第202話 抽象的な問い

 「英語って何語?」と訊かれると数秒混乱する人がいる(自分もそうかもしれない)。たしかにややこしい文だが、「Xって何語?」のXには日本語の語彙を入れるという条件を思いつけば、すぐに解答に辿り着ける。「机って何語?」とか、「定規って何語?」と訊けば、躊躇わずに答えることができるだろう。それでも分からないのなら、「リンゴって何語?」と訊いてみると良い。それでも「リンゴ(リン語)」と答えたら、余程何も考えていないか、こちらを上回るセンスを持っているかのどちらかである。


 しかしながら、そもそも「Xって何語?」という文には情報があまり含まれていないから、理解しづらいという側面がある。「Xという単語は、何語の集合に含まれる語彙ですか?」と訊けば間違いなく伝わるわけだが、あえてそういうふうに訊かないで、「Xって何語?」と抽象的に訊くからこそ、上記のような混乱を招くのである。実際にも、「X=日本語」という関係が成り立つわけではなく、「X<日本語」という関係だから、「英語って何語?」という質問では、「英語」がXではなく、「英」がXとして問われていると勘違いしてしまうということである。


 言葉は難しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る