第148話『ミリーの頼まれごと・4』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)148


『ミリーの頼まれごと・4』ミリー    






 お弁当箱の入った巾着袋を抱えて家庭科準備室へ、階段の踊り場から正門が見える。




 遅刻した生徒は、正門を入ったところの守衛室で入室許可書をもらわなければならない。守衛室のカウンターに見覚えのある女生徒……Sさんだ!?


 体調悪いのに大丈夫……?


 この距離でも気配を悟ったのか、わたしの姿に気が付いて、ピョンピョン跳ねながら手を振って来る。


 可愛く健気な姿に、窓から身を乗り出して手を振り返す。


「家庭科準備室行くから! Sさんもいっしょにおいで!」


 我ながら、こういうところはアメリカ人。


 ここをアニメにしたとしたら、顔の上半分を二つのへの字、下半分をノドチンコむき出しの口にして、陽気に叫んでいる金髪女子だね。それで、十秒スポットの予告編になりそう。


 事情を説明すると――わたしもですか?――という表情をするけど、わたしの圧が強いのか、Sさんは大人しく付いてきた。


「体は大丈夫?」


「はい、お弁当張り切り過ぎて、心配かけました」


「そっか、元気ならなにより(^▽^)/」


「でも、なんで家庭科準備室なんですか?」


「ああ、それはね……」


 いきさつを話すと、Sさんも「そうなんですか」と笑ってくれる。


 ほんとうは、目論見なんかあるわけない。なりゆきよ。


 相談にのるとは言ったものの、冷静に考えると、啓介がSさんを受け入れる可能性は低い。


 でも、啓介自身千歳への気持ちが固まっているとも言い難い。


 だからね、Sさんという変数を加えて見れば、結果はともかく、事態は動くと……ちょっと乱暴かもしれないけどね。


「「失礼しまーーーす」」


 二人で挨拶すると『どーーぞ』と先生の声。


「あら、Sさん、間に合ったの!?」


「はい、三時間ほど寝たら元気になりました。休んだら、お弁当無駄になりますし」


「そうね、じゃ、掛けなさいな。家庭科特性のお味噌汁入れてあげる」


「「ありがとうございます」」


「じゃ、お弁当、見せてくれるかなあ(^▽^)」


 お味噌汁をつぎながら杉本先生。


「じゃ、いくよ」


「はい」


「いち、に、さん、でね」


「はい」


 わたしは巾着袋から、Sさんは鞄の中から、それぞれ一人分にしては多すぎるお弁当箱を出した。


「ほほ、たまに作ると量が多くなるのね。はい、お味噌汁」


「「ありがとうございます」」


 わたしのは千代子のお婆ちゃん出してくれた曲げワッパ。Sさんは二段重ねのタッパー。


 ワッパとタッパー、取りあえずゴロがいい。


「じゃ、いち、に……」


「「さん!」」


 日米のお弁当が御開帳になった!


 


 

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