第65話 ハーネリア流の使い手

下に降り、透明な結界のようなものをすり抜け、戦闘エリア内に入ると互いに距離を取った


左右を見ると先ほどまで試合をしていた生徒はおらず、現状ではシズクとアルスのみがこの場所に立っていることになる


「では改めまして、望月シズクだ。よろしくお願いするよ」


「アルス・クロニムルです。一つ聞きたいのですがなぜ俺の相手に立候補したんですか」


「ただの気まぐれだよ」


ルディが端末を操作すると空中に大きな数字が出現し、カウントダウンを開始する

その間にアルスはCAWを抜く


(抜刀の構えか、珍しいな)


シズクは鞘から刀を抜かず、手を添えて待っている状態だ


数字は徐々に減っていきゼロになったタイミングで一人の剣士が一気に動いた


(抜刀が得意なら抜かせなければいいだけだ)


まずはアルスが距離を詰める


「普通ならそうするよね」


読んでいたかのようにシズクは鞘に魔力を流した

すると、アルスとシズクの間にある地面から巨大な岩がアルスに向かって突き出された


(予想通りだな)


岩石が目の前に迫るのもお構いなしにその場で走った勢いを利用して飛んだ


 ギィィィィン!!!


まるで刃物が固い何かにぶつかったような音を響き渡る


「岩の勢いを使って横に飛んだ!?」


「何者なんだ…あの一年生は…」


観客席から見ていた上級生から声が上がる

アルスはそのままシズクのすぐ近くへと着地する


「なっ!?」


シズクからしたら当然の反応だ


あの場面で考えられる展開はアルスが走った勢いを殺すことができず衝突するか魔力障壁を展開して無理やり防御するかの二択だった


アルスは刀を下から斜め上へと振りぬく


ギィィンッ!!!


シズクは鞘から少しだけ刃を見せている部分で受け止める


「咄嗟に抜いて合わせてきました」


「やっぱり君、いいね」


互いに距離を取り、再びにらみ合う。と思いきや

シズクは抜刀をし中段の構えを取った


刃をこちらに突きつけると彼女に周囲にいくつかの水の塊が浮かびあがる


(遠距離攻撃か!)


「ゆけっ!」


それを合図に水の塊がアルスへと襲い掛かる

アルスは走って回避するが刀を鞘に納め、再び抜刀の構えをしたシズクが突っ込んでくる


「抜刀術 隼!」


風が強く吹いた思うと強烈な衝撃がアルスの持つ手に伝わってきた


そのまま反撃をしようとするがすでに距離は取られており、抜刀の構えをしながら後ろに飛ぶシズクが目に映る


(魔力の気配!?)


アルスは直感で魔力障壁を展開すると目に見えぬ何にかが障壁にぶつかった


(後退すると同時に魔法を発動か…予備動作も見当たらなかった、いや…)


一つ考えられる線として頭によぎったのは


(抜刀の構え、か)


恐らく彼女の魔法発動のトリガーはあの鞘だ

あそこに術式が刻まれているはずだ

だから鞘に触れつつ術式を切り替えることで様々な魔法を発動できる


厄介な点があるとしたら


「先輩の構えが魔法発動の動作に全く見えないことだ」


あの構えを見せられたらまず武器のほうに目がいき、そして魔法メインではなく武器をメインにした立ち回りだと認識する


さっきはわざとらしく刀を抜いていたがあれは鞘以外でも魔法を発動できる風に見せるためのカモフラージュだろう


(流石は上級生といったところか)


さっきの一合でわかる。剣術のレベルも高いということが

普通の学生ならまず勝てないだろう


アルスは刀を中段からもはや構えといっていいのか

わからないような雑な構えにする

そして


(消えっ……)


カグヤはアルスのことをしっかりと捉えていたにも関わらず一瞬見逃す

次に現れたときにはアルスは上段から刀を振り下ろしていた


「くっ!」


鞘から刃を完全に抜いて、しっかりと受け止める

受け止めたと認識した次には別の角度から刃が迫っていた


ギィン!


刃と刃がぶつけ合う音が響き渡る


「ハーネリア流の技だね!」


「ご名答です」


「ハーネリア流の構えにしては些か野蛮だねっ!」


シズクは攻撃を受け止めるとアルスとの間にあるわずかな隙間から

岩石を突き出させ、アルスに回避を強要する


(座標指定が繊細だ。魔法の使い方が上手いっ!)


後ろに飛び、魔法をやり過ごすと再びシズクと密着状態になるように攻撃を仕掛ける

今度は一撃重視ではなく連撃に特化した技で攻める


(早くて重いがそこまで脅威ではない、隙をみて反撃か体力をこのまま削る!)


シズクは反撃せずに防御を続けた

しかし、斬撃を重ねるにつれ防ぎにくいように感じ始めたのだ


やがて、集中力が切れたのかシズクの態勢が少しだけ崩れる

もちろんそれを見逃すアルスではなかった


(今だ!!!)


ありったけの魔力を刃に込めて振りぬいた

当然シズクは防御するが刃と刃が触れた瞬間、爆発が起こる

態勢が崩れかけていたシズクは爆風でしりもちをついてしまう


「終わりです」


その瞬間には首元にアルスの刀が触れていた


「私の負けです」


この様子を見ていた上級生はほとんどの者が感嘆の息を漏らしていたがルディは真剣な表情で、ロザリアは少し嬉しそうに見ていた


(へぇ、術式暴走をあんな使い方するなんてな)


術式暴走とは術式に対して必要以上の魔力を大量に注いだ際に術式が耐え切れず爆発などを起こしてしまうことだ。魔法発動の際の注意事項として学ぶ知識だ


魔法というのは様々な術式で成り立っているため術式暴走が起こることは滅多にないが、今回アルスが使用していたCAWは何の調整もしておらず追加の術式も無かったので術式はないに等しかった


ゆえに術式暴走が起こすことができたが実戦で役に立つことはほとんどないだろう


「彼、中々の逸材だと思いませんか?」


「そうだな…ほかの生徒よりも実戦慣れしているのは間違いないと思うが…」


(ここまでレベルが高いとなると話が変わってくるな)


「どうやら一太刀入れるごとにシズクの重心が少しづつずらされていたみたいだな」


「だから最後の術式暴走で転んだといったところでしょうか」


もちろん彼の同級生たちは1名を除いてアルスの戦いぶりに驚いていた

中でも目を覚ましたカインは笑みをこぼしていた


(あんな技、僕との戦いで見せてないね。ますます興味がわいてきたよ)


「まさかハーネリア流の使い手だったなんて…リンとカグヤは知っていた?」


「私も初めて知りました…」


「私はアルスさんのパートナーですので…」


「おいおい、ハーネリア流ってすげぇじゃねぇか…」


「そうだな。ヴェイン先生もハーネリア流は才ある者にしか使えないみたいなことを言ってた」


ルディはアルスとシズクに戻ってくるように指示を出した


(今年はカインとカグヤを中心にした構成で1年を動かすつもりだっだが、かなり使えそうだな)


指示を出しながらルディは笑みを浮かべていたのだった

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