妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫

大国 鹿児

第一章 妖精女王の騎士

第1話  森より

『起きてください、マスター 』

 初夏特有の緑の香の森の中、樹齢100年はあろうかという大木を背に惰眠を貪る少年へ、虹色に輝く羽を持つ少女が声をかける。

「ん・・・時間か?」

 あくびをしつつ背を伸ばしながら、黒い瞳の少年はゆっくりと少女が声をかけてきた左肩へと首を回した。

そこには少年の頭ほどの大きさしかない少女が、その美しい羽根を羽ばたかせながらにこりと微笑んでいた。

『森オオカミが20匹程こちらに向かっていると伝がありました 』

「わかった。んじゃいこっか 」

 少年の返答を待っていたかのように、羽の生えた少女は、少し長めの黒い髪のかかる少年の左肩に腰かける。

 そういった事に慣れているのだろう、少年は自然と少女を受け入れ、しっかり腰を落ち着かせたのを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。

「んっと・・・先鋒は・・・あそこか 」

 あたりを見回し少年が確認したのは、木々の合間から見える前方の人影。そして、その人影の先には、木の枝など意に介さないような速度で迫る真っ黒い影・・いや、よく見るとそれは少年の倍はあろうかという巨躯の獣達であった。

 その大型の獣は、昼なお薄暗い森の中では輪郭がはっきりとは分からないが、経験から森オオカミだろうとあたりをつけ、背に担いでいる弓を手に取ると走り出した。


「ヴィー起きたか?」

 少年が人影にたどり着くや否や、先鋒の青年が真っすぐ前を見据えたまま声を掛けた。

「ああ、ゆっくりさせてもらった」

 青年は微笑みながら頷くと、

「敵は森オオカミが20。我々が前で当たる。ヴィーは後で」

 と言いながら、片手斧を両手に持ち、剣や槍を構えた仲間の元へと走っていった。

 ヴィーと呼ばれた少年が羽の生えた少女に「エル後ろに 」と言うと、少女は素直に少年の後ろに移動し捕まると、そっと肩越しに前方を見つめる。

 青年がいよいよ森オオカミと対峙しようとしていた。

 それを見ていた少年に、『マスター。まだいいですか?』というのんびりしたエルの言葉に、

「これぐらいならいらないかな。いるときには言うよ 」

 と返答をしながら、少年は腰の矢筒から矢を引き抜き、素早く先ほどの青年が斧を振るおうとしている森オカミの目を射抜いた。

 青年と森オオカミのその後を確認もせず、次々と仲間の目の前にいる森オオカミへと矢を射ると、その矢はまるで森の木々を縫う様に、生きているかのように飛び、次々と森オオカミの目や首に刺さった。

 仲間達が傷ついた森オオカミに止めを入れ、戦いが終わろうかという時、

『マスター。左手の奥から大型の新手が来ます 』

 エルが少年に注意を促した。

 少年がそちらを注視すると、木々の間をゆっくりとした足取りで、今まで対峙していた森オオカミがまるで子供かと思うような、巨大な森オオカミが近づいてきていた。

「ヴィー、頼む!でかい奴が出た!」

左手で戦っていた仲間が叫びながらじりじりと後退してくるのを確認した少年は、無言のまま駆け出した。

『マスター。あれは森オオカミのボスです 』

 エルの淡々とした分析に、ヴィーは「わかった。」と答えると、さらに走る速度をあげた。

 ボスが仲間を襲う前に、その前へと滑り込み「後は任せろ。退け 」と言うと、仲間達は静かにボスから目を離さずゆっくりと後退していった。


「んじゃ始めようか 」

 ヴィーは不敵に笑いながら、ボス森オオカミへと語りかけた。

 

 言葉を理解したわけでは無いだろうが、ボス森オオカミはグルル・・と唸りつつ、自らの肩口よりも低いヴィーの頭を睨み付け、次の瞬間一足飛びで飛び掛かりその右足の鋭い前足の爪でヴィーを引き裂こうとするが、ヴィーは余裕をもって左に躱し、オオカミの"体″の外に逃れる。

 前足を避けられたボス森オオカミが勢い蹈鞴を踏むとヴィーは弓幹の下を握り、その弓の弦で後ろ足の腱をピュッと鋭く切り裂く。

 あまりの速さにボス森オオカミは、少年の姿を目で追う事ができずその姿を見失っていた。。

 ギャン!と巨躯に似合わぬ悲鳴をあげるボス森オカミへ、ヴィーは次々と同様に弦で切り付けボス森オオカミの毛皮を血で染めていった。

 ボス森オオカミの動きが緩慢になったのを見て、冷静に距離を取ったヴィーは、その強弓を構えるとボス森オオカミの両目と喉に矢を当て、腰後ろに帯びていた鉈で額を割ると、それきりボス森オオカミは動かなくなった。

 すぐに頸動脈を鉈で裂くと、まだ暖かい血が溢れ出、地面を濡らした。


「さすがヴィーだな。俺達だけだと死んでたぜ 」

 いつの間にか近づいて来ていた仲間達がヴィーを称えると少年は

「つかれた・・・ 」

 と呟いた。

 それを聞いた仲間達は声をあげて笑い、森に笑い声が広まった。


 オーゼン王国の東の峰と呼ばれる連峰の麓にあるアグルの村。

 そこに暮らす15歳の少年ヴィーと妖精エルの物語は、ここから始まる。

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