第44話 決戦準備
俺が、アギラカナに呼ばれて二年半。この二年半の間に日本もずいぶん明るくなった。日本各地の地方空港からもAMRへの旅客便の運航が始まり、関連するインフラ整備も順調だ。
東京などの都市部から地方への人口の還流も目につくようになっている。運航するのはRSジュピター1型よりも小型のRSジュピター2型で乗客二百名を乗せAMRと各地の空港を往復している。AMRも四倍に拡張され、当初2キロ四方だった施設も今では4キロ四方に拡張され直径2キロのドームも四つに増えている。
また『豪華宇宙客船で行く、太陽系
日本各所に設けられた資源受け入れ専用の小型宇宙港には、小型貨物宇宙船が離着陸している。金属資源はアギラカナから直接、ガス関係は月の周りで周回中の大型貨物船から小型貨物宇宙船に移し替えて運搬している。
上空100キロに浮かぶAA-0001が、アギラカナの全てではないと少しずつでも地球の人に慣れてもらおうと思い、この大型貨物船については敢えてステルス機能を使っていない。木星近傍のハイパーレーンゲートのステルス機能の解除はまだ早いと思うので解除はもう少し先にしようと思う。
動植物の生体情報収集も順調だ。既に百万種を超える動植物の生体情報が集まっている。ゼノの脅威を知らず世界は平和を謳歌している。このままずっと報せない方が地球の人たちは幸せかもしれない。
民主朝鮮は稼働を始めたお帰りシステムにより自国領土と主張する島への補給が出来なくなったのだが、その事実を国民に隠し続けた。お帰りシステム稼働六カ月目にしてその事実が明るみになり、日本政府が人道的措置として数十名の民主朝鮮守備隊員を巡視船で保護した。保護された民主朝鮮守備隊員はいずれもやせ細り、栄養失調状態だった。
この事件をきっかけに、民主朝鮮の親人民朝鮮政権はいつものロウソクデモにより瓦解し、混乱の中、軍事政権が誕生。大統領以下の前政権の中枢は逮捕された。ロシア関連の北の島々には、民間人も多く住んでいる地域であるため、お帰りシステムは軍関係の船舶に限っている。しかし、これまでと比べ北の島の生活の自由度は明らかに低下しているため、ロシア本土に移出する者も出始めたようだ。
ゼノとの決戦の時は近づいてきている。
これまで、アギラカナではS5級以上の戦闘艦を保有していなかったが、作戦時の司令長官座乗用としてS5級特型重巡洋艦HL-0001が竣工した。俺の移動用には、これまで通りLC-0001-フーリンカを使う。
この艦はS5級の船殻を持つため直径1800メートルの球型の大型艦である。特色は、内部にS4級船殻を有し圧倒的な防御力を持つことだ。接近するゼノを撃ち落とすための近接防御用の対消滅誘導弾、対消滅弾を、防御隔壁で仕切られた両船殻の間に多数格納している。通信能力に特化し、後述する補給母艦を遠隔操作する。
アギラカナ航宙軍に編入後は、航宙軍旗艦となり、新編される四艦隊うちの第1艦隊の旗艦および全艦隊の総旗艦となる予定だ。
S2級巡洋艦LC-0001-フーリンカとH3級強襲揚陸艦AA-0001-ブレイザーであれほど頭を悩ましたのだが、さすがに航宙軍旗艦には固有名があった方がいいだろう。前回戦闘艦艇には向かないと思っていた「山」だが、旗艦は旗艦らしく山のようにどっしりと構えることも必要だ。
『動かざること山のごとし』の山をもじるなら、特S5級重巡洋艦HL-0001-シャンシャン。これではパンダだ。
山から離れ、全艦隊を鼓舞するという意味で、普通にS5級特型重巡洋艦HL-0001-インスパイアと名付けた。車の名前の感もあるが、旗艦の名前にこそふさわしいのではないだろうか。
対ゼノ戦での攻撃力の主体である有人攻撃機の戦闘能力向上のため随伴無人攻撃機の自律性能が強化された結果、これまで六機までだった随伴攻撃機の数を八機まで増加させることが出来たうえ、パイロットの慣熟訓練の成果で、より有機的に連動した機動が可能となった。
緊急会議での基本方針に従い、攻撃機の継戦能力の向上のため、補給母艦なるものが考案された。補給母艦は多数の無人攻撃機を搭載し、随伴無人攻撃機を消耗した有人攻撃機に新たに随伴用に無人攻撃機を補充する。さらに戦闘宙域を自律航行可能な推進剤カートリッジと、対消滅弾または対消滅誘導弾カートリッジを攻撃機部隊に撃ち出すことにより、攻撃機に対する宇宙空間での短時間での補給を可能とした。
推進剤カートリッジと、対消滅弾系カートリッジは艦内から射出するが、無人攻撃機は消耗品と割り切り船外に積み重ねて係留している、そのおかげで発艦速度は向上した。補給母艦は艦とは名ばかりで一般輸送船と同じく船殻を持たないため、防御力は低くゼノの衝突に一撃も耐えきることはできない。
攻撃機の継戦能力が向上した分、パイロットの負担は増加するが、常に随伴無人攻撃機が消耗覚悟で援護するため、パイロットの生存率は格段に向上するものと期待している。
補給母艦はH1級に準じた船体(1辺120メートル長さ1200メートルの六角柱型)で約三千機の無人攻撃機を搭載する。補給母艦自体も無人で後方の旗艦が、旗艦が不能な場合はその他の巡洋艦が指揮艦となり遠隔操作する。総数二百隻の補給母艦をゼノの再活動前に揃えることが出来た。
今回エリダヌス座イプシロンI星系でのゼノ殲滅作戦に参加する戦力。
正規母艦16(有人攻撃機+随伴無人攻撃機8機の戦闘単位を1艦当たり6250。総数10万戦闘単位)
補給母艦200(補充無人攻撃機を1艦当たり3000。総数60万機)
雷撃戦隊36(1戦隊当たり軽巡洋艦1+駆逐艦6)
打撃戦隊4(1戦隊当たり重巡洋艦6)
この陣容で正規母艦4、補給母艦50、雷撃戦隊9、打撃戦隊1からなる第1から第4の四つの艦隊を編成。
おとり用H3級船殻機雷艦は十二隻準備出来た。
おとり用機雷艦は内部に対消滅誘導弾を無数に装備し、ゼノを船殻で至近におびき寄せたうえ、自身が破壊されるまでに出来るだけ多くのゼノを叩き落とすはずだ。
この、準備期間中、幾度となく戦術シミュレーションを行った。作戦が全て想定通りうまくいけば、遠隔攻撃だけでゼノを完全撃破できる。逆に目論見がことごとく外れると、ゼノと攻撃機隊との
【補足説明】
正規母艦
アギラカナで建造できるH級最大のH5級船殻(1辺600メートル全長6000メートルの六角柱型)を有する攻撃機母艦。有人攻撃機+随伴無人攻撃機八機の戦闘単位を一隻当たり六千二百五十搭載する。観測機やその他の支援機の他、今回の作戦用に開発された大型高速攻撃機四機を追加搭載している。
重巡洋艦
S4、S5級船殻(直径1440メートル、1800メートルの球型船殻)を有する戦闘艦。現在S5級船殻を有する艦はHL-0001-インスパイアのみである。
戦艦
S6級以上の船殻をもつ戦闘艦。現在アギラカナでは就役していない。
戦闘艦
対艦戦闘を念頭に置いた航宙艦。通常、球型のS型船殻で建造される。
対消滅弾、対消滅誘導弾
対ゼノ用の対消滅弾は反中性子プラズマを電磁的に封印した弾頭を持つ実体弾。レールガンにより射出される。反中性子の高圧プラズマビームが対象の中性子に接触し対消滅反応により対象を破壊する。対象に反中性子プラズマが接触時、残りの反中性子プラズマが吹き飛ばされないよう工夫されている。対消滅誘導弾は反中性子弾頭を持つ自律型ミサイル。いわゆる撃ちっ放しが出来る。弾頭は一つから複数個搭載される。攻撃機から発射される対消滅誘導弾は単一弾頭のものが多い。対艦船用の対消滅誘導弾には光線兵器による迎撃を防ぐため通常ステルス機能が搭載されている。
アギラカナ宇宙軍
隷下に、アギラカナ航宙軍、アギラカナ陸戦隊、探査部、兵站部などを持つ。
[あとがき]
ちなみに、主人公はアギラカナ宇宙軍の司令長官です。司令長官としての直接の部下は、アイン以下の秘書室の面々しかいません。
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