第420話 知識の提供ではなく、一緒に考えることが重要

 週に何度か、先生として働く機会があるが、先生に求められるのは、知識ではなく、思考だと思う。


 もちろん、知識も大事である。ものを教える立場なのだから、教えられなければ仕方がない。しかしながら、それだけでは不充分である。知識を伝達するのであれば、隣に辞書があれば事足りる。人間が口頭で教えた方が、幾分伝わりやすく、効率が良いというだけで、伝わる情報に変わりはない。


 先生にできることは、時間と労力を提供して、学習者と一緒に考えることである。知識の提供は辞書でもできるが、一緒に考えることは、現時点では人間にしかできない。人工知能にも考えることはできるが、人工知能と話していて、ああ、今、彼と一緒に考えているのだな、と感じる人はいないだろう。


 勉強や学習の最終的な到達点は、頭に入れた知識をいつでも出力できる状態になることではない。その知識を使って何を考えるか、つまり、何をするかということである。大抵の場合、誰かとそれをすることになる。世の中にある多くのものは、誰かが一人で作り上げたものではない。やはり、その何かは、人と人とが一緒に考えることで、生み出されたものである。

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