第369話 言語は世界

 言語とは、世界である。


 これだけ聞くと、単なる格好良い言葉という感じがするが、きちんと理由がある。というのも、言語とは、世界に存在する様々なものや、その運動、そして、そのものや運動の様子を表すものの集合であり、言い換えれば、それは世界を代替していることになるからである。たとえば、「リンゴが机の上にある」という状況を表すには、今実際にやったように、文字を並べて示さなくてはならない。このとき、文字としての「リンゴ」は、現実世界のリンゴと同等の存在として処理される。そういう意味で、文字は世界を代替するのである。


 けれど、それだけではない。言語というものは、実は現実世界を超越しもする。具体的には、嘘や仮定がそれに当たる。「人間には指が六本あるんだよ」とか、「もし明日晴れたら、公園に行こう」などと言うこともでき、これらは、現実とは異なることを述べている。そういう意味では、言語は現実世界を超えた、より高次の世界をも作りえるといえるかもしれない。


 ただし、言語化することで生じる弊害もある。それは、抽象概念を記述するような場合で、このとき、人間の内にある概念を言語化すると、情報の一部がオミットされて、却って伝わりにくくなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る