第67話 壮行会

しばらくして雑談を楽しんだ代表生一年組はその場で解散となり、それぞれが帰路に着いた


(やれやれ、やっと帰ったか)


少年は手に持つ本をしまい、会計を済ませると店を出ていった。彼らが帰るまで待っていたのは彼らのことを知っていたからだ


(さっきのことで話しかけられるのも面倒だし、魔法学戦について聞かれるのも面倒だったからなぁ)


すると、背中に指すような視線を感じた


(おっ、これは……)


紛れもない。この感覚はで散々味わったものだ


辺りを見回し、人気のない路地を見つけるとそこに足を向ける。奥まで入って行き止まりのような辿り着くと背後から声が聞こえてきた


「わざわざ自分からこんなとこまで来るなんて好都合だぜ」


「面倒ごとはさっさと片付けたいんでね」


話しかけてきたのは先ほどのファミレス店でダル絡みしてきた3人組のリーダー格だ。どうやら僕が出てくるのをずっと待っていたみたいだ


「俺たちに恥をかかせておいてタダで済むと思ったのか」


「ちょっと痛い目を見てもらうだけだぜ」


「安心しな。少しの間、白い天井と友達になるだけだからよ」


下品な笑みを浮かべながら、各々のCAWを取り出した

それと同時にリーダー格が鉱石に機械を取り付けたようなものを自分の足元に投げた


「面白いものを使うんだな」


「へへっ、さっきは人が見てたから使えなかったがこれがある限りてめぇは俺たちに勝てねぇよ」


(恐らくミスリルの鉱石を利用した妨害装置だろうな)


ミスリルは魔力を吸収する性質を持っているため、近くにミスリルがある状態だと魔法が上手く発動しない


「それで僕の魔法を封じるというわけか……」


あの妨害装置は広範囲内に妨害を及ぼすが装置と連動しているCAWに対してはミスリルの性質が無効化されると言う便利なものだ


「全く、舐められたものだ…」


僕は手を天に突き出す


「そんな玩具でどうにかなるとでも思ってるのか?」


「何を言ってやがるんだ?」


「状況がわかってないのかクソガキ? お前の得意な魔法が使えないんだぞ?」


「ハッ! ただの強がりだろ。相手にしなくていい」


確かにCAWを通して発動しようとすると、CAWの魔力が拡散して魔法の発動が困難になる。ただし、それはCAWに限っての話だ


雲が渦巻き、雷鳴が鳴り出す


「落ちろ 黒雷」


少年が呟くと黒い稲妻が三本、不良たちに降り注いだ

一瞬の出来事だったため防御をする暇もなく、男たちは地面へと倒れ伏した


「な、な…んで……?」


かろうじて意識があるリーダーの男は少年を睨みつける

魔法発動の予備動作がなかったのが不思議だったのだろう


「CAWを使わずに魔法を使った、それだけのことだ」


説明を求める男に簡潔に返す


「化け物め……」


「その言葉ももう慣れたよ」


ため息をこぼして言葉を捨てるように吐くと、少年は踵を返しそのまま立ち去った


―――

「入るよ」


そう言ってシズクは部屋のドアを開けた。中に入るとロザリアがお茶とお菓子の用意をして座っていた


「いらっしゃい」


少しの間雑談を楽しんだ後、ロザリアが意を決したかのように口を開いた


「シズク、どうしてを出さなかったの?」


「純粋に剣で競ってみたかったからさ、それに……」


ティーカップに視線を落とす


「実は使ったけど初見で完璧に防がれてしまったんだ。どうやら彼は魔法を察知する能力がずば抜けているみたいだ」


ロザリアが意外そうに相槌を打つ


「今回の敗因は受けにまわってしまったことかな。わずかな隙をつかれて一気に攻め込まれてしまったよ……けど、彼は防御面に関してはそんなに得意ってわけじゃないだろう?」


「あら、それはどうかしらね?」


「彼が灰色じゃなかったらまだ分からないけど、色による弊害は避けられない点だ。それこそ威力が高く範囲の広い魔法を連射しているだけで彼は倒せる」


シズクによるアルスの分析は的を得ていた


(武人ってみんなこうなのかしら?)


ロザリアは興奮気味に話すシズクを横目にお菓子を口に運んでいた


「今は体術で誤魔化せてるけど、経験を積むなかで自ずと自身の魔力の色を恨むだろうな…」


悔しそうにシズク話す。だが、それは大きな間違いだ


「ありえないわ。彼が自分を恨むなんてことは絶対にありえない」


「急にどうしたんだ?」


彼を侮辱されて反射的に声を荒げてしまった


「ごめんなさい、でも一つだけ言わせて。彼は今回の魔法学戦で面白いものを見せてくれるわ」


「……君がそこまで言うのならじっくりと見させてもらおうではないか」


シズクはクッキーを口に放り込み、噛み砕いた


―――

日が経ち、魔法学戦の2日前を迎えた

体育館には全生徒が集められており、開始時間までガヤガヤと騒いでいる


そんな中、一人の女性が教壇の前に立つと何事もなかったかのように静かになる


「君たちは実に優秀だな…これより壮行会を始めるっ!!!


導入は魔法学戦の概要からだった。魔法学戦は一週間にわたって行われること、その間、全学園は休学になるということ。そして、今回の魔法学戦で優勝した学園が亜人との交流会に参加できるということ


(亜人との交流は初耳だ)


ステージ裏で待機している俺は学園長から出た言葉に疑問を覚えていた


「次に、我が代表生を紹介するっ!!!」


学園長が合図を出すと黒髪の少年が歩みを進めた。その後ろについていくかのように俺たちも歩く。


少年が教団の前に立つとその横に並ぶように立った


少年から出る雰囲気はとても暗かった。だが、全生徒たちはなんとなく感ずるだろう。


誰もあの少年には勝てない、と


「僕が代表生のシンだ。去年まで魔族領に行っていたがゆえに魔法学戦に参加できなかったが今回はそうじゃない……宣言しよう、優勝すると、そしてお前たちに栄誉を与えようではないか」


その言葉に体育館が一気に盛り上がる


「今回はどの学年も面白いやつばかりだ。こいつらとなら負ける気がしない……以上だ」


シンが後ろに一歩下がるとそのままステージ裏に姿を消していった


―――

壮行会終了後、俺たちは生徒会長室へと足を運んでいた


「名乗りが遅れたな、僕が代表生のシンだ。と言っても一年どもは知ってるかもしれないがな」


「悪いな、口は悪いが本当は良いやつなんだ」


ルディは頰を掻きながらフォローに入った


「簡単な顔合わせと打ち合わせに入るぞ。今夜、送迎バスに乗って開催地のセントラルに向かう。ホテルに到着後、自分たちの部屋を確認して睡眠を取れ。翌日は場所に慣れるために1日フリーだ。どう過ごすかは任せるが無駄にならないように」


「「「「はいっ!!」」」」


上級生とは放課後に交流をしていたためすんなりと顔合わせは終わり、俺たちの壮行会は終了となった


―――

寮に戻った俺とカグヤはCAWの調整に入っていた


「新しいCAWですか?」


「正解だ。刀よりもこっちの方が好きだからな」


俺は剣の形をしたCAWに魔法式を書き込んだ


「よし、こんなものか。カグヤはどうする? 何か要望があれば聞くが」


「そうですね…あ、魔力の操作に自信がついてきたのでアシスト効率を下げて、その分発動速度に割り振ってほしいです」


「あいわかった」


早速、CAWの調整に取り掛かる。カグヤの魔力パターンは学園に入った当初に記録済みなのでそれを参照しながら進めた


「でもいいんですか? アルスさんの負担になるのでエンジニアの方に任せようと思ってたんですが…」


技術棟で成績優秀な生徒が代表生のアシスタントとして来ることになっている


「エンジニアにやってもらうかは自己申告のはずだ。それにこの程度なら負担の内に入らない」


小太刀のCAWをケースに入れ、カグヤに渡した


「そろそろ時間だ。先に集合場所に行ってくれ」


「どこか行くんですか?」


「CAWの受け取りに行ってくる」


そう言い残し、学園の裏門へと向かった。


「よっ、アルス」


茶色の髪をし、できる男の雰囲気を漂わせた人物がケースを片手に待っていた


「時間がないからさっさと渡せ、【黒鉄】」


黒鉄は彼の二つ名だ


女にモテまくってるであろうその容姿からウィンクが飛ばされる


「久しぶりに会えたのに辛辣だなぁ」


ケースを無理やり取り上げると中身を確認した


「まさか、学生の催し程度でそれを持ち出すなんて何かあったのかい?」


「色々あってな」


「ということはいつものCAWは置いていくの?」


「いや、念のため持っていく」


中のCAWは黒い刃をし、柄頭には宝石をあしらえた高そうな宝剣のようだった。ケースを閉じると黒鉄に背中を向けた


「そっちはそっちでごたついてるらしいが死ぬなよ……」


「誰に言ってるんだい? 君以外に殺されたくはないね」


「ふっ…言ってろ」


夜の闇に消えるように黒鉄は姿を消し、アルスも集合地点へと足速に向かった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最弱色の魔法師 〜転生した元最強、学生になる〜 いーさん @E-san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ