第101話『こんなに痩せてしまって……』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
101『こんなに痩せてしまって……』
おもわずライザップをググってしまった。
だって、今のスタイルで『夕鶴』のヒロインをやる自信が無かったから。
交換留学生のわたしとミッキーを使おうだなんて、もうビビってしまった。
そりゃ、三年も日本に居れば日常会話はペラペラ、元々子どものころからお隣りの日系バアチャンの大阪弁に馴染んでいたので、言葉についての苦労は無い。
でもね、舞台で、たとえ学校の文化祭と言ってもスポットライトを浴びることは別物なのよ。
でもね、元来がミーハーのアメリカ人だから直観的にオモシロイ!と思ってしまう。
思ってしまうと、平均的日本人の倍は豊かな表情筋が喜びの表情を作ってしまいのよ。
で、しっかり台本を読んでみたの。
で、あ~~~~~~~~~(;'∀')なの。
鶴の化身であるヒロインのつうは、与ひょうに頼まれるままに『鶴の千羽織』を織っちゃうの、自分の体の羽毛を抜いてね。
で、やっと織り終って一言こう言うの。
「お~こんなに痩せてしまって……」
ここ絶対笑われる!
けしてデブってほどじゃないけど、骨格的にガッチリしている。
お風呂に入って、すんごく久しぶりに自分の裸を鏡に映してみたのよ。
で、風呂上りに思わずライザップをググってしまった。
とても文化祭までの期間に痩せることはできない。
こんなことなら、出し物を『三匹の子豚』かなんかにしてほしいって思ったわよ。
え、あれなら最初からプヨプヨのブタでしょって?
最初からブタならいいのよ、プヨプヨのプニプニでも人は笑わないわよ。
でもさ、プニプニの鶴ってありえないでしょ!
まして千羽織を織ったあとで「こんなに痩せて」なんて、もうレッドカーペットかエンタの神様とかの世界よ!
それに、元々の火付け役で、わたしをヒロインにしようって言いだして演出までやろうかって八重桜先生はゴリゴリのコミュニストで、反論でもしようもんなら、民主集中制だとか党の決定だとか言い出して梃子でも動かぬって感じよ。
そんなチョーブルーな気持ちで最初の稽古に臨んだわけ。
「じゃ、今日から楽しく稽古しましょう。やってる者が楽しくなきゃ観てる人は絶対楽しくないからね、オッケー!?」
「「「「「「ハイ!」」」」」
「ハイ」
みんな元気に返事する中、わたしだけが蚊の泣くような返事しかできない。
「あら、どうしたの?」
さっそく聞きとがめられてしまう。
「え、あ、いや……『こんなに痩せてしまって……』に違和感ありまくりで」
「ん?」
するとみんなの視線が集中して、こころなしか――あ、そうだよね――と言われたような気がした。
トランプ大統領の心臓を羨ましく思った。
「なんだ、そんなこと気にしてるの」
「で、でも、重大事項なんです!」
「自意識過剰なんだと思うけど。そうね、気になるようなら……その台詞はカットしましょう」
「え?」
十月革命のレーニンの演説写真からトリミングで消されたトロツキーを思い浮かべてしまった。
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