第33話 閑話。艦名考


 大使館の執務室で、今日も俺はぼーと机の上のモニターを見ている。モニターの上には、強襲揚陸艦AA-0001の側面図と要目が表示されていた。


 側面図は六角柱を横にしただけの長四角にいろいろな模様が描かれているだけであまり面白いものではない。


 机の上には、ぬるくなって中身が半分ほど残ったマグカップが置かれているのだが、いつコーヒーを頼んだんだか記憶にない。


 アギラカナというかアーセンには、そもそも艦は消耗品でありその消耗品に固有名をつける習慣はないということだった。以前より、せめて俺を地球まで運んでくれた強襲揚陸艦AA-0001や軽巡洋艦LC-0001に名前を付けてやろうと考えているのだが、なかなかいい名前が浮かんでこない。


 AA-0001の要目をみると、

一辺360メートル長さ3.6キロメートルの正六角柱型船殻艦(H3級)。

主機:重力スラスター

主動力:多段式核融合炉、補助動力:反物質反応炉

誘導弾迎撃用誘導弾

近接対宙兵装各種


降下作戦用各種機材、兵器を搭載

陸戦歩兵 最大3600名

陸戦歩兵1名で12機の無人支援兵器が随伴。

 無人支援兵器内訳

  球型空中警戒機械:4

  4脚近接戦闘機械:6

  8脚大型戦闘機械:2

機動装甲車×90、その他無人の支援兵器を多数搭載 

惑星降下ポッド多数


有人攻撃機×480、12機で1個中隊

 内、大気圏内作戦可能機×420(矢じり型)

 内、水圏内作戦可能機×60

 有人機に対し無人支援機が最大6機随伴

 予備機:定数の10パーセント


各種連絡艇



 いまのAA-0001は一個大隊欠員で3個大隊のみ搭乗しているという話だが、あらためて要目を見ると、とんでもない戦力だ。



 いかんいかん、今は名前を考えていたんだった。つい要目に目が行ってしまった。


 まずは、AA-0001の名前を先に考えよう。


 AA-0001は東京の上で滞空してるから、強襲揚陸艦AA-0001-TOKYO、なんて考えたが、なんだか、アメリカの海兵隊によって激戦のすえ東京が占領されたみたいな名前なので、取りやめた。


 次は形から入ってみて、強襲揚陸艦AA-0001-六角棒? うまか〇じゃないんだからボツだ。しかもH型の宇宙船はみんな六角柱形だ。形から入ってしまうとなにも区別できない。



 少し行き詰ったので、気を取り直して画面を切り替え、今度は軽巡洋艦LC-0001の図面を眺める。見た目はただの白いボールだ。軽巡洋艦LC-0001-まるちゃん。東○水産がスポンサーになってくれそうだ。親しみやすそうではあるが艦の名前としてはまずそうだ。そもそも、アギラカナにある対艦を想定した軽巡洋艦以上の戦闘艦は攻撃機母艦など特殊な艦を除き球形だ。


こちらの要目は、

直径720メートルの船殻(S2級)

主機:重力スラスター

主動力:多段式核融合炉、補助動力:反物質反応炉


大型対消滅誘導弾

対消滅誘導弾

誘導弾迎撃用誘導弾

主砲:軸線砲(対消滅弾使用可)口径120センチ×砲身長600メートル、6門

近接対宙兵装各種

その他

対艦突入ポッド

各種連絡艇


 なるほど。こちらの方は、強いのは強いんだろうが、強襲揚陸艦と比べ実感があまり湧いてこない。宇宙での対艦戦闘など見たこともないので実感など湧くはずがないな。


 またわき道にそれた思考を元に戻し、LC-0001に思いをはせる。


 現在、LC-0001は麾下の駆逐艦とともに、火星と木星の間で演習をしているそうだ。火星と木星の間ということはアステロイドベルトか。軽巡洋艦LC-0001-アステロイド? うーん、これだと薬のステロイド剤みたいだ。これもないな。


 なかなか、思いつかない。なんの脈絡もないが、孫子から取ったと言われる武田信玄の『風林火山』を少しひねったらどうだろう。


 疾(はや)きこと風のごとく。いいじゃないか。


 徐(しず)かなること林のごとく。よさげだ。


 侵掠(侵略)すること火のごとく。ちょっとずれてるが許容範囲だろう。


 動かざること山のごとし。動かなきゃだめだよな。


 ということで、風林火、カタカナにするとフーリンカ。響きがなんか良くないか? S2級巡洋艦LC-0001-フーリンカ これに決めた。これ以上俺の頭じゃ無理だ。


 一歩前進したので、画面を戻して強襲揚陸艦AA-0001の図面を再度眺める。


 そういえば、陸戦隊のエリス少将がAA-0001に搭乗する陸戦第1連隊で大隊単位の降下訓練を火星でやりたいって言ってたよな。AA-0001は東京の上空から動かせないから、もう一隻の強襲揚陸艦をアギラカナから呼んで陸戦大隊を火星に運んで降下訓練をすることになるか。地形を破壊しない範囲内でという条件で許可したけど大丈夫だよな。間違って火星の古代遺跡なんか出てこないよな。


 そうだ、火星と言えばバローズの火星シリーズ。それだと火星のことはバルスームとか言ってたな。浴室みたいだけどどうだ。


 強襲揚陸艦AA-0001-バルスーム。響きはいいが、一度浴室みたいと思ってしまうとダメだ。間違ってバスルームと読んでしまう。


 よく考えたら、強襲揚陸はまさに侵掠(侵略)すること火のごとくに当てはまるぞ。


 火、炎、火炎……ファイヤー、フレイム、ブレイズ。


 強襲揚陸艦AA-0001-ファイヤー こんなことを叫んでたプロレスラーがいた気がする。揚陸艦が火を噴き出しそうでこれはダメだな。


 強襲揚陸艦AA-0001-フレイム これは、眼鏡のフレーム。


 強襲揚陸艦AA-0001-ブレイズ 響きはいい。これは有りだな。


 少しひねりを加えて、ブレイザーなんてどうだ。調べたらすごそうな意味もあるようだが。ここでは、『侵掠(侵略)すること火のごとく』の意味だ。今後どこかを侵略するようなことはなないとは思うがどこかの国とちがってアギラカナにはややこしい政党・・・・・・・などないので問題ないだろう。


 H3級強襲揚陸艦AA-0001-ブレイザー これはいい。君に決めた! 英語だとジャケットのブレザーとおなじつづりだけどいいよな。


 二隻の名前を考えるだけでこの調子だと俺のこれからの人生は船に名前をつけてるだけで終りそうだ。個艦名をこれ以上付けるのは無理っぽい。



【補足説明】

陸戦歩兵 3600名の内訳は、

1個増強連隊:800名×4個大隊+50名×8個小隊、全72個小隊。

連隊などの内訳は、次話の本文中でも説明が有りますが、

1個連隊=4個大隊。1個大隊=4個中隊=16個小隊=50名×16個小隊=800名

1個小隊=4個分隊+2名。12名×4個分隊+2名=50名




[あとがき]

なろう版には載せていませんが、艦の要目を載せておきました。


2020年6月20日

SF『銀河をこの手に-試製事象蓋然性演算装置X-PC17-』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054898406318

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