第百七十六話 オフを満喫していた最中の件

 不破のIQテストから日が流れ、期末テストも終わった頃、明来野球部に久しぶりのオフが設けられた。


 中間テストに続いて期末テストも赤点者が出なかったことへのご褒美として、たった一日だが彼らに自由な時間が与えられたのだ。


 ただ、これは野球部あるあるなのだが、普段毎日フルタイムで練習に明け暮れ、休みの日は練習試合が組まれている彼ら。

 そんな中でいざ待望のオフが与えられても、どう過ごして良いのか分からないというのが野球部員の性質である。


 その為、集まれる人間だけで懇親会と名を打ち、街に繰り出す企画が設けられた。


 声かけの結果、守、瑞穂、風見、青山、氷室の五名が参加することとなった。


 彼らはランチを楽しんだ後ゲームセンターに行き、ボウリングそしてカラオケで熱唱したりと、現役高校生らしい過ごし方で仲を深めていった。

 そして、楽しい時間というのはあっという間に過ぎるものであり、時刻は夜も七時を回っていた。


「あー、歌った歌った! てか真斗って意外と歌上手いんだね」


 守は満足そうに青山に話しかけた。


「いやいや俺なんかフツーだって! 瑞穂ちゃんの方が断然うめーよ! 配信とかしたらメッチャ人気出るよマジで!」


 青山は嬉しそうに頭をかきながら話していた。


「私なんて大したことないよ。それよりも氷室君が知っている歌はこれしかないって言って国歌を入れたのは笑っちゃった」


「白川、頼むからその話は他のみんなにはしないでくれ」


 二人のやりとりを聞いて、思わず守たちはその場で大笑いしてしまった。


 そんな彼女達の方へ、二人組の男が近づいてきた。


「おーおー、楽しそうだねぇ君たち」


 二人組の片割れが、突然青山に肩組をしてきた。


「あれ〜? 君メッチャ可愛いね。こんな冴えない奴らじゃなくて俺らとデートしようぜ」


 もう一人の男は瑞穂のすぐ隣に来て、彼女の左肩に手を置き、話しかけた。


「な……なんだよお前ら! 離れろ!」


 守がその手を振り解き、瑞穂の前に立って男と対峙した。


「あん? テメェ何邪魔してんだよ」


「邪魔してるのはどっちだよ!!」


 ――ドスッ!!


「ウッ……」


 守はその場で蹲った。男から腹部へキックを喰らってしまったのだ。


「ゴホッ……」


「ヒカル!!!」


 瑞穂はすぐさま膝を下ろし、守の安否を気遣った。


「ハァ? 何コイツ超弱えぇじゃん」


 蹴りを入れた男が守の姿を見て指を刺して笑っていた。


「おい! この軟弱イケメンヤローをボコボコにするぞ、オメーも早く来いよ」


「おう」


 もう一人の男は青山を突き飛ばし、守の方へ歩いて行った。

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