第12話 艦長公室、秘書室


「山田さん、艦長公室の別の部屋を見てみましょう」


 アインさんに連れられて、いざ、お宅拝見! いや、自宅拝見か。


「ここが、執務室になります」


 かなり広い部屋で、奥の方に大きな机が1つ、机の上にモニターらしいものが乗っている。かなり広いのか無駄に広いのかは俺次第か。


「隣の部屋が、秘書室になります。私以下四名が常駐となります」


 俺の使う予定の机と違って、ぐるっと丸くカーブを描いたような机というかオペレーションボードが並んでいる。その中に置いてある椅子も見た目機能的でカッコいい。この部屋が本来のアギラカナというかアーセンスタイルのオフィスなのかもしれない。宇宙船の中の指令室で、オペレーターの人が向かっていたオペレーションボードとは違った意匠だ。この部屋と俺の部屋を比較すると、なんとなく感じるものもある。


「反対のこちら側の部屋が、食堂、寝室、バス・トイレとなっています」


厨房ちゅうぼう等は、先ほどの会食用食堂の手前にあります」


「そして、こちらが一般会議室です。その隣が作戦会議室になります」


「ここが、転送ルーム。 コア内で、唯一転送が許されている場所です。当然ですが、艦長と許可された者以外使用できません。使用する場合は、床の中央の丸印の中に入っていただき行きたい場所を仰っていただければ、アギラカナ内の転送禁止区域以外の任意の場所に移動できます。また待機中の艦長専用艦にも直接移動できます。


 現在の艦長専用艦は、アギラカナまで艦長をお連れしたS2級巡洋艦LC-0001が指定されています。規定ではありませんが、転移で乗艦しますと、先方が慌てますので、乗艦の場合は、面倒ですが、シャトルを使い第1桟橋から通常乗艦をお願いします」


 アインさんが歩きながら説明してくれる。俺は、カルガモの雛のごとく、くっついて歩くだけだ。 


 どの部屋も、現代日本の、シティーホテルやビジネスビルの一室といった感じで、違和感はない。言い換えれば、秘書室の一角以外、未来技術的なものは表には出ていないようだ。


 とは言うものの、どこにも照明専用器具がないにもかかわらず、部屋はかなり明るい。天井、壁、床 そういったものがそれ自体で発光しているようだ。そのため、影ができない。いや、出来なくてもいいんだけど。


 とりあえず、いったん執務室にもどって、大きな机の後ろのかっこいい椅子に座ってみたのだが、秘書室の机と椅子を見た後だとなんとなくやぼったく感じてしまう。しかし、ゆったりとした感じで、背中にフィットしてなかなか座り心地が良い。座ったことは無いが重役椅子って感じだ。連絡艇のシートもいいものだったが、それよりも座り心地はいい。


 机の上にはモニターがあり、今は何か映っている。よく見ると、俺が普段見ているインターネットのポータルだ。机の上の黒いのはマウスじゃないか。これで、暇がつぶせるな。


「何か飲み物をお持ちしましょうか?」


「コーラ、ってないよね?」


「ありますよ。山田さんの嗜好しこうは調査済ですので、大抵のものは仕入れています。それでは、コーラをお持ちしますか?」


「いや、やっぱり、コーヒーで」


「コーヒーの種類はいかがしますか?」


「いつも飲んでたインスタントのある? あればそれのホットで、なければ、モカで」


「少々、お待ちください」


……


 待つこと1分。隣の秘書室に引っ込んだアインさんが、トレーを持って戻って来た。


「〇レンディーでよかったですよね?」


「アインさん、ありがとう」


 フー。と息を吐き、熱いコーヒーをすする。カップは、俺がいつも使っていたマグカップとよく似た白い無地のマグカップだった。いつものようにやや濃いめのインスタントコーヒー。俺のことをどこまで調査したんだろうか?


「しばらく、ゆっくりしていてください。三十分後に、秘書室に配属された三名が着任の挨拶あいさつに来ますので、その時はよろしくお願いします」


 アインさんが隣の秘書室に引っ込んだので、俺はインターネットで今日のニュースなどを見ながら時間をつぶすことにした。本当にリアルタイムでつながっているようだ。疑っていたわけじゃないんだけどつい確かめてみた。


 時間までモニターを見ながらカチカチやっていると、アインさんが三人の新人?を連れて戻って来た。


「山田さん、秘書室のメンバーです」


 立ち上がって三名の女性を迎える。三人とも黒髪でベリーショート。身長は170くらい。筋肉質には見えないが、アインさんが100キロ入ったカバンを楽々持っていたところを考えると、それなりにすごいのだろう。


 体にぴっちりした黒に近い濃い灰色の制服? それに詰襟。


「秘書室に配属されました、マーサ・エギナンテです。陸戦隊で曹長をしていました。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく」


「秘書室に配属されました、アレキサンドラ・ナバイテです。陸戦隊特殊戦部隊で軍曹をしていました。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく」


「こちらに配属されました、コニア・ナバイテです。陸戦隊で軍曹をしていました。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく。アレキサンドラさんとコニアさんは同じ名字だけどもしかして、姉妹なの?」


「われわれの二番目の名前は、第二名だいになと呼んでおり、その者の製造場所を表しています。ナバイテのテやエギナンテのテは工場を表しています。二人は同じ工場出身ですが、遺伝子的つながりはありません」


「そうなんだ」


 そういえば、送ってくれた巡洋艦の艦長さんたちもこんな名前だったな。


「われわれは、艦長直属ということなので、他部署と区別するため、新たに所属色を決めていただきたいのですが」と、アインさん。


「?」


「所属色というのは、襟の縁取りの色を、そのものが所属する部署の色にすることで、第三者に所属をわかりやすく示すものです。例えば、航宙軍ですと、黒。陸戦隊ですと、緑といった具合です」


「それじゃあ、赤ってどこか使ってる?」


「いいえ、どこも使っていません。それでは、赤にしましょう。地球にいるみんなにも知らせておきます」


 どことなくみんなうれしそうにしている。みんなバイオノイドなんだよね?


 夕食は、一人で食べるのもわびしいので、アインさんを誘ったが断られた。護衛任務がなくなった六人に、個別に指示を出すそうだ。残りの三人も忙しいそうで、普段使いの食堂で一人で夕食を摂った。メニューは、この前一条と行った居酒屋メニューそのものだった。大ジョッキに入ったキンキンの生はうまかったが、一人だと間が持たない。早々に切り上げた。


 食後、風呂に入った。表面がつるっとしたセラミック?製の湯船で大きさは縦横2メートル×3メートル、深さが60センチってところ。一人で入るには、相当広い。


 洗い場には当然のごとくシャワーが付いていて、自宅で使っていたのと同じボディーソープにシャンプーとリンス。体洗い用のごわごわしたナイロン手ぬぐいまでそろっていた。


 さっぱりして風呂から出ると、バスタオルとドライヤーが置いてある。正面は鏡張りで、どこぞの温泉を思い出させる。脱いだ服は片付けられ、代わりの下着と、パジャマが入っていた。下着は、さっき脱いだものと同じメーカー同じサイズ。パジャマはどこのものかはわからないが、着心地が非常に良い。


 明日の式典は九時からだそうなので、準備もあるだろうし早めに寝るか。ここ、コア内部の時間も、俺に合わせて、今日から日本時間に切り替わっているそうだ。徹底しているなあ。



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