第28話 新たな仲間

 雪崩れ込むように入ってきたのは顔の上半分を仮面で覆った男たちで、部屋の中を見回して事情を察したのか、リーダーっぽい人が俺のほうに視線を飛ばしてきた。


「初めまして。我々はギルドより派遣された罪の門です。貴方がフドーさんですね?」


 ここ最近、俺が知らない俺を知っている奴が多過ぎる。


「そうだけど……?」


「この度は商会解体にご助力いただきありがとうございます! ギルドを代表して感謝を」


「別に俺が何をしたってわけでも無いんだが……まぁ、感謝は受け取ろう。それで、こいつ等はどうなるんだ?」


「処分に関してはギフターズが下しますが、おそらくは島流しになるかと。では、私は仕事があるので」


 説明もせず、他の罪の門と共に倒れている男を持ち上げて出て行った。


「……島流し?」


 疑問符を浮かべながらヨミに視線を送れば、思い出したように口を開いた。


「地方に罪人たちを収監する場所があると聞いたことがあるので、おそらくそこのことですね。そこで何が行われているのかは知りませんが」


 まぁ、あまり掘り下げても仕方が無いか。


「とりあえずこの部屋を出よう。ボグ――じゃなかった。ステラ、ここで落ち着いて話せる場所はあるか?」


「えっと……はい。あります。こっちです」


 ステラに連れられて行けば、辿り着いたのは綺麗な食堂だった。この様子だと食事なんかはまともに貰えていたようだ。


 それぞれが腰を下ろせば、廃墟の中では罪の門が歩き回る音が聞こえてくる。


「……さっきの流れで訊くのは狡かったな。改めるのはこっちだ。ネイル」


「んにゃ? あ、白堕についてにゃん? ここに居た白堕は全員、西の有限回廊近くにあるボクの実家で雇うにゃ」


「それ、は……いいんですか? その、私たちは……」


「にゃっはっは! 白堕かどうかはどうでもいいにゃ。ボクの家族は商売っ気が強いからにゃ~。合う仕事も用意するし、何も問題にゃいにゃん」


「願っても無いですが……どうして、そこまで?」


「理由が必要ですか? 私たちはチームの仲間を探しています。優秀な倉庫系の冒険者を。そのためには商会が邪魔だったというだけの話です」


「とはいえ、それはあくまでも口実みたいなものだ。一、悪事を働いていた商会は潰した。二、白堕たちの安全と仕事は保障される。三、それとこれとは別にして、どうしたいのかを決めてくれ、ステラ。恩も義理も無く――他の白堕たちと共にネイルの実家に行くのもいい。ステラの実力なら、どこかの有限回廊を踏破するのも容易いだろう。踏破者の称号を得てのんびり暮らすのもいい」


「……フドーさんたちと一緒に、無限回廊の底を目指すのも?」


「自由だ。そうなれば、歓迎しよう」


 そう言うと、ステラは俺たちの顔を見回して――静かに息を吐いた。


「二度目ですが……もちろんです。よろしくお願いします」


「決まりだな。面接したのは俺だったが、自己紹介を。俺はフドー。ドリフターで、能力は限定的な倉庫系」


「ボクはネイル! 獣人で、能力は~……実際にダンジョン内で見せたほうが早いにゃん」


「私はヨミです。シルキーで、能力は《空白の目録》。モンスターの一部を取り込むことで、その能力を引き出し使うことが出来ます」


 そして、視線はステラへと集まる。


「あ、ステラです。人間と鬼族の混成で、能力は倉庫系の《底無し沼》。生き物以外であればなんでも運べます。あとは……弓なら、少しは使えます」


「では、また後日にステラさんの装備を選びに行きましょう。今日のところはクランに」


「あ、あの――その前に、見届けてもいいですか?」


 その言葉を理解するのに、それほど時間は掛からなかった。


 馬車に乗り込む白堕たち一人一人と挨拶を交わすステラを眺めていれば、罪の門の一人がこちらへやってきた。


「すみません、フドーさん。一つご報告が」


「俺に? なんだ?」


 耳を寄せれば、男は俺にだけ聞こえる声で囁く。


「武器庫である物が見つかったのですが、おそらくフドーさんで無ければ触れられないかと」


「俺だけってのがよくわからないが……わかった。行こう」


「お願いします」


「ネイル、ヨミ。少し行ってくる」


「んにゃ」


「いってらっしゃい」


 罪の門に連れられて再び廃墟の中へ。


 どこに行くのかと思えば、床の隠し扉の先に地下があったらしい。武器庫か……いったい、なんのための武器なのか。


「フドーさん、こちら――」


 言い掛けた罪の門に掌を向けて、黒刀を仕舞いながら武器庫の中を進んでいく。


 ……わかる。雑多に並んでいる武器の中で、一つだけ異様な気配を持っているものがある。


 積み重なる剣の底――手を突っ込んで掴んだものを引き抜けば、汚れた布に包まれていた。それを開けば、中から日本刀の柄が出てきた。


「これが――」


 柄を握った瞬間に頭の中にある《刀収集家》のカタログに書き込まれた。


 無銘刀――血を吸い成長する刀。モンスター以外は斬れない。


 なるほど。染み付いた血がこの禍々しい雰囲気を醸し出しているわけか。サイズは脇差。自分の腕に刃を立てて引けば――斬れてない。これは良いな。人が斬れずにモンスターのみを斬れる。それなら変に手加減する必要も無い。まぁ、人間相手なら刀身を抜くことは無いが……これを常備刀にしよう。


「フドーさん……その、大丈夫ですか?」


「ああ。俺は大丈夫だが――どうしてこれが俺じゃないとダメなんだ?」


「近付いた一人が生気を失ったように倒れました。私達もここに入ると体の力が抜けるので……それならドリフターであるフドーさんに、と」


 血以外の何かも吸っているってことか?


「今はどうだ?」


「今は、平気ですね」


 所有者が俺になったから性質が変わったって感じかな。言ってみれば呪いの刀か。悪くない。


「……この場の武器はどうするんだ?」


「ギルドが引き取り、使える物は武具屋へ。それ以外は鍛冶屋で打ち直しをされます」


 この世界の治安についてあれこれ言う資格は無いが、目の届く範囲で行動を起こさないのは武士じゃあない。放置されずに有効活用されるならそれでいい。


 武器庫を後にして廃墟を出れば、三人が集まって話していた。


「お疲れ。白堕たちの乗った馬車はもう出たのか?」


「はい。みんなフドーさんにお礼を言いたがっていましたが、ステが代わり伝えておくと言って行かせました」


「……ステ? にゃ?」


 いや、俺も引っ掛かったけど、そこはスルーしようとした矢先にネイルが突っ込んでしまった。


「あ、いや、えっと……その、元々そう言っていた癖が出ただけなので……」


「別にいいんじゃねぇか? 仲間になるんだし、今更変に気を遣うのも違うだろ。ほら、腹も減ったし、クランに帰ろう」


 気まずい雰囲気は無かったことにして。


「あ、フドーさん。刀変えたんですね」


「おお、やっぱり気が付くか。そこの地下で見つけたんだが、この刀便利でな――」


 なんてことの無い会話をして、今はステラの気を紛らわすことにしよう。名前呼びのことでは無く、白堕について、商会について――全ての重荷を無しにして、仲間になろう。命を預け合える――いや、俺が守るべき命の価値を、背負うとしようか。

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