第百七十話 親子の約束の件

「不破盾は、今日をもって野球部を退部するわ」


 不破の母から突然の宣言がなされた。

 明来、皇帝の面々は勿論、当の本人である不破自身も驚きを露わにしていた。


「ちょっと母さん、俺は野球部を辞めるつもりは無いぞ」


 面喰らっていた不破だったが、すぐにその発言を否定した。


「ダメです。私と約束したでしょう」


 不破の母はすぐさま言い返した。不破は下唇を噛んだ。


「約束……ですか」


 瑞穂は、説明が欲しそうに口を開いた。


「あら、随分可愛らしいマネージャーさんね。そう、盾が高校でも野球を続けることに、一つ条件をつけたの」


「そ……それはどんな条件ですか?」


 瑞穂は質問した。


「絶対に頭に怪我をしないこと。この子の頭脳に悪影響を与える要因になるからね」


 不破の母は話しを続けた。


「皆には言ってないかもしれないけど、この子本当は日本の高校には行かず、海外の大学に飛び級で進学する予定だったの。世界的なIT企業数社からの出資を受けた上でね」


 不破の母の言葉に、全員が驚いていた。


「この子の頭脳はそれだけ特別なの。だから本来は野球なんかで遊んでる暇はないのよ」


 話しを聞いていた中谷は、自分の過ちを痛感してか、その場で倒れ込んでしまった。


「中谷っち!!」


 駄覇が中谷の元へ駆け寄った。中谷は身体をプルプルと振るわせていた。駄覇は彼の腕を肩にかけ、病室から退場した。


「あら、あの子大丈夫なの?」


「すみません、俺たちの後輩です。そして不破君にデッドボールを与えてしまった選手です」


 不破の母に対して、若林が答えた。そして若林と神崎は深く頭を下げた。


「……まぁ、上手く力がヘルメットで分散されて、幸い脳に後遺症が残った訳でもないから良いわ。あれだけ落ち込んでるなら反省もしているでしょうし」


 その言葉を聞いた皇帝の二人は、改めて頭を下げた。


「話しを戻すわ」


 再び不破の母は説明を続けた。


「ただ盾はどうしても高校までは野球を続けたいと言った。私たちにとってはリスクでしか無い事だけど、それがこの子の精神衛生面に良いのなら三年間くらいは遊ばせようと思ったの。ただ、その頭に怪我をしたら話は別。その時は野球を辞めると約束したのよ」

 


 ――不破の母の説明が終わり、病室内はシンと静寂に包まれた。

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