第三章 地獄の扉が開く時


 翌日。テレビをつけ、キッチンで朝食の準備をしていた駆は、寝室から、出てきた奈未に、にっこりと笑った。


「おはようございます!奈未さん。もうすぐ、朝飯、出来ますので、顔を洗ってきて下さいね。」


「うん…ありがとう。」


何事もなかったように、駆は話し掛けてくる。結果、何事もなかったのだ。それは、奈未が一番よく感じていた。


顔を洗って、戻ってきた奈未は、テレビから流れるニュースを見る。


『○○町にある△△金融の社長、田辺 義一さんが会社の事務所で死亡しているのが発見されました。警察の調べによりますと………』


呆然とテレビを見つめる奈未の元に、目玉焼きとベーコンを焼いたものを皿に乗せ、駆がきた。


「これ、あの闇金の………。」


「やっぱり、人間、悪いことをすると

天罰、下ちゃうんですね。朝飯、こんなもんしかないですけど。」


「えっ?あっ、美味しそう。駆くん、料理、上手なのね。」


「料理って言っても、フライパンで焼いただけですよ。」


テーブルに皿を置く、駆の背後から、そっと、彼の腰に腕を回し、奈未は、少し寂しげに呟いた。


「……何もしてくれなかったんだね。」


駆は、奈未の手に手を重ねる。


「そんな大切なもの、簡単に捨てちゃ、ダメですよ。」


「私、26なのよ。それなのに、一度も経験ないなんて。」


「焦らなくても、いつかは………。

さぁ、飯、食べましょうよ。腹減りました。」


プゥと頬を膨らませている奈未をソファーに座らせる駆。


気持ち良い日差しが窓から差し込む、春の朝。

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