第51話 宇宙戦艦アギラカナ


……


 目の前のスクリーンには周辺が重力のレンズ効果でゆがんだ青白く輝く中性子星が輝いている。その光を受けて指令室の中は青白く見える。周囲の空間は、ゼノが重力井戸の中に取り込まれ崩壊するときに発する閃光で埋め尽くされている。


「機雷艦DM-0024信号停止、質量拡散確認。撃破されました」


「機雷艦DM-‥‥‥」


「……アギラカナより半径0.1AUのゼノの掃討完了。残存機雷艦27」


「軽巡LC-0024、質量拡散確認。爆沈しました」


……




 軽巡LC-0001-フーリンカ、指令室。艦長カブラ・ハイナンテ。


 指令室正面のスクリーンに守るべきアギラカナが映し出されている。中性子星からの青白い光を白色の船殻が反射しており、いつも以上に青白く輝くアギラカナのまわりでは、多数のゼノブラスターの作る重力井戸が渦を巻くようにその光をねじ曲げている。背景の宇宙空間では至る所で、ゼノの崩壊と思われる閃光がきらめいている。


 ドゴゴゴゴー!


 艦内に轟音が響き、艦が大きく揺れた。本来大きな音が発生することも、揺れることもない艦が大音響たてて揺れたと言うことは、重力制御装置が何基かいかれたのだろう。


「艦長、U2、U3区画の船殻接合部が破られました。周辺隔壁も破壊された模様です」


 正面スクリーンが切り替わり、LC-0001の船体図が映し出された。被害個所を表す赤い色が急速に広がっている。既に副指令室を示す個所は赤く点灯している。副長のアーサは先に逝ったようだ。


「ゼノブラスター二基機能停止。艦のジェネレーター機能低下、出力60パーセント。補助ジェネレーター起動‥‥‥現在出力75パーセント。徐々に低下しています」


「ゼノブラスター更に一基機能停止、作動中のゼノブラスター、カウンタースラスターの位置修正しました」


「ゼノ、上方二時方向より突っ込んできます」


「近接防御、ありったけの対消滅弾を撃ち込んでやれ」


 あと一撃同じ個所を抜かれると艦は沈む。頼む、撃ち落してくれ。ゼノブラスターが一基しかない状況ではいずれ艦は沈む。アギラカナ艦長専用艦として指定され、その後航宙軍で最初に個艦名フーリンカを得たこの艦が今回の戦いで名前に恥じない働きができたか心配だが悔いはない。


 被弾個所に突入間際のゼノの前面に無数の閃光が走り、ついにゼノの前面外殻が破壊され一気にゼノの崩壊が進む。その崩壊の閃光の中からもう一体、更に後方より数体のゼノが現れ、そのままLC-0001の先の被弾個所に吸い込まれていった。




「軽巡LC-0001-フーリンカ、ゼノの自爆攻撃集中しています。通信途絶しました」


「……軽巡LC-0001-フーリンカ、質量拡散確認。爆沈しました」


‥‥‥


「特型重巡HL-0001-インスパイア、大破」


「重巡HL-0004、大破」


‥‥‥


「NSコラプサー焦点、4U 0142+61中心部に設定」


「設定完了」


「NSコラプサー起動、カウンタースラスター起動」


「全NSコラプサー起動完了、カウンタースラスター起動完了」


「NSコラプサー、出力上昇。現在20パーセント、25パーセント……、100パーセント」


「4U 0142+61中心部、圧力上昇中。臨界まで50パーセント、55パーセント‥‥‥、4U 0142+61中心部圧力、重力崩壊圧力に到達。重力崩壊始まりました。現在のシュワルツシルト径0.2キロ、徐々に増大中」


「ゼノの発生、止まりました」


「シュワルツシルト径、3、6.5、12、……19、4U 0142+61の直径を超えます」


4U 0142+61が一度全周に閃光を発しそして、暗黒に飲み込まれていった。


 前方の、中性子星4U 0142+61が、事象の地平線に飲み込まれ、最後に残ったのは真っ黒い円盤が1つ。これまで、前面スクリーンは中性子星を捉えるため大幅に輝度を落としているため背景の星々は全く見えなかったのだが、中性子星の光が消えたことにより、背景の星々がレンズ効果で丸くゆがんで事象の地平線を囲んでいるように見える。周辺物質や逃げ遅れたゼノがプラズマ化して閃光を放ちながら事象の地平線に飲み込まれ最後には赤い光を放ちながら消えていく。




「作戦は成功した。損傷艦を優先し、全艦艇は速やかにアギラカナに撤収せよ」


「全シャフト開放……」


 軽巡洋艦、    残存28、喪失14

 重巡洋艦、    残存34(内大破8)、喪失2

 特型重巡洋艦、  残存4(内大破1)

 機雷艦、     残存6、喪失66


 今回の作戦で多くの艦、バイオノイドを失った。


「閣下、彼らは義務を果たしたまでです。気に病む必要はありません」


 そう言ったアマンダ中将に振り向く。


「閣下、ご存じかと思いますが、私と、エリス、ドーラ、フローリスは、第一期のバイオノイドです。アーセンからアギラカナが出航した時の初代クルーでした。多くの同胞がゼノと戦いこのアギラカナを守るためたおれていきました。生き残ったバイオノイドのうち多くはそのまま寿命が尽きていきましたが、われわれはアーセンがゼノに打ち勝つ未来を信じ休眠を選びました。そして閣下のおかげで、休眠から目覚めゼノに打ち勝つ未来を掴むことが出来ました。…感謝します。

 今日は閣下の私邸で祝勝会を盛大に行いましょう」



 作戦の成功を地球にいるアインに伝えた。「おめでとうございます」。と言ったアインの声がうわずっていた。


「……全艦アギラカナ内に収容確認しました」



「全シャフト閉鎖!」


「全シャフト閉鎖確認」


「アギラカナ、全艦正常」


「ジャンプドライブ起動、目標、太陽系外周部 地球より20AU」


「目標、太陽系外周部、地球より20AU。ジャンプドライブ起動二十秒前、一九、一八、‥‥‥、二、一、起動!」



【補足説明】

 バイオノイド

 多数のアーセン人の生体情報を組み合わせて求められる機能に最適化された生体ロボット。環境の変化に対応するため個体のバリエーションは非常に多く、冗長性を持たせている。アーセン憲章下で生産されたバイオノイドには生殖機能はないが、アギラカナ憲章下で生産されたバイオノイドには生殖機能が付与されている。義務の遂行に対して強い条件付けがなされている。個体の寿命は百三十年ほどあるが、機能が急激に低下し始める百歳ほどで自死を選ぶ者が多い。



[あとがき]

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

フォロー、☆、♡、感想やコメント、誤字報告ありがとうございます。

なろう版で掲載時、1度ここまでで完結させたのですが、読者の方から要望に気をよくして完結を取り下げ再開してしまいました。次話以降もよろしくお願いします。



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