第66話 夕暮れのファミレスで

上級生との顔合わせも一通り終わって、外を出ると日が沈みかけている


「せっかくだし、何か食って行かね?」


アルスとシズクの試合後はルディ直々による実戦での戦い方を叩き込まれた。体をかなり動かして腹も減っていたので全員がその提案に乗ることになった


学園から一番近いファミレス店に入ると店員が忙しそうにしていた。時間的には夕飯の時間だったので客の数もそこそこ多い


「すみませーん! ナポリタン一つと全員にドリンクバーお願いします!」


「マルゲリータもお願いね」


適当な席に座ると悩む間も無く、ナオトとリーナが注文を済ませていく


「お前らはどうすんだ?」


「まだ決めてない、というかお前の注文が早すぎるんだよ」


「だってよぉ、まさかあそこまでスパルタとは思わなかったんだぜ!?」


カインとカグヤ以外は魔力の出力を軸にしたトレーニングをひたすらこなしていた。魔力の消費も普段とは桁違いの量のため、エネルギーの消費も激しかったのだ


「カインとカグヤは何してたんだ?」


注文を済ませた紅蓮が二人に問いかけた


「僕とカグヤの魔力の出力量に関しては合格ラインだからそれを戦闘中に上手く引き出せるかってトレーニング内容だったかな」


「望月先輩に相手をしてもらいましたが中々勝機を見出せなかったですね……」


(そういや、カインとカグヤを同時に相手にしていたのにも関わらず人数差を感じない戦いだったな)


アルスはトレーニングをしながら周囲の様子を観察していたのだ

カグヤの言葉によって全員の視線がアルスへと向けられた


「まてまて、俺の時は術式暴走っていうふいうちがあったからこそ勝てただけだ。もう一回やれば今度は俺が負ける」


「それよりも」と、この流れを一回切る


「三年生の先輩が一人足りなかったんだが、誰か見てないのか?」


全員の反応を見るに誰も目にしてないようだ


このアルテマの代表生は

第一魔法学院から

一年生:5人 二年生:7人 三年生:3人


第二魔法学院から

一年生:7人 二年生:5人 三年生:3人


第三魔法学院から

一年生:7人 二年生:5人 三年生:3人

というような人数となっている


一年生と二年生の人数配分は学園長に委ねられ、三年生に関しては3人固定になっている


また、アルテマの学院が勝つとアルテマ国に対してポイントが入り、それぞれ勝利した学院に対してもポイントが入る

そしてポイントが一番多かった国と学院が優勝となる


つまり、結果発表の際は

優勝した国と優勝した学院が表彰される仕組みだ


「私たちを担当したルディ先輩と二年生を主に担当した先輩、これで二人となるとあと一人足りないことになるんですよね?」


「そういうことだ、リン」


リンの解説に相槌を打ち、届いた料理を口に運ぶ

俺が頼んだのはシンプルなステーキとライスのセットだ


「噂では去年まで魔族領に留学していた人だろ?」


「そうなのか?」


それは初耳だ。そもそも人間と魔族は交流はしているものの仲が良いかと聞かれるとそうではない


(魔族領に留学しに行くなんてかなりリスクのある行為だと思うのだが……)


「バカみたいに強いから、魔族の学園長から直々に招待されたって話だぜ」


やはり、ナオトはよく喋るだけあって情報通なんだな。前に学年問わずに交流しているところを見たことがあったが気後れしているような様子はなかった


「それはすごいね」


珍しく横に座っているカインが驚いた反応を見せた


「魔族は魔法の適性が高くて戦闘種族とも言われているんだ。名指しで指名されるなんて、奇跡に等しいよ」


「そう考えたらすごいな」


雑談を楽しみながら食事も進んでいき、一通りご飯を食べ終えた一行はドリンクバーで飲み物を補充しながらゆっくりと過ごしていた


そしてそんな時に事件は起きた


「ガキが調子乗ってんじゃねぇぞっ!!!」


店内に男の怒声が響き渡る

そちらの方に目をやると3人組の不良グループが1人の少年に絡まれているようだ


服装を見るに同じ学園の生徒だ


「調子に乗るも何も、元々この席に座っていたのは僕だ。君たちこそ他に空いてる席に行けばいいじゃないか」


「お前の座ってる角の席は俺たちの特等席なんだよ、どうしてもどかねぇなら……」


グループの1人がポケットに手を入れてゴソゴソし始めた


(緊急時以外の魔法の使用は罪に問われるはずだ)


そう思ったのは魔力の反応を感じたからだ

俺も脳内で術式の構築を開始する


「やめときな。今俺たちが問題を起こすわけにはいかない」


俺の考えを見透かしたかのように紅蓮が静止した


「あと少ししたら聖騎士が来るだろうし、ここで魔法を使って謹慎処分になったら目も当てられない。だからここは我慢だ」


紅蓮の言うことには一理ある

しかしここで見捨てるという選択肢をどうしても取ることができない


「バレないように魔法の発動を阻害する、それなら大丈夫かい?」


カインが割るように話に入ってきた


「……ハァ、好きにしやがれ。ただし、CAWだけは使うなよ。あとで聖騎士が来た時に引っかかるかもしれないからな」


「分かった」


そんなやりとりをしていると店内の雰囲気がさらにピリッとしたものになった


少年が立ち上がると1人の男に対して指をさした


「こんな公の場で魔法の発動なんてバカじゃないのか? 確か人間の国では緊急時以外の魔法の発動は罪に問われるはずだったが」


「なっ……!?」


まさかバレるとは思っていなかったのか焦りの表情を浮かべる


「まぁ、お前ら如きの魔法なんぞ僕に通じるとは思えないが」


少年の一言でどうやら堪忍袋の尾が切れたようだ


「だったら試してみるかぁ!?」


3人は一斉に魔法を発動させようとする

しかし


「魔法拘束陣」


少年がそう呟くと、3人のCAWから魔力の反応が消えた

これには流石の不良たちも驚きを隠せなかった


「な、何しやがった!?」


「お前たちのその足りない頭を合わせて考えてみるといい」


窓を見ると駐車場に聖騎士たちの乗る車が一台止まる


「おい! 聖騎士どもが来やがった! 逃げるぞ!」


一目散に出入り口に向かうと店内から姿を消した

少年は何事もなかったかのように席に座ると再び、カバンから本を取り出し読み始めた


「さっきのは魔法拘束陣か。面白い魔法を使うんだな」


「よく分かったな紅蓮。俺には全くわからなかったぜ」


「結構マイナーな魔法だからな」


店長が現場に駆けつけた聖騎士と話している

少年の方に一度視線を向けるとそのまま店内から出ていった


(結果的にケガ人が出なかったから穏便に終わらせようっていう考えか)


「ん? 魔法拘束陣って、まさか!?」


ナオトがゆっくりと少年の方へと顔を向ける


「いきなりどうしたのよ?」


「もしかしたらあの人かもしれねぇ。さっき話してた3年の代表生って」

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