第30話 大使館業務開始
一条がナカマニナッタ。
それを受け、一条の係累については、日本国側で警護をしてくれることになった。一条の両親は既に他界していたため、彼女の戸籍上の係累は、未婚の叔母が一人だけ存命ということだった。
日本料理店の
次の勤め先を人事担当者に聞かれたので、アギラカナ大使館だと答えたら笑われたそうだ。○○製作所の人事も自社に少し前まで勤めていた山田圭一がミスター山田だとは思っていなかったようだ。そりゃそうだ。
退職金や年金関連の手続きは郵送で済ませてもらうことにして翌日以降有給消化で次の給料日が退職日だそうだ。会社を辞める前から別のところで働いてはまずいのではないかと一条に聞いたところ、退職日まで無給なら問題ないだろうということになった。少々問題があってもお金で片のつくことならどうでもよい。
一条を大使館に迎えることになり、ステルスモードの小型連絡艇で迎えに行こうとかと思ったが、新幹線で来るというので東京駅まで迎えをやることにした。
東京駅に定刻に到着したのぞみから、キャリーバッグ一つで現れた一条を、眼鏡と茶髪のかつらで変装したアインがホームで出迎え、タクシーで大使館まで連れて来た。アインの髪型は最初会った時はショートヘアだったと思ったが、今では、ほかの3人と同じベリーショートとなっている。
「やっと来たか、一条」
「なんですか、この建物。まるで宇宙船の中みたいじゃないですか?」
「お前、宇宙船の中なんて見たことないだろ。でもいい線行ってるぞ。それより、ここにいる連中に紹介するぞ。
おーいみんな注目。俺の横に立ってる女性が今日からわれわれの仲間になる一条佐江だ。日本人スタッフのトップをやってもらうつもりだ。みんな仲良くしてやってくれ」
「一条佐江と申します。山田さんの元で一所懸命頑張ります。よろしくお願いします」
一条がペコリとお辞儀をすると、起立していた全員が、例の敬礼をしてしまった。
「一条、早いとこお前も真似しろ。そうじゃないとみんなあのままだから」
「???」
一条が見様見真似で、右手でグーを作って左肩口に当てると、みんな着席した。
「一条、みんな軍人なんだ。慣れてくれ。お前の席は俺の隣のそこだ。わからないことが有れば誰に尋ねてもいいが、今日お前をここに連れて来た女性に聞くのが無難だろ。アインは分かるだろ? 今はかつらと眼鏡は外してるけど」
アインが軽く頭を下げた。
「えっ! 全然わからなかった。さっきまで一緒に歩いてたのにいつの間に?」
「そういうことだから、みんな仲良くやってくれ。お前の席は下の階にもあるからな。あと二、三日もしたらぼちぼち日本政府からの出向者がこっちに来るから、そいつらの仕事場が下の階で、その連中を
『アギラカナ代表特別補佐官 一条佐江』と大きく書いた名刺の一箱を、一条の机の上に置いてやった。
「アイン、一条の待遇だが、前にも言った通り日本円で年収五千万でいいだろう。来月
「了解しました」
「せ、先輩、十倍は冗談ですから、冗談だったんですから」
五千万でビビったか。
「気にするな、貰えるものは貰っとけ。それとお前の部屋は上の階に用意してある。後で案内してもらえ。それとついでに10階で健康診断をしてもらえ。病気が有ろうが無かろうが直ぐに検査は終わるし、問題があったとしても三十分ほど寝てれば治るらしいぞ」
「アイン、一条を案内してやってくれ、部屋に荷物を置かせて、健康診断だ」
「了解しました。一条さん、こちらにどうぞ」
日本国政府が人材の派遣を打診してきたのでもちろん了承した。最初に送られて来るのは、各省庁から選ばれた五人ということになった。全員出向扱いなので、給与は出向元の日本国政府負担になる。そろそろ、彼ら、彼女らがこちらに派遣されてくると思う。外部の業者を使った電話回線工事なども終わっており、受け入れ態勢はすでに整っている。
各省庁からの出向者は日本政府とわれわれとの連絡をスムーズに行うための連絡要員でもある。これまでは、総理官邸内に設けられた特別室の中に、アインの渡した連絡用の小型端末1つが置かれて、厳重な警備の元、選任された担当官が二十四時間体制でアギラカナからの連絡を待っていたのだそうだ。
大使館の
俺自身は特に出歩く予定はないのだが、公用車は既に数台購入済みで、地下の駐車場に停めてある。車種は俺の軽とは比べ物にならないセダンタイプのT社の〇クサスだ。クラス的には〇ンチュリーの方が高級なのだが、一条から〇クサスにしてくれと頼まれた。一条が言うには、〇ンチュリーは、省庁でも次官級以上が乗るものだそうで、出向者たちが遠慮するだろうということだった。
外交官ナンバーの国番号は、わかりやすいよう999とされた。公用車の運転手は、元自衛官の人を日本政府から推薦されている。
大使館の七階を日本人スタッフのオフィスとしている。上の八、九、十階へは、日本人スタッフのヘッドである特別補佐官の一条のみ行き来できるようにするつもりだ。特別補佐官の名称は酒の席での思い付きだがなかなか偉そうで外部や、部下に対するはったりにはうってつけと思う。
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