第9話 もらった宇宙船を見に行く2、移乗


 いま俺は連絡艇を降り、アインさんに先導されて巡洋艦の艦内を進んでいる。


 通路の床面に埋め込まれた照明が足元から順に前方へ流れて進行方向を示している。突き当りと思しき壁に近づくと、そこは扉だったらしくその個所が無音で開いた。しばらく歩いて何度か扉をくぐると、エレベーターホールのようなところに出た。そこは実際エレベーターホールだったらしく、待つこともなくエレベーターに乗り込むことができた。ここまで乗員らしき人には出会っていない。


 あいかわらず、加速感も減速感もないまま扉の開いたエレベーターから降りると、そこはこの巡洋艦の心臓部、中央指令室ということだった。


 正面と左右は壁の代わりに、宇宙空間が見える。外の景色が映し出された巨大なスクリーンなのだろう。


 いままで前を歩いていたアインさんが一歩後ろへ下がる。


「ようこそ、S2級巡洋艦LC-0001へ」


 イケメンがそこにいる。イケメンの隣には、スレンダー美女。その左右には銃?を持った人が三人ずつ並んでその銃を上に掲げている。警備兵?宇宙船も船ならば陸戦隊なのか?


「LC-0001の艦長を務めますカブラ・ハイナンテです」


 どう見ても日本人顔のイケメン。三十代前半に見える。黒いボディースーツの首回りは詰襟っぽくなっていて、片側の襟に銀ボタン?が二つ並んでいる。階級章かなんかだろうか。帽子はかぶっていない、スポーツ刈り的な髪形。後で知ったが、ヘルメットはかぶっても帽子をかぶる習慣はないらしい。某宇宙戦艦の艦長はかぶっていたが、宇宙船の中じゃ日差しの強いところもないうえに、帽子をかぶっていると汗をかいたりしたら蒸れて若ハゲになりやすいからな。


「どうも、山田です」


「副長のアーサ・ナバイテです」


 こちらも日本人顔の美人さん。二十五歳くらいに見える。こちらは銀ボタンが一つ。やはり、階級章っぽい。よく見ると詰襟は、別の生地で黒い縁取りがされているようだ。艦長さんは黒髪だけど、こちらはやや茶髪でやはりベリーショート。


「山田です。よろしくお願いします」


 二人の着る黒いボディースーツはよく見ると黒に近い紺色で、表面がテカらないように加工されており、魚のうろこ状の模様?が見える。ここで、左右の警備兵が持っていた銃を細い方を持って太い方を下にして床に下した。


「この部屋は、艦の中央指令室になります。艦内のほとんどの操作は、この中央指令室でおこなうことができます。どうぞ、こちらの戦隊司令席にお座りください。慣例で、戦隊司令の席は設けていますが、通常、雷撃戦隊には司令は配属されませんので、現在、当艦の艦長の私が戦隊司令を兼任しております。

 アギラカナ到着までのしばしの間ですが、ごゆっくりしてください」


 今いるところから一段下がった場所には、黒っぽいボディースーツのような体にフィットしたものを着たオペレーターらしき人たちが椅子から立ち上がってこちらを見ている。右手でグーを作って、左肩口に当てている。敬礼のようだ。ひーふーみー……、左右に五人ずつで十人ほどいる。


 俺も答礼として、右手でグーを作って、左肩口に当ててみたら、みんな席についてくれた。


 ここに座っているように言われたので、一段高い場所にある戦隊司令席に座る。アインさんは俺の横に立っている。


 少し前にある席に艦長さんが座る。副長と警備兵たちは、部屋を出て行った。副長さんは副指令室に席があるそうだ。警備の人はその辺を警備するんだろう。よくはわからない。


「ハイパーレーンゲート全正常! 対航艦ありません」


「ハイパーレーンゲートに進入する。戦隊発進!」と艦長さん


「係留ビーム解除! 戦隊、発進!」


「係留ビーム解除! 戦隊、前進微速!」


「ハイパーレーンゲート進入 三十秒前、二十九、二十八、……、三、二、ハイパーレーンゲート進入」


「進入」の言葉と同時に、前方スクリーンにはみ出すように薄赤く見えていたハイパーレーンゲートが消えた。右側面の壁に映し出されていた木星も見えなくなった。ほかの星は変化あったのか? これは微妙なところか。


 星々については、あまり変化を感じられなかった。おそらくゲートの先でもゲートに入る前と同じ方向で艦が出て来たのだろう。


「全艦正常にハイパーレーンゲート通過完了しました」


「戦隊全艦正常」


「戦隊は、これよりアギラカナ第1宇宙港に向かう。戦隊巡航速度まで増速。進路、アギラカナ第1宇宙港!」


「戦隊巡航速度まで増速。進路、アギラカナ第1宇宙港!」


 艦長さんが俺の方を振り返って、


「あと二時間ほどで、アギラカナ第1宇宙港第1桟橋に接岸します。アギラカナ第1宇宙港第1桟橋はアギラカナ艦長専用桟橋ですので、これまでどの艦も接岸したことがありません。わが艦が初めてになります!」


 何だかこの艦長さんは、傍から見ても嬉しそうに見えるし、気合が入っているみたいだ。


 どうも、アギラカナの艦長は特別な存在で、特別待遇らしい。まあ、大きさが惑星規模の宇宙船の艦長ということならさもありなん。


 だけど、権利に伴う義務? そもそも、このアギラカナがどこにどう沈むのかという疑問もあるが、例えば昔の戦艦なんかだったら、艦が沈むときは、一緒に運命をともにするといったようなことは、まさかないよな? 


 いまさらながら、何でみんな日本語が話せるの? 疑問に思って、後でアインさんに聞いたら、みんな俺のために日本語をインストールしてくれたらしい。単位なんかも、日本仕様に変更したそうだ。時刻も日本国明石標準時と同期させたそうで、それで不都合は全くないらしい。地球にない概念なんかは適当に造語を作るのだが、日本語はそういう点で簡単便利といわれた。日本人でよかった。




[あとがき]

なろう版に対し、本作は加筆修正している関係で、誤字脱字があると思いますのでご容赦お願いします。

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