第13話 式典、宇宙軍大将、山田圭一
翌日、六時に目覚めシャワーを浴びた。
普段着に着替えたのだが、用意されていた普段着はユニク〇で買ってきたようなゆったりしたTシャツにチノパンだった。
朝食は、白飯に温泉卵、塩鮭に、味付け海苔。豆腐のみそ汁におしんこ。どこかのファミレスの朝の日本食メニューだった。
完食して、アインさんの淹れた緑茶をすすりながらまったり。
「山田さん、今日は各種式典がありますが、途中一度、着替えていただくことになります」
「式典は何種類あるの?」
「まず、艦長就任と大将任官式で衣装は連合王国宇宙軍将官服になります。
そのまま引き続き、連合王国侯爵叙爵式で、これは将官服のままでけっこうです。将官服に襟章が付きます」
「? 侯爵?」
「規定により、連合王国宇宙軍大将は侯爵に叙爵されます。
その次は、アギラカナの属州から属国への昇格式。これは侯爵用の貴族礼服となります。ここまでがアーセン連合王国典礼規則にのっとって式典を行います。
それで、最後が、属国から独立国への独立式になります。これは、アーセン連合王国典礼規則に従う必要がありませんので、どんな服装でも構いません。独立国アギラカナの主権者が決めて結構です。着替えもご面倒でしょうからそのまま侯爵用貴族礼服で良いと思います。われわれもこの独立式において、アーセン連合王国宇宙軍からアギラカナ宇宙軍所属となります」
「結構式典があるんですね」
「一つ一つの式典自体はそんなに時間はかかりません、せいぜい十分といったところですか。着替えに五分としても午前中には終わります。
それでは、連合王国宇宙軍将官服にこちらの部屋で着替えていただきます。下着になっていただき、そこの床の上の丸いマークの上に。……はい。まっすぐ立っていてください」
連れてこられた衣装部屋?に入ってじっとしていると、床の下から筒が俺の前から顎の高さまでせりあがって来た。顎だけ筒の上に出していると、黒い霧のようなものが下着の上から吹き付けられたようだ。
筒が下がって、床の中に収納されたたので、下を見ると黒い詰襟の制服を着ていた。中は下着だ。
これどうやって脱ぐの? トイレは?
知らぬ間に、大きな姿見が正面に置いてある。俺でもなかなかかっこよく見える。よく見るとこの服は、上下一体のツナギ的な服ではなく、上と下とで分かれている。上着は体の正面で、股間もファスナーのようなもので開閉できるようだ。襟の縁取りは付いてなかった。
式典の会場までは、自動運転の小型車で向かった。アインさんと向き合って座って十分ほど。
着いた場所は、中央典礼広場という名前だった。数えきれないほどの人が集まっている。階段を十段ほど登ったところがステージになっていて、真ん中にマリアさんが立っており、両脇にきのう紹介された幹部の四人も見える。アインさんは階段の下だ。
マリアさんの前に行くように言われる。
「これより、ヤマダ・ケイイチの艦長就任式をおこなう。ヤマダ・ケイイチは前へ」
マリアさんの言葉で式が始まったようだ。
「はい」
「アーセン連合王国国王代理権者、アギラカナ・コアがヤマダ・ケイイチをアーセン連合王国1級市民と認め、惑星型宇宙艦アギラカナ艦長に任命する。さらに、ヤマダ・ケイイチをアーセン連合王国宇宙軍大将に任ずる。ヤマダ・ケイイチのコア認証を行なうのでこの認証板に手を」
厚みのあるハードカバーの本のような板の上に右手を乗せると、青い色の走査線のようなものが走った。これで、認証されたのだろう。
マリアさんの横に控えていた二人の女性が、こちらにやって来て、そのうちの一人の掲げる紫色の布を敷いたトレーの上の金色の円形のボタンを俺の左側の襟に、三個取り付けてくれた。
「それでは、閣下、皆の方へ向けて手を振ってください」
いわれるまま、右手を掲げて手を振る。数万人の盛大な拍手で、会場が割れんようだ。ほんと何人いるんだろう。俺が艦長でみんな納得してるんだろうか?
「引き続き、ヤマダアギラカナ艦長の連合王国侯爵叙爵式を行います。それでは閣下、こちらで私の方を向いて
これもいわれるまま、
「アーセン連合王国国王代理権者、アギラカナ・コアが、ヤマダ・ケイイチ宇宙軍大将を連合王国侯爵に叙爵することを
「立ち上がってください」
今度は反対側の襟に、ダイヤ?が3個付いた長四角のバッジを付けられた。
次にステージの裏手に連れていかれ、今まで着ていた上着をそこで控えていたアインさんに渡し、代わりに袖口にレースのような白い飾りのついた上着を渡された。
それを着て表に戻ると、次はアギラカナの属州から属国への昇格式だ。
アギラカナがアーセン連合王国を構成する属国に昇格したことを宣言。
最後の、アギラカナの独立宣言において、これまでの、規約であったアーセン憲章を破棄し、新たにアーセン憲章を土台として作成されたアギラカナ憲章(注1)が発効しアギラカナがアーセンより独立した旨を宣言し、式典は滞りなく終了した。
式典の後パーティーでもあるのかと思ったが、特にそんなものはなく、式に集まった人たちは、三々五々、各自の持ち場に戻っていったそうだ。
チューブに入った栄養食をチューチュー吸いながらパーティーはできないもんな。
やっと式典が終わったが、何をしたわけではないのに疲れた。
振り返ると、二週間と少し前、会社を実質解雇され無職を決め込んでいたらスカウトされ、アギラカナにやって来ていきなり艦長にされてしまった。
これが、現在の俺の称号。
惑星型宇宙艦アギラカナ艦長。アギラカナ宇宙軍司令長官。宇宙船国家アギラカナ代表。アーセン連合王国宇宙軍大将。アーセン連合王国侯爵。
後ろの2つは可能性は非常に低いが、今後アーセン人の生き残りに遭遇した場合のはったりみたいなものだろう。今は全く意味はない。
その日の夕食は、なぜかステーキだった。それも立ったまま食べないといけないとアインさんに言われた。なんだったんだろう? いきなり艦長になった俺がステーキを?
(注1)アギラカナ憲章:アーセン憲章を元に作成されたアギラカナの最高規範。艦長の権限は非常に大きい。アギラカナ艦長は、司法権も持つためかつてのアーセン国王より高い権限を持つ。アーセン憲章で定められていたバイオノイドに対する制限が大幅に緩和、削減されている。
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