第10話 パンツは最高の酒のつまみだぜ

「ここだ」


「お、おお~……」


 たどり着いたのは大きなお屋敷でした。

 立派な門に広い庭。水は出てないけど噴水ふんすいまである。

 何部屋くらいあるんだろうか……

 20くらいあるんじゃないのこれ。

 もしかして、フィロさんって良いとことのお嬢様?


「ご立派なお屋敷ですこと……」


「ただ大きいだけだ。私は引き継いだだけだしな」


 やっぱりお嬢様なのか。


「何人くらい住んでいるんですか?」


「……私だけだ。いや、今日からはお前もか」


 え、この大きなお屋敷にたった一人なの?

 それはそれは……


「さみしいっすねぇ」


「ふ、お前はそう言ってくれるのか。私が当時この屋敷を継いだとき、回りの人々は口をそろえていったよ。若いくせに屋敷なんて持ちやがって、とね」


「はぁ。ねたみですかねぇ。こんなでかい屋敷なんて、手間がかかって仕方がなさそうなのに」


「そのとおりだ。まぁ、今日からは頭のおかしい使用人が出来たからな。多少は片付くだろう」


 えっ。これ全部俺が管理するんすか?

 むりむりむりむり。


「部屋は好きなところを使え。掃除してないからほこりがたまっているだろうが文句は言うな。牢屋よりはましだろう。金は渡すから飯は適当に食え。私は城に行く。鍵は渡しておくから出掛けるときは鍵を閉めろ」


 一気にそう言うとフィロさんは鍵と銀貨を五枚手渡して今来た道を引き返していく。

 こんな得体えたいの知れない人間に鍵なんて渡していいんですかねぇ。

 あ、だから隷属契約したのか。

 主人にあだなすことをしたら、何かしら知らせが行くとか、そう言う何かがあるのかもしれない。


 まぁ何にせよ、流れで寝泊まりするところができたわけだ。

 変わりに大切なものを失った気がするけど。


「さて、ご主人様のためにお掃除でもしますかねぇ」


 待ってろよほこりども、雑巾ぞうきんみにしてやるぜ。


 ……


 …………


 ………………


 終わらねえぇ!

 玄関ホールを掃除するだけで三時間かかったぞ!

 天井のシャンデリアは手付かずだし!

 ていうかどうやってあんなとこ掃除すればええねん!

 ま、まぁ、床と手の届く所は綺麗になったんだしよしとするか……

 普段使ってない所は置いとくとして、どこから掃除するかな。

 風呂とキッチンとリビングかなぁ。フィロさんも自分の部屋まで触られたく無いだろうし。

 一息着いたところで小腹がすいていることに気がついた。

 キッチンには食料品あんまりなかったし、買い物ついでに露店でも回ってみますか。

 おこづかいもあるしね。




「おにーちゃん! 焼き鳥くわねぇか!? うまいぞぉ!」


「そこのあんた! 野菜安くしとくよ! 肉ばっかり食べてないで、野菜も食べないとね!」


新鮮しんせん取れ立ての桃だよー! 甘いよー!」


 この街の目抜通めぬきどおりに来てみると、立ち並ぶ屋台はどこも活気にあふれていた。

 ちょうど晩御飯の材料を買いに来る奥様方をターゲットにしているのだろう。


「おっちゃん。焼き鳥いくら?」


「一本百ベルだよ!」


「二本ちょうだい」


 銀貨を一枚手渡すと、銅貨が八枚帰って来た。


「へい、まいどありぃ!」


 出来立ての焼き鳥にかぶりつく。

 うん。なかなかイケる。ちょっと味が濃いけど。


「にーちゃん! 焼き鳥にはやっぱりキンキンが無くちゃね! 一杯二百ベルだよ!」


 ん? 俺かな?

 声がした方を見ると、ビールのようなものを売る屋台だった。


「おっちゃん、キンキンってなに?」


「にーちゃんキンキンを知らねーのかい? キンッキンに冷えたエールの事さ! 味の濃い焼き鳥を食べたら、キンキンで一気に流し飲まねぇと!」


 うお。そそられるぅ。


「よし! キンキン一杯くれ!」


「あいよぉ!」


 銅貨を二枚渡して木製のジョッキを渡される。


「おっちゃん、このジョッキあとで返せばいいの?」


「おう! 今日中に返してくれ!」


「あいよー」


 焼き鳥をモグモグモグモグ。

 喉が乾いたところで、キンキンを一気にあおる!


「ーーっぷぁ! これだよこれぇ!」


 モグモグモグモグ。


「ーーっぷぁ! 最高ー!」


「にぃちゃんいいのみっプリだねぇ!」


「いやぁ、キンキン最高っすね!」


 そんな俺とおっちゃんのやり取りを見たまわりのおっさんたちが続々とキンキン屋さんにむらがってくる。


「俺にもキンキンくれ!」


「俺にも!」


「俺は二杯だ! 」


 うんうん。繁盛はんじょうするのは良いことだ。

 今日も経済を回してしまったなぁ。


 焼き鳥とキンキンをもってブラブラと歩く。

 お行儀の悪さが、さらにキンキンの美味しさを加速させる気がする。

 すこし歩くと広場に出た。何やら人が集まっている様子だ。


「お、今日は裁判の日か。へっへっへ、にぃちゃんも見学かい?」


 俺の後にキンキンを買ったおっさんがニヤニヤしながら話しかけてくる。


「裁判? 誰か裁かれるんですか?」


「にぃちゃんおのぼりさんかい? この国ではね、市民の財産をおびやかしたり市民の生活を壊したりした官僚かんりょうの罰を市民が決めるんだ。ほら、罪人が出てきたぞ」


 広場の中央にある高台に手枷てかせめられた少女が上がって行く。

 後ろには槍を持った兵士が二人。

 一番上まで登ると、兵士がメガホンを手にして叫ぶ。


「善良なる市民達よ! 今日はこの魔女の裁判を行う! 君達の公正な心で、この魔女の罪を決めてもらいたい!」


 市民たちから歓声が響く中、兵士が声を張り上げる。


「この物は、市民の方々の血税けつぜいを散々に使ったあげく、勇者召喚の儀に失敗した! これは大罪である!」


「なんて奴だー!」

「俺たちの血税をー!」

「金返せー!」


 見物人達はキンキンを片手に口々に野次やじを飛ばす。

 一種の娯楽みたいなものなんだろうなぁ。


「違う! ボクは間違っていない! 失敗なんてしていないんだ!」


「だまれっ!」


 兵士がドンッと槍を床に叩きつけると、少女はビクリとして黙った。


「さぁ、この魔女に厳罰げんばつを与えようではないか!」


「そうだー!」

「厳罰を与えろー!」

「神の裁きをー!」


「今から私が読み上げる刑に、賛成のものは声をあげてほしい! ひとーつ! 死刑!」


 兵士が死刑と行った瞬間、広場はさっきまでの喧騒けんそうが嘘みたいに静まり返った。

 おっさんたちが口々に

「それは可愛そうだよなぁ」

 等と言ってる。

 て言うか見物客おっさんばかりじゃねぇか。


「ひとーつ! 国外追放!」


 ……


「ひとーつ! 禁固20年!」


 ……


「ひとーつ! 減俸!」


 ……


「ひとーつ! 恥辱の刑!」


 ウオオォォォォ!

 おっさんたちが叫びながらキンキンをかかげる。


「この魔女を恥辱の刑に処す! ほら、見せろ」


 兵士が少女の手枷を外す。


「いやだ! 恥辱の刑はいやだぁ!」


「早くするんだ!」


「う、ううぅ……」


 少女はくるりと反対を向きこちらに背を向ける。


 ち! じょ! く! 

 ち! じょ! く!

 ち! じょ! く!


 観客のボルテージが上がりまくってるんだけど。


「ち! じょ! く! ち! じょ! く!」


 思わず乗ってしまった。

 少女は震える手でスカートを握り、まくった。

 可愛らしい熊さんパンツだった。


「ウオォォォォォォ!」

「熊さーーん!」

「罪は許されたーー!」


 おっさん達はキンキンの入ったジョッキで乾杯し、グイッと呷る。


「いえーい! 熊さんさいこー!」


 俺も混ざってキンキンを呷る!

 パンツは最高の酒のつまみだぜ!


 しばらくすると少しずつ人がいなくなり、高台には顔を真っ赤にしてうずくまるボクっ子だけが残されていました。

 平和な国だなぁ。

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