第百七十二話 法則を見出す件

 練習試合から約二週間が経った頃、不破は放課後、学校の図書館で黙々と勉強をしていた。


 他の生徒が直前に迫った中間テストの対策をしている中、彼は数々の絵や数字のボックスと睨めっこをしている様子である。

 そう、彼は中間テストではなく、IQテストの対策をしているのである。


 治療自体はつい先日完了し、リハビリを二〜三週間こなせば野球もできるようになる。

 ただ治療が完了の一週間後に設定されたIQテストで百九十以上ものスコアを出さないと、彼の野球人生はそこで終了してしまうのだ。


「不破〜、調子はどう?」


 守は不破の様子を見に来た様だ。


「千河。まぁ、至って順調だな」


「少し問題みせてよ! ってなにこれ」


 守は不破の返答を待たずに、さっと問題集を手に取り、ページをパラパラとめくった。そして適当なページで指を止めた。


 守の目にうつった問題はこの通りだ。



 ○に入る数値を下記から選べ


 1 2 4 7 ○ 16 22

 

 選択肢 9 11 13 15

 

「……なにこれ、意味わからないんだけど。これ不破わかるの?」


 守はお手上げといった感じで不破に問いかける。


「11」

 

 不破は問題を見た瞬間に答えた。


「えっ早! ちゃんと問題みた?」


「だから11だって。千河も集中して考えればわかると思うぞ」


 守はじっと問題を眺めた。この数字が意味しているものを考えていた。


「徐々に数値が大きくなっていって……始めは1、次が2……あれっ、次が3上がってる」


 守が何かに気がついた。それを見た不破はニコッと笑った。


「これ左から順に、前回の増加した数より更にプラス1ずつ上がってる! じゃあ7プラス4だから……11!!」


 守は不破の方を見て、これで合っているかという目で見つめた。


「そうそう、正解」


「うわー、難しい! なんか脳トレみたいだね」


 守は頭が痛くなったのか、こめかみを指で指圧マッサージしていた。


「問題によるけど、一見チンプンカンプンな図や表、数字でも一定の法則があるんだ。だから色々な角度で物事を見る能力が問われるな」


「成る程……」


「俺のことはいい。それよりも千河、中間テストの方は大丈夫なんだろうな……?」


「ドキッ」


 守の表情は明らかに動揺している。


「だ……大丈夫大丈夫。ヨユーだって本当」


「去年夏の期末でも言われてたから分かると思うけど……赤点取ったら補習が終わるまで練習すらさせて貰えないぞ?」


「……」


 守はすっかり黙ってしまった。


「わかったよ!! 勉強するよ、すれば良いんだろ! じょあまた教えてよ」


「わかったわかった。教えるから少し静かにな。ここ図書室だから」


 守ははっと我に帰った。他の利用者からの守に向けた視線は、それはもう痛烈なものであった。


 守は顔を真っ赤にし、不破の隣に座ったのであった。

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