第90話『この酔っぱらい!』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

90『この酔っぱらい!』      






 そりゃあ二人ずついるからよ。


 ビールの泡を飛ばしながらお姉ちゃん。


 部室が二階の広い部屋に替わったことを報告すると、缶ビールかっくらいながら結論付けた。

「交換留学生が二人も入ったんじゃ、おろそかにもできないっしょ。松井さんも攻めどころ知ってるねえ」

 なるほど、ミッキーもミリー先輩も学校に二人しか居ない交換留学生だ。

「それに、二人ともアメリカでしょ。日本はアメリカに頭上がんないからね」

「そうなの?」

「そーよ、自民党がダントツなのはアメリカが付いてるからよ。知ってる? 自民党って大所帯のバラバラだけど親米って点だけでは一枚岩、だから今月の選挙も安倍さんの大勝利なんでしょ……あ、枝豆切れた」

 お姉ちゃんは真っ赤な顔して酒の肴を探しにいく。

「短パンのお尻掻きながら冷蔵庫覗くの止めてくれる」

「だって、痒いの……」


 普段のお姉ちゃんは品行方正なんだけど、アルコールが入ると人格が変わる……にしても、今夜はひどい。

 よく分からないけど、民進党がぶっ壊れたことで仕事に影響があるらしい。組合が連合なんで、それも関係しているらしいけど、わたしは関係しない。だって、くどくど絡まれるのが分かってるから。

 ま、この春まで異郷の大阪で一人暮らし。決まった男も居ないようだし、ハメを外せるお友だちも居ない。

「あーー冷蔵庫の中身ぶちまけるんじゃないわよ……」

「だって、肴がなきゃ飲み過ぎちゃうっしょ」

「わたしのお八つあげっから」

「どこ? お姉ちゃんとってく~」

「あ、わたしが取ってくる」

 酔っぱらいに部屋をかき回されちゃたまんないので、自分で行く。


「はい、ポップコーン」


「すまんねー、ポップコーンてば映画館といえばアメリカだよね……」

「なんでもアメリカなんだね」

「そだよ、戦前の映画かんてオセンにキャラメルってのがスタンダードだったんだど……ね、なんで、アメリカの映画館てポップコーンなのか分かる?」

「知らなわよ。あー、こぼさないでくれる、車いすで掃除って大変なのよ」

「アメリカ人って、興奮すると投げるんだよね、国ごと興奮すると戦争になっちゃうしー……投げるとスクリーン破れるっしょ! 人に当たったらケンカになるしー、んでもってポップコーンだと大丈夫! モノも壊れないし怪我もしないし! でも、日本人てそういうことしないじゃん。それなのにポップコーンてのは、もう骨の髄からアメリカに毒されてるってわけよ……でも、美味しいから、なんでもいいのよさ」

「ハイハイ」

「ハイは一回だけ! ね、さっき二人ずつって言ったよね」

「え、あ、そうだっけ?」

 酔っぱらいの言うことはいちいち覚えてなんかいられない。

「言った! アメリカ人の交換留学生が二人! だからー日本はアメリカに弱いのよ!」

 酔ってるわりに記憶はいい。

「もう一個の二人!」

 え……急には思いつかない。


「車いすが二人よ!」


 あーーミリー先輩もにわか車いすだ。



「日本はね、障がい者には弱いのよ! 気にかけてます! 対策はしっかりやってます! で、大慌てで対面だけは整えて、でもって、ほんとのところは肝心のところは、な~んにもしてくれないのよね! お姉ちゃん知ってるよ、千歳が学校辞めたがってたの……でも、お姉ちゃん、知らん顔してたよね……ごめんね千歳ーーーー!」

「わーー酔っぱらって抱き付くな! ちょ、顔舐めないでよ!」

「いいじゃんいいじゃん、たった二人の姉妹なんだからーーーー!」

「ちょ、ほんとにお姉ちゃん! 留美ネエーーー!!」

「困ったことがあったら、なんでもお姉ちゃんに言うんだよーー! お姉ちゃん、千歳の為ならなんでもやっちゃうからねーーー!」

「こ、困ったことって、いまの酔っぱらいお姉ちゃんだよ! む、胸揉むなーーー!」

「それはダメ、それ以外、言ってみそ、言うまで止めないかんね!」


 うーーーこの酔っぱらい! そうそう困ったことって……あった!


 今度の文化祭で、演劇部は演劇をしなくちゃならなくなったんだ!

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