第三話 ジャッカス・ジャッカス・ジャッカス
昔グレていたことを、オレは部員の皆に秘密にしている。
他は父親と、今となっては義母も知っている。ただ、学校の中に知っている人間が一人だけ居る。それがジャッカスだった。
オレの家の状況とは同じでないにしろ、ジャッカスの家庭は当時のウチと似通っていた。
父親が自衛官だった為、家に居ない状況の方が多かった。中学の時、レギュラーを外されてやる気の無くなった彼にとって、不良になるにはうってつけの家庭環境だったのだ。
一つでも状況が似通った相手ならば、隠し事を打ち明けるのに抵抗は無かった。オレは稲瀬みのりの事は伏せて、親父が再婚したということだけをジャッカスに打ち明けた。
こういう時のジャッカスはえらく正直で、悪かったとテーブル越しに頭を下げた。
何故、他の部員はともかく、ゲイザーも知らないのかを問われた。言うタイミングが無かったと言いかけたが、そんなものはいくらでもあった。
「多分、オレが怖かったのは、そういう流れで色々バレてしまう事だったんだろう」
ジャッカスも、ゲイザーには不良だったということを隠している。やつ自身には問題は無いが、奴の親に知れると厄介なのだ。
時々、遊びに行く二人にとって、ゲイザーの家に入れなくなるのは致命的だった。特に天文部は夜に集まることも少なくはないので、猶更バレるわけにはいかない。
「まぁ、……もう、駄目かも分からんね」
南タマキちゃんの時は、単なる偶然で板が割れたって言えたが。今回のは完全に暴力行為だ。
「これで完全に元ヤンだとバレた」
オレがそう言って、テーブルに項垂れた。オレは一枚で満腹だってのに、ジャッカスは三枚目のピザをモリモリ食べていた。これでオレより体重が軽いっていうんだから、詐欺じみている。
「お前、気にしてたのそっちかよ」
ジャッカスの一言にオレは目を丸くする。
「いや、だって、お前に暴力振るったんだぜ」
「あれは違うだろう」とジャッカスはコーラを飲んでそう言った。
「あれは俺がお前に対して無神経な事を言った。それに対してお前が怒った。殴ったわけじゃねーから、セーフ」
「……胸倉掴むのはセーフか?」
「俺がよっぽどの事を言ったって認識されてるなら、……セーフ?」
「ハテナつけるな、不安になる」
「お前、多分、変わったよ」
予想外のジャッカスの発言に、テーブルから起き上がる。このオレの一体、どこの何が変わったというのだ。
「天文部に入ったばかりのときは、胸倉がどうかとかで気にするやつじゃなかった」
部室ではやらなかったが、ゲイザーの前でも普通にジャッカスを引っ叩くとかしていたと言った。勿論、オレに心当たりは無いが、もしかしたら普通にやっていたかもしれない。
「みいなチャンは多分、隠し事が増えたせいで、余計に憶病になってるんじゃね?」
ジャッカスの一言に「そうかもしれない」とも「そんなことはない」とも思えた。
先輩への好意や彼女が居たことを含めると、不良だったこと以外にも今まで隠し事は一杯あった。だから、そんなことはないとも思えてくる。
ただ、今回。新たに増えた秘密は、稲瀬みのりにも関係することだった。だから、そうかもしれないとも思えてくる。
「なぁ、みいなチャン。家に帰りづらいんなら、ウチに泊まってくか?」とジャッカスが言った。これもヤツなりの気遣いなのだろう。
するとポケットの中の携帯電話が、震えていたのに気が付いた。出した瞬間に震えが止まり、家からの着信履歴が重なっていた。気が付いたら、時刻は八時だった。
「サンキューな、ジャッカス」
オレはそう言って、立ち上がる。
「でも、心配してんのが家に居るから、帰るわ」
ごちそうさんと言って、オレはレストランを後にした。
家へと続く緩やかな坂道。外灯が暗い道の先を照らしてくれているのを見て、なんとなくオレは自分と重ね合わせた。
これからも、この道みたく先行きは見えない。だけど、さっきのジャッカスみたいに誰かが灯りになってくれれば、進むことは出来るのかもしれない。
今は少ないのかもしれないけど、いずれ灯りとなってくれる人が増えれば、もっと先が見えてくるのかもしれない。
そこまで考えて、オレは自嘲した。秘密という枷を自ら付けて、そんな人たちを増やせない馬鹿はどこのどいつだよ。
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