第163話 二兎以上追うのが普通

 二兎を追う者は一兎をも得ず、という諺があるが、この諺が成立するのは、酷く瞬間的な動作の場合に限定されるように思える。


 二つのことを同時にする者は、結果的に一つも達成できないから、一つずつやりなさい、というのがこの諺の趣旨だと考えられるが、そもそもの問題として、集中して一つのことしかやらない人間が、この世界にいるのか、疑問である。たとえば、勉強をするときに国語だけ勉強していたら、ほかの教科の学力はいつまで経っても伸びないし、勉強とスポーツを両立させなければ(これを、文武両道というらしい)、健康は維持できないとされている。


 投資をするときには、普通、一つの会社に賭けをするようなことはせず、ほかの会社にも投資して、リスクを分散するのが定石である。二兎を追えば、またその数が増えれば増えるほど、一頭でも兎を捕まえられる可能性が上がるという考え方が、このような行動に表れているように見える。つまり、二兎(もしくはそれ以上)を追う者は、一兎は得られる可能性あり、ということになる。


 しかしながら、たとえば、国語と数学の勉強というのは、二つをやっているように見えても、「勉強」として一纏めにすることができる。結局のところ、諺が言いたいことと、以上の主張は、抽象度の問題として片づけられるのかもしれない。

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