百七十五話 敵を欺くにはまず味方からな件
三人はパソコンの画面をじっと見つめていた。
次第に不破の母の瞬きの回数が多くなっていた。
「IQ……百九十二……!!??」
この異次元の点数を叩き出した不破本人は、母親の反応とは真逆に顔色ひとつ変えずにそのスコアを静かに眺めていた。
「な……なんで。だってこの子は部活で勉強の時間を失っていて……」
不破の母はこの現実を信じられないでいた。
「母さん、野球はむしろ良い脳トレなんだよ。今までの全配球、相手の仕草、サイン……頭を使う要素がたくさんだ。むしろ野球をやっているからこそ、より俺のスコアが良くなったんだよ」
「そ……そんな……」
彼女は見るからに落ち込んだ様子で、肩を下げていた。
こうして、不破の退学をかけたテストは無事に終了したのであった。
――その後不破の母が帰り、パソコン室には不破と上杉監督の二人だけとなった。
「上手くいきましたね、不破君」
上杉監督は笑顔で不破に声をかけた。
「えぇ。これで当分母が野球を辞めろということはなくなります」
不破は淡々と答えた。
「ですが不破君も人が悪いですね」
「君本来のIQは二百を優に越え、測定不能とまで言われているのに、あえて合格点ギリギリにするなんて」
上杉監督はクスクスと笑っていた。
「保険ですよ。もし仮に同じようなケースが発生しても合格できるように抑えました」
「全く……敵を欺くにはまず味方から、ですか」
上杉監督は思わずため息をついた。
「さぁ、これで不安要素もなくなりました。練習に戻ります」
そう言って不破はパソコン室を後にした。
上杉監督はパソコンの画面に映し出されたテストの結果を、再び確認していた。
「不破君……彼の野球センスが覚醒すれば、面白くなるかもしれませんね」
上杉監督はパソコンの電源を落とし、備品を片付けた上でパソコン室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます