第二話 両手に華とは


 パーキングエリアから出発して三十分。


 ゴールデンウィーク名物、交通渋滞が現れた。高速道路だった為、逃げるやアイテムといったコマンドは存在しなかった。


 戦うにしても魔法なんか使えないから、肉弾戦の持久勝負を持ちかけられる。


 勿論、我々はいい大人なので、その為の用意は十分だった。


 手洗いも済ませてあるし、飲み物も買ってある。問題があるとすれば、親父の流す洋楽の趣味がオレと合わないこと。


 そして大問題なのは、右にタマちゃん、左にみのりという座りになってしまったことだ。


 この見事な采配は、多摩雄さんによるものだった。少しでも一緒に居るように、とは言われたが。くっつく必要性があるのかは、甚だ疑問だった。


 両手に華とはよく言うが、これじゃ迂闊に鼻もほじくれない。無暗に屁なんか出してみろ、休み明けに先輩に言われるかもしれん。まるで監視役みたいだ。


「みのりとタマちゃんって、いつからの仲なんだ?」と親父が言った。


 黙って運転していても、眠くなるだけだ。おじさんとのお話に付き合ってくれ、と親父は付け加えた。


 最近のみのりは知っているが、昔は知らない。逆に昔のタマちゃんは知っていても、最近は知らなかったのだと抜かした。


 オレなんて、どっちも最近仲良くなったばかりだっての。


「タマキとは中学からの付き合いかな」とみのりが言った。


 みのりは小学校は普通の所に通っていたけど、中学になってお嬢様に憧れて私立の学校を希望した。


 そこで友達になったのが、南珠希という女の子。第一印象が、自分が思い描いていたお嬢様ぴったりだったので。友達になりたい、と思ったらしい。


 逆にタマちゃんは小学部から居るので、みのりみたいに積極的な女の子に憧れていたのだという。


「仲良くなってからお嬢様というより、箱入り娘って気づいた」


 左のみのりが小さく笑うと、右のタマちゃんが恥ずかしそうに微笑んだ。真ん中のオレはこんな時、どんな顔をしていいのか分からなかったので、とりあえず愛想笑いをしておいた。


「確かに」と噴出したのは多摩雄さんだった。


「ウチに住み始めたのが、受験前だから、丁度半年前か。最初は風呂の沸かし方も分からなくて」


「おとーさん!」


 タマちゃんが顔を真っ赤にして、後部座席の多摩雄さんの会話を遮った。こういう従姉は珍しい、可愛いものを見れた気がする。


「大丈夫だ、タマちゃん」とオレはグーにした右手の親指を立ててタマちゃんに差し向けた。


「オレなんて詩織さんが来るまで、風呂など沸かそうという発想すらなかった」


 我が家にはバスタブはあるが、稲瀬親子が来るまでただのオブジェと化していた。


 湯舟にお湯を張るようになったのも、風呂場でシャワー以外を使うようになったのも、全て最近のことだと説明した。


「奇遇だな、お前ら」と多摩雄さんが言った。実は境家もタマキちゃんが来るまで、シャワーのみの使用となっていたらしい。


「男の人って皆そうなの……」とみのりが言った。


 安心しろ、ゲイザーやジャッカスも一人暮らしをすればそうなるに違いない。ただ、不潔と思うなよ。


 毎日ちゃんと、シャワーは浴びてたし、全身もくまなく洗ってる。歯も磨く。当たり前でしょう、と言われた。うむ、その通りだ。


「ミナユキ、学校でのタマキって、どんな感じなんだ」と多摩雄さんが言う。


「や、やめてよ。おとーさん」とタマちゃんは顔を赤くする。


 どんな感じだと、問われるでも。みのりと違って、タマちゃんは学校でも普段でも大差はない。


 むしろ多摩雄さんと話している今の方が、よっぽど学校と違うような気がすると説明した。


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