下さい。私としても昨日のことは忘れていただきたかったですし……」


 少し、彼女がうつむく。

 ふむ。俺は何かをしてしまったのだろうか? それとも、彼女が何かをしてしまったのだろうか?


「昨日、シエナに対してなんか嫌なことをしてしまったのか……? だとしたらごめん! 酔っていたとはいえそんな――」

「――いえ! そうではなくて……その……奴隷市場で売られていたときに、悲しくて泣いていたのものですから……そういうところをエリック様に思い出されると……少し恥ずかしいと言いますか……」


 彼女はうつむいたまま、少し顔を赤くする。

 ……え? めっちゃ可愛いんですけど!  

 いや、奴隷として売られて悲しくて泣いていた、という話を聞いてその感想が出てくるっておかしいと思うかも知れない。いや、おかしいのだろう。

 でも、その暗い話を吹き飛ばすくらい彼女が可愛かったのだ。


「大丈夫、本当に昨日のことを何も覚えていないから! で、話を急に変えて申し訳ないんだけど、どういう流れで今のこの状態になったのか簡潔に教えてくれるか?」


 流石に経緯を全く覚えていないのは今後支障が出てくると思ったので、彼女に聞いたのだが……『もちろんいいですよ』と快諾してくれた。


「昨日、奴隷市場で私は売りに出されていました。平均的な売買金額よりもかなり高額だったらしく、お金持ちの人たちがこぞって私を競り落とそうとしていたのですが……そこにエリック様が現れて……金貨三千枚で私を買っていただきました」


 ……ん? 聞き間違いかな? 今、金貨三千枚って言った……?

 ちょっと待ってくれ、昨日の俺。

 三千枚って、普通に王都の一等地で立派な一軒家を建てられる金額だし、俺が頑張って難易度の高いクエストを一年間受けて、ようやくその額に届くかどうかのレベルなのに……たった一日で、しかも酒で酔っ払った勢いで……

 いや、こんな美人さんをそれだけで迎い入れることが出来たと考えたら安いものなのかも知れない。彼女がいなければ、俺は独身道まっしぐらだったわけだし。

 でも……俺の財産が三分の一消えたんですけど……苦労して、頑張って、節約に節約を重ねて貯めてきたお金が……

 頭を抱えたくなっていると……


「エリック様……? もしかして……私を買ったのを後悔していらっしゃいますか……? それでしたら……今すぐに奴隷市場で契約を解除していただければ……お金は戻って……くるかと……」


 彼女が首輪を差し出してきた。

 記憶が全く無いが、おそらく奴隷契約を結んだのだろう。で、その契約はその首輪に掛けられている、と聞いたことがある。

 彼女は、手を震わせながらも首輪を健気に差し出している。

 また、奴隷市場に戻ることが怖いのだろう。それに、次の主人はひどいことをする人かもしれない。

 まあ、それを言えば、彼女からしてみれば俺もそういう人に映っている、もしくはこれから映るのかも知れない。最初は優しくして、徐々にきつくあたりだす、というのはよくある話らしいし。 


「俺は後悔などしていない。まあ、財産が大きく目減りしたのは事実だが、シエナに何不自由ない生活を提供できるだけの金額は持っている。でも……君が契約を解除し、自由の身になりたいというのであれば、俺は止めはしない。それによって何かひどいことをするわけでもない。シエナが望むことであれば、これから出来る限り答えていくつもりだ」


 安心させる言葉をかけようとなんとか絞り出したのだが……ついついカッコつけてしまった。

 というか、これで『じゃあ、お言葉に甘えて……奴隷契約を解除して頂いて、自由の身になります。お世話になりました』とか言われたら……一ヶ月位は寝込むな。告白したことはないけど、好きな子に振られた、みたいなショックが俺を襲ってくると思う。

 しかし


「……! いえ、奴隷契約を解除なんて、そんな……でも、ありがとうございます! ……その……本当に嬉しいです。奴隷として売られていた時は、全てを諦めかけていたのですが……私はいいご主人様に巡り会えたみたいです!」


 ぱぁ! っと明るい顔でお礼を述べてきてくれた。いやー、これは百点満点をあげたい笑顔ですね。

 そのあとは軽い談笑をしながら朝食を食べた。

 いやー、食事がこんなに楽しかったのは初めてだわ。やっぱり女性と食事をするっていいな!



 ご飯を食べ終わった後、『食器は私が洗いますので!』と健気に言ってきたので、洗うのは任せて今日のクエストを受けるための準備をする。

 といっても、服を着替えて、装備を身につけるだけだが。

 俺のジョブは剣士だ。

 まあ、元々は魔術師で中間ポジションをパーティーで担当していたのだが、『戦場で女性を発情させる』ということが分かってからは、さっきも言ったとおり野郎どもと一緒に冒険をするか、ソロで頑張るかの二択になってしまったわけで。

 俺みたいなやつと組んでくれる野郎もあまり居らず、結局はソロで冒険やクエストをすることが多くなったのだ。

 となると、近接タイプでも遠距離タイプでもない魔術師は、俺の実力ではソロをするには荷が重くなってしまったので、剣士にジョブチェンジした、という感じである。

 才能は自分で言うのも何だがあったので、ジョブチェンジしても別に困ることはなかった。というか、魔術師よりも剣士の方が向いているんじゃないか、と思うくらい今では体に馴染んでいる。


 動きやすい服に着替え終え、最後に大剣を抜身のまま腰のフックに下げる。

 今日は動きの遅いモンスターを討伐する予定なので、一撃の攻撃力を重視した大剣を選択したのだ。

 あ、服に関しては鎧は重くて動けないし、俺の戦闘スタイルは一撃離脱を繰り返す、といものなので、必然的に身軽なものとなった。

 一通りの準備が終わったので、キッチンに戻る。皿洗いは無事に出来たのだろうか。

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